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2022.10.31

「原子力の日」に改めてエネルギーについて考えませんか
〜次世代に残せるエネルギー源は何かを

皆さんこんにちは井之上喬です。

紅葉の見ごろが多くの観光地から聞こえてくる今日この頃ですが、皆さんいかがお過ごしですか?

新型コロナは、水際対策の緩和で、海外からの訪日客が増えてきました。観光振興策も再開して、首都圏でも週末には日光、箱根、秩父など紅葉の名所を多くの観光客が訪れ、それに伴う高速道路などの混雑のニュースも流れています。

COVID-19の今後については楽観視できませんが、人々の動きは確実に戻ってきている感じがします。

10月26日の「原子力の日」に思う

このブログで以前も触れましたが、10月26日は「原子力の日」でした。改めてどのような歴史があるのか、考えてみたいと思います。

1963年(昭和38年)のこの日、茨城県東海村の日本原子力研究所(現在の日本原子力研究開発機構)の動力試験炉(JPDR)で、日本が初めて原子力による発電に成功しました。また、これに先立つ1956年(昭和31年)に、日本が国際原子力機関(IAEA)への加盟を決めた日でもあることから、10月26日が原子力の日に制定されたそうです。

日本国内で運転中の原子力発電所は、10月20日現在、計6基。関西電力の大飯原子力発電所4号機、美浜原子力発電所3号機、高浜原子力発電所3号機、九州電力・川内原子力発電所の1、2号機、四国電力・伊方原子力発電所3号機です。これらの最大出力の合計は、554万6,000kwになっています。

ちなみに、日本の全発電電力量に占める原子力発電の割合は、2017年が2.8%、2018年4.7%、2019年6.5%、2020年は4.3%、2021年は5.9%で推移しています。

電力は、いうまでもなく私たちの暮らしや経済を支える重要なエネルギー源です。その需給や発電方法などの構成について、政府はおよそ3年ごとに「エネルギー基本計画」を作り、将来の見通しを示しています。

最新版は、2021年10月22日に閣議決定された第6次エネルギー基本計画です。この大きなポイントは、脱炭素に向けて再生可能エネルギーの割合を「36~38%」と、現在の計画から10ポイント以上引き上げた点です。

グリーンエネルギーへの転換「GX」推進は不可欠

世界各地でますます進行する気候変動を少しでも緩和するために、温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)排出量の大幅削減は待ったなしです。

2年前、菅政権は「温室効果ガス2050年実質ゼロ実現」を宣言しました。これに基づき政府は、2030年に温室効果ガスの排出を2013年度に比べ46%削減する目標を掲げています。以前の目標26%削減を大きく引き上げたのです。

実現に向け、石油、石炭など燃焼によりCO2を出す化石燃料から、太陽光や風力などCO2を出さない再生可能エネルギーへとどう移行するか。実現に向けての電源構成を大きく見直したことが、第6次エネルギー基本計画の注目点でした。

2030年度の再生可能エネルギーの割合は、36~38%です。これは、4年前に定められた第5次計画(22~24%)と比べ、10ポイント以上引き上げる高い目標です。

つまり、再生可能エネルギーはこれまでのわき役から、欠くべからざる「主力電源」の一つとなることを目指しているのです。一方、CO2を排出する火力は、現計画での目標56%から41%へと大幅に減らし、脱炭素を加速するシナリオになっています。

菅政権が掲げた温室効果ガス「実質ゼロ」は、「カーボンニュートラル」とも呼ばれます。この実現には、並外れた努力が必要でしょうが、エネルギー・産業分野での構造転換や大胆な投資によるイノベーションの創出といった取組、つまりグリーントランスフォーメーション(GX)に国を挙げて取り組むことが、何よりも重要ではないでしょうか?

ウクライナ戦争と懸念される日本政府の原発政策転換

エネルギー問題というと、心を痛めているのがウクライナの状況です。今年2月に起こったロシアのウクライナへの侵攻、あえてここではウクライナ戦争と表現しますが、長期化の様相で8カ月が経過し、現地では厳しい冬を迎えようとしています。

ウクライナ戦争は、政治、経済など世界のさまざまな分野に影響を与えていますが、その中でエネルギー分野は最もクリティカルな問題となっています。

ウクライナ戦争に端を発した欧州、そして世界規模でのエネルギー危機は、世界にエネルギー・システムの見直しを迫っています。

特に深刻なのは、地理的にも近い欧州です。天然ガスや石油のロシアへの依存度が高く、エネルギー政策の見直しは喫急の課題となっています。エネルギー供給源の多様化とクリーンエネルギーの一層の拡大、そしてエネルギー安全保障の観点からの新しいエネルギー政策と、総合的な取り組みが顕著にみられます。

一方で気になるのは、日本政府の原子力発電政策です。

第6次エネルギー基本計画では、原子力発電について「必要な規模を持続的に活用していく」と、脱炭素の主要電源として今後も一定水準を維持するとしていました。

しかし、岸田政権はウクライナ戦争を契機に、原発推進へと大きく政策転換しようとしています。これは皆さんもご存じのことと思います。

具体的には再稼働、運転延長、そして次世代型原発の開発、原発の新設まで踏み込んだ内容で、経済産業省が推進役になる構図が見えてきました。

つまりウクライナ戦争によるエネルギー不足を契機に、東京電力福島第一原発事故以降、これまでタブーとされてきた原発議論を一気に進めよう、そんな狙いがあるようにも見えます。

しかし大きな問題は、福島第1原発事故に見られるように放射性廃棄物の処理問題が何も解決されないにもかかわらず、「カーボンニュートラル」や「電源の安定確保」といった観点で政策転換が一気に進むことです。  

世界を見ても、原発の最終処理場はフィンランドのオンカロだけ、しかも2基分に過ぎません。

福島第1原発では、今も地下水が原発建屋内に流れ込んで放射性物質により汚染され、その水を処理した水を溜めたタンクは敷地内に増え続けています。政府は思い余って海洋投棄の方針を打ち出すものの、地元の福島県、漁協や隣接する宮城県、茨城県そして世界各国が反対を唱えています。対応は場当たり的、といっても過言ではないでしょう。

根本的な解決法がない中、福島第1原発事故の教訓を生かすのではなく、カーボンニュートラルの切り札として、原発推進に動こうとしているのです。原発から排出されるプルトニウムが消滅するのに、5万年とも10万年とも言われます。これだけの期間、要注意物質を厳重に管理できるとはとても思えず、人類が扱える域を超えているでしょう。さらに廃炉費用も含めると莫大なコストがかかり、割に合わないのは明白です。一方で、欧州での再生エネルギーは太陽光、風力、地熱発電など、既存のエネルギーよりも割安になっている、との報告も上がっています。

このような状況は、さまざまなステークホルダーとの対話や関係構築(リレーションシップ・マネジメント)を重ね、よりよい状態を目指して自己修正も柔軟に行うパブリック・リレーションズ(PR)の視点で見ると、考えられないことです。

改めて水素エネルギーに注目

このブログでも紹介してきましたが、私は以前からクリーンな次世代のエネルギー源として水素エネルギーに注目し、経営する井之上パブリックリレーションズのCSR活動の一環として2009年4月から「水素研究会」を定期的に開催しています。

世界ではグリーン水素の本格導入に向けた技術的、経済的な挑戦が多くの国や地域で行われています。克服すべき課題はまだまだ多いでしょうが、次世代に向けたクリーンエネルギーの柱としてチャレンジする価値は極めて高いと考えています。

水素エネルギーを、これからの日本のエネルギーの柱の一つに位置付けるとともに、さまざまなパートナーシップによる産業として育成する。さらに将来的には新しい輸出資源の可能性も視野に入れた、息の長い取り組みが求められています。

処理問題も解決されておらず、動かすだけ出てしまう、人類の手に負えない廃棄物が生まれる原発の推進から、次世代クリーンエネルギーの柱の一つへと水素エネルギーを位置付ける。この研究開発、実用化推進に国として取り組むタイミングが、まさに今だと確信しています。

私たちの孫の世代、次世代に負の遺産だけは残さない、サステナブル(持続可能)な社会の実現のためにも。

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