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2020.12.28

コロナが生んだ新しい時代の幕開け
~ビジネスが、そして社会が変わっていく

皆さんこんにちは井之上喬です。

新型コロナウイルスで幕を開けた2020年が、もうすぐ終わろうとしています。感染は収まるどころか拡大の一途をたどっています。この新型コロナがもたらす感染症「COVID-19」の出現が、社会や政治、経済の仕組み、人々の思想や価値観までを根本から変えてしまう世界史のターニングポイントであったことは言うまでもありません。新型コロナのこの1年を振り返ってみましょう。

1年前にこんな世界を誰が予想できた?

当初、原因不明の肺炎とされた新型コロナウイルス。中国から世界保健機関(WHO)への第一報は去年の大晦日、2019年12月31日のことでした。

年が明けた1月9日、WHOは中国湖北省武漢市で集団発生した新型肺炎の患者から新型コロナウイルスが検出されたと発表。1月16日には武漢への渡航歴のある日本国内初の肺炎患者が発生したことが報じられました。直後に厚生労働省は新型コロナに関する注意喚起を行う文書をリリースします。ただ、この頃まだ日本では「対岸の火事」と見ていた方も多かったのではないでしょうか。

1月28日には海外渡航歴のない患者が初めて国内で確認されました。同日、日本政府は官報にて、新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める政令を公布。翌日には武漢市から日本人乗客206名を乗せた政府チャーター機第1便が帰国します。そして2月3日、感染者が発生した大型クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号が横浜に寄港します。この時、乗客は下船できず船内に留め置かれたことから、世論の関心が急速に高まっていきました。(下船の完了は3月1日。乗客乗員3711人中700人以上が新型コロナウイルスに感染し、6人の死者が報告されました)

2月11日、 WHOはこのウイルスによる急性呼吸器疾患を「COVID-19」(コヴィッド19)と命名します。感染は、中国のほか、韓国、イタリア、イランへと広がっていましたが、2月24日の時点でWHOのテドロス事務局長は、世界的な大流行を意味する「パンデミック」には当たらないとしていました。

一方、国内ではスポーツジムや屋形船など、閉鎖空間で感染者が発生しました。これを受けて厚労省は3月1日、「新型コロナウイルスの集団感染を防ぐために」を公表。水際対策から小規模クラスター対策へと重点を移していきます。そして3月9日に開かれた政府の専門家会議は、感染に共通する3つの条件として密閉、密集、密接を指摘し、それらを避ける行動を呼びかけます。これがその後の感染対策の標語となった「三密」の始まりでした。

3月11日、ついにWHOはパンデミックを宣言。2日後、日本では新型コロナウイルス対策の特別措置法が成立し、今年開催予定だった東京オリンピック・パラリンピックを、1年程度延期すると決定しました。そして4月7日には、安倍総理大臣が特措法に基づき緊急事態宣言を7都府県に発令しますが、1週間後には、対象を全国へと拡大しました。宣言には、海外のロックダウン(都市封鎖)のような法的強制力はないものの、日本は約1か月半、外出自粛や学校の休校、人が多く集まる施設の使用制限など、広範囲にわたる行動制限を求められることになりました。

緊急事態宣言は5月25日に解除されましたが、ご承知のとおり、その後も元の日常が戻る期待は裏切られました。6月19日に政府は都道府県をまたぐ移動自粛を緩和し、7月22日に観光需要の喚起策である「Go To トラベル」を開始したものの、8月初旬には国内感染者数が再び増加のピークを迎える「第二波」が到来しました。11月から現在に至る「第三波」は進行中で、いまだに収まる気配はありません。12月14日、菅首相は、日増しに増加する感染者を食い止めるためにGo toキャンペーンをきょう28日から来年1月11日にかけて全国一斉に停止すると発表しました。国民的に最も大切な年末年始を対策期間とせざるを得なかった点には、打つ手が後手後手になっているとの感じは否めません。

当社井之上パブリックリレーションズ(井之上PR)はいち早くリモートワークを導入。期間中は原則として出社を禁止して、クライアントとの対応や社内会議もすべてリモートで行っています。5月の緊急事態制限解除後もこれを継続したため、すでに当社ではリモートでの通常業務が常態化しています。4月28日から井之上PRは、当社のこれまでの知見を結集し、かつ危機管理の専門家集団として、全国の企業・自治体などの広報担当者を支援する 「新型コロナウイルスに関する危機管理広報初動マニュアル」の無償提供を開始しました。誰も経験したことのないこの状況を乗り切るため、PR専門家の見地から新型コロナウイルスに関する基本的な広報姿勢や考え方、想定される対応などをまとめたものです。

現在までに全国約1,000の企業や自治体への提供を実現し、PR会社として社会的使命を果たせたと自負しております。現在もダウンロードが可能なので、必要な方は是非ご利用ください。(ちなみにこのプログラムは本年度の日本PR協会の「PRアワードグランプリ2020」で、グランプリに選ばれました

新時代への希望:世界が脱炭素に本腰を入れ始めた

まさにコロナに翻弄された1年でしたが、一方で新しい時代への希望となる動きが加速した年でもありました。移動制限によるリモートワークが当たり前になったことで、東京への一極集中問題にも変化が生じました。東京都から他府県に「転出した人」は、総務省が外国人を含む人口移動の集計を開始した2013年以降、今年5月に初めて転出が超過。6月に逆転するものの、7月から10月まで4カ月連続で転出超過となっています。

出勤の頻度が低くなり郊外へ住まいを求める人や、大手人材会社パソナのように本社を兵庫県淡路島に移転するなど、人も組織もより快適な生き方と環境を求めて選択するマインドになったといえます。これらの変化が、新しいビジネスモデルや新サービスの創出、政策立案や行政システム、法律整備の源泉になることは間違いないでしょう。

さらに大きな動きとして注目すべきは、世界が脱炭素社会の実現に本気で向き合い始めたことです。アメリカでは2050年までに米国のGHG排出量を実質ゼロにまで削減することを公約したバイデン氏が勝利し、欧州連合(EU)も10月末に環境相会合で2050年に実質ゼロにする目標に法的拘束力を持たせる「欧州気候法案」に合意しました。

日本でも、今後の成長戦略として、政府は12月に「2050年カーボンニュートラルに向けたグリーン成長戦略」を発表し、(1)次世代蓄電池技術などの電化+電力のグリーン化、(2)熱・電力を脱炭素化するための水素大量供給・利用技術、 (3)CO2固定・再利用、の3つを重点分野として示しました。

12月4日の記者会見で菅首相は、CO2排出量と吸収量を2050年にプラスマイナスゼロにするための環境投資として「過去に例のない2兆円の基金を創設し、野心的なイノベーションに挑戦する企業を今後10年間、継続して支援」すると表明しています。

ゼロ排出の大きな切り札となる水素については、トヨタによる世界初の水素燃料電池自動車「MIRAI」が12月9日、6年ぶりのフルモデルチェンジとして発表され、大きな話題を呼んでいます。井之上パブリックリレーションズは2009年に会社のCSR活動としてスタートさせた「水素研究会」を主宰し、私自身も「MIRAI」を運転していますが、今回の新モデルはこれまでのFCV(燃料電池車)にない洗練されたデザインとフォルムが特徴で、トヨタの本気度を感じさせます。

しかし、普及の致命的なハードルとなっているのが、水素ステーションがまだ非常に少ないことです。

現在の設置数は日本全国でわずか約130件。東北や西日本には設置されていない県もあり、設置されている都道府県でも数は少なくまばらで、全国規模にはなっていないのが現状です。「鶏が先か卵が先か」の議論となりますが、来るべき水素社会の先駆けとして「MIRAI」が今後のFCVマーケットを利用と供給の両面でけん引していくことを応援したいと思います。

また、上記の水素研究会をきっかけに、水素を内燃機関(エンジン)の燃料として利用するための技術開発や環境整備を目指すベンチャー企業「i Labo」(アイラボ、東京・中央区)が、昨年11月に設立されました。化石燃料の代替としての水素のポテンシャルは非常に大きいと考えています。日本のCO2排出量を産業別に見ると、最も大きな割合を占めるのが電力事業、つまり発電に関する部門で日本全体の3分の1を占めています。日本の主電源である火力発電の燃料に水素を応用することが可能になれば、CO2排出削減の大きな解決策となるでしょう。ガスの液化や燃焼技術はすでにLNGで確立・普及しており、水素への応用も険しくはないでしょう。

折しも12月25日、政府は水素を2050年に主要燃料として全電力の10%を賄う「グリーン成長戦略」を決定しました。言わずもがなですが、脱炭素社会の実現には、政治の力や民間の創意工夫が欠かせません。潮目が変わってきた今こそ、この分野のトップランナーである日本は、産学官が一体となり、海外とも連携を進めながら、日本型モデルを確立し、世界をリードしていくことを期待しています。エネルギー分野には実に多様なステークホルダーが関わっています。規模・立場の違う様々な人・組織との関係構築を通して、目標を達成するリレーションシップマネジメントを主軸とする、パブリック・リレーションズ(PR)の活用が、人類未踏の挑戦を成し遂げるための鍵となるはずです。

2020年もあとわずかになりました。今年も井之上ブログをご愛読いただき、誠にありがとうございました。

2021年が皆様方にとってより良き年となりますよう、心からお祈り申し上げます。

2020年12月28日
井之上 喬

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