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2020.12.11

成長のキーワードは「グリーンとデジタル」
~水素が主要燃料に政策転換、スパコン富岳に見る日本の凄さと可能性

皆さんこんにちは井之上喬です。

新型コロナウイルス感染拡大に翻弄された続けた2020年も、あっという間に師走ですね。

いつもと違う年末年始を迎える準備は進んでいますか。

グリーンとデジタルで大型基金創設と水素が表舞台に

12月4日に臨時国会が閉幕した後、菅首相は首相官邸で記者会見を行いました。

主な取り組み課題は3つ。まず「新型コロナウイルス」については、感染が再拡大する中で追加の対策を打ち出しました。首相就任時に宣言した「2050年までに地球温室効果ガスの排出を実質ゼロ」にする目標は、達成に向け着実に後押しをすると語り、脱炭素に向けた研究・開発を加速するため2兆円の基金創設を表明しました。そして「成長の源泉はグリーンとデジタル」と強調し、官民のデジタル化を促進するために1兆円規模の予算を確保するとしました。その司令塔となるデジタル庁も、来年秋の始動を目指し準備が進んでいます。

これまで環境問題対策は、経済活動の負の側面を補うもの、あるいは企業にとっては負担を生む要因、というイメージも少なからずありましたが、菅首相の方針はこれを一掃しました。つまり、環境に配慮したグリーン投資は、経済活動を促進するものであり、政府はこれを成長戦略の柱に据えるという明確なシグナルを出したのです。

二酸化炭素など温室効果ガスの排出を実質ゼロにするための新技術開発を、官民挙げて推進する。そのために新設する基金は、企業や大学の研究を10年継続して支えると表明しました。これは、国連のSDGs(持続可能な開発目標)の達成目標年次である2030年も視野に入れた方向性と言えます。

絶妙のタイミングで、政府は水素を2030年に日本の主要燃料として年間利用量1000万トン規模を目指す調整に入ったと、12月8日付け日経朝刊が一面トップで報じました。これまでの目標の30万トンを大幅に引き上げ、国内電力の10%(原発30基分)を水素で賄うことで脱炭素の柱とするとしています。新しく菅政権に替わって、エネルギー政策の修正が図られたことは、大いに評価すべき点だと歓迎します。

また、12月9日にはトヨタが新型燃料電池車(FCV)「MIRAI」を発表しました。デザインが一新され、これまでの4人乗りから5人乗りに増席となりました。水素タンクの容量を増やすことで航続距離も650kmから850kmへと延び、東京から広島まで一気に走れるといいます。

水素社会の普及に関しては、井之上パブリックリレーションズでもCSR活動の一つとして2009年から「水素研究会」を私が主宰し、産学官の実務、研究者らを招いて勉強会を重ねてきました。54回に及ぶこれまでの水素研究会の様々な活動も、今回の動きに少なからず影響を及ぼしたのではないかと考えると、長年の活動が報われた感じがします。水素研究会関連の記事が雑誌「財界」(12月9日号)に掲載されました。「財界」のご厚意で下に添付させていただいていますので、ご一読頂ければありがたく存じます。

『2020年12月09日号 財界』P.58-63「内燃機関の水素化も一案!そうすれば、エンジン主体の自動車の既存秩序の活用ができる」(PDFファイル2.5M)

社会課題の解決を加速するには、パートナーシップがカギ

さて、政策が強力に推し進めるデジタルとグリーンを実際に形にしていくためには、現場の研究力、技術力が欠かせません。そのための道具として今後ますます欠かせないのが、スーパーコンピューター(スパコン)です。原子や分子の動きから、素材の設計、機械の動作、社会の動向まで、あらゆることを計算によって高速、高精度に再現し、目標の実現を最短距離で探ることを可能にします。スパコン分野での日本の技術力を世界に知らしめた好例として、「富岳」(ふがく)を挙げたいと思います。

皆さんご存知のように、理化学研究所と富士通が共同で開発したスパコン富岳は、スパコンの計算速度を競う世界ランキング「TOP500」で、2020年6月、11月と連続1位に輝きました。日本のスパコンの連続首位は「京」(けい)が達成した2011年以来、9年ぶりの快挙です。それに加え、スパコンの消費電力性能を示すランキング「Green500」でも2019年、富岳のプロトタイプがトップになりました。

TOP500のランキングは、毎年6月と11月の年2回発表され、富岳は毎秒44京2010兆回(京は1兆の1万倍)と、2位の米国製スパコンSummit(サミット)の約3倍のスピードで圧倒しました。想像もつかない、気の遠くなるような数字の計算速度ですね。

計算速度だけでなく、人工知能(AI)分野で使う計算能力やビッグデータの解析能力など3部門でもトップにランクされ、堂々の4冠を達成しています。

ある専門家は富岳の凄さについて、「車に例えるとレーシングカーを抜き去ったファミリカーだといえます。スピードでも一番、買い物の積載量でも一番という意味です。富岳はこの汎用性を実現しながら、圧倒的首位を獲得しました。幅広く使える特長を生かし、現実空間とネットなど仮想空間を融合した高度な社会『Society5.0』の様々な用途に活用することが政府の目論見です。ハードウェアの開発と同時並行でアプリケ―ションの対応も行い、本格稼働すればすぐにアプリを利用できる環境を作っていたことは特筆されるべき点で、それが今回のコロナ対策への迅速な活用にもつながっています」と語っています。

富岳は、新型コロナウイルス対策に緊急投入されました。テーブル席の会話やくしゃみなどによる唾液の飛沫の拡散を計算予測した成果を、テレビ報道などを通じご存知の皆さんも多いでしょう。

2021年度以降の本格運用では、公募で選ばれた研究テーマをはじめ、気象予測や創薬など幅広い分野での貢献が始まっています。これまでのスパコンのように、高性能であっても計算できる対象、扱える人が限られるのではなく、富岳は高い汎用性で、高性能をより多くの研究・開発に活かせることが大きな強みです。ハード、ソフトの融合を目指す日本のスパコン戦略が結実したといえ、今後さまざまな社会課題の解決に活用されると期待しています。

コロナ禍の中、コンピュータ教育やハンコの電子化などのデジタル化が、日本人の社会生活の身近な存在として急浮上しています。せっかくの高い技術を持ちながら社会への応用・普及は遅々として進まず、日本は世界の中での地位低下、凋落が、メディアで取り上げられがちでした。目的を明確化して最適なパートナーシップを構築し、政府も一丸となって推進すれば世界規模での難しい社会課題の解決に貢献できる。今回、そんな可能性を国の内外に示したことは、一日本国民としてうれしく思います。

最後にパブリック・リレーションズ(PR)の専門家として気が付いたことですが、今回の菅首相の記者会見は、なんと9月16日の就任会見以来、約2カ月半ぶりだったということです。官房長官当時は毎日のように記者会見をしていたイメージがありましたが、首相として情報発信が貧弱なことに、正直驚いてしまいました。

新型コロナ禍が世界を席巻し、地球規模で価値観が大きく変化する時代の中で、国のトップ、そして組織体のトップからのストーリーテリングが極めて重要になっています。菅首相には、日本国民に向け、世界に向け、様々なステークホルダーに向け情報発信の機会を増やしてほしいと思います。

この混迷の時代にこそ、日本国民や世界の人々との間の信頼関係を構築し、絆を深めることを強く望みたいところです。

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