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2009.06.08

水素研究会スタート〜100%CO2のないグリーン水素とは

いま地球温暖化の元凶として、化石燃料による二酸化炭素(CO2)問題が世界の共通課題として急速にクローズアップしています。とりわけ地球温暖化問題がテーマとなった「北海道洞爺湖G8サミット」以降、脱石油を合言葉に、化石燃料からの脱却に拍車がかかり、太陽光、風力、バイオマス等の自然エネルギー及び原子力などの代替エネルギーの開発競争が世界の先進国の間で行われています。

このブログでも以前紹介したことがあるクリーンな代替エネルギー開発の中で、究極のエネルギー源として注目を浴びる水素エネルギーの研究会が先日スタートしました。水素研究会の参加者は、水素開発の専門家と関心の高いジャーナリスト、企業で水素とのかかわりを持つひとなどで構成されています。

意外に身近な水素

水素を作り出すには、水を電気分解する方法が一般的によく知られていますが、この方法は分解するのに必要な電気を何によって作り出すかで、CO2排出量が異なります。電気から水素を作っても、化石燃料から電気を作る時に既にCO2を排出することになり、加えて日本では電気は高く、工業的にはメタンから水素を作っています。しかし、このメタンから作る方法だと安価に水素を作れますが、CO2を出してしまいます。そこで、注目されているのが原子力の一つである高温ガス炉を使った水素生産。

研究会に先立つ今年の2月、日頃懇意にしているジャーナリスト、企業で環境関係の研究者などと茨城県大洗の日本原子力研究開発機構にある「高温ガス炉」を見学しました。これまで原子力と名のつくものには本能的に拒絶反応を示していた私が、そこで見たものは、原子力に対する恐れを根底から覆してくれました。
現在、燃料電池に使われる水素は、上述のように、水蒸気改質法と呼ばれる方法で天然ガス(メタン)から作っていますが、メタンを使えば、石炭・石油よりも少ないとはいえ、前述のようなCO2を排出していることには変わりはありません。ですから究極は、水素を生成する段階でCO2を排出しない水素生産が重要となります。このようにして作られた水素をグリーン水素といいます。

先日の研究会で、これまでの「水素の登場はまだ先」とする概念を一掃するような話を伺いました。それは水素事業に50年以上かかわっている企業の方の話でした。「家庭での水素利用には現在使われている都市ガスシステムをそのまま転用できうる」というものです。現在ガス会社が力を入れているのは、家庭用燃料電池を普及させることで、燃料電池に必要な水素は都市ガス(天然ガス)を使った水素抽出法。

興味深いのは、既存の都市ガスに40?50%でも水素を加えることで、CO2もさらに少なくなり巨大な水素需要が起きるのではないかということです。高温ガス炉で水素製造するには、社会での大量な水素需要が前提条件となるからです。

現在使われている水素は主として、石油精製の過程や製鉄所でのコークスなどから取れる副生水素と前述の天然ガスから作る水素です。水素自体は燃料電池で酸素と結合し、「水」になるだけで、CO2はゼロですが、石油、コークス(石炭)、天然ガスには炭素「C」が含まれていることから、これら化石燃料から水素を作った場合は、グリーン水素とはいえません。

したがってCO2を全く出さない高温ガス炉や自然エネルギーから水素を作れば、水素を作るための天然ガスや石油も必要なくなる。というわけで、CO2削減には一石二鳥の話。エネルギー密度の小さい自然エネルギーとエネルギー密度の大きい原子力による高温ガス炉が役割分担し、水素社会の実現に向けての開発が行われています。

世界最先端を行く高温ガス炉

現在、日本や世界で稼働している原子力発電は、ほとんど軽水炉型、つまりスリーマイル島で使用されていたものと同じもので、300度程度の熱で水を水蒸気にしてタービンを回し電気を作る発電システム。これに対し、高温ガス炉はヘリウムガスを用いて、1000度に近い高温の熱を取り出すものです。

冷却水がなくなる事故が起きた際に、前者は原子炉に水を注入冷却し、治めるのに対し、高温ガス炉は炉の運転をそのままにしておいても、自然に安定・安全な状態に落ち着くシステム。また大型で多くの水を必要とする軽水炉が川や海に隣接したところで建設されるのに対して、小型で山奥でも建設できる高温ガス炉は利便性も高いように見受けられます。

日本の高温ガス炉は、研究炉で5年前に世界に先駆けて摂氏950度を達成しています。世界では以前ドイツが700度を達成していましたが、原発停止により研究を中止。その技術が、南アフリカや中国に移転され、研究・実験レベルでは現在日本を除くと中国が実現温度700度で行っているだけです。

米国は、スルーマイル事故以来開発はストップした状態ですが、ブッシュ政権の終わりからオバマ政権に移行した現在、高温ガス炉で発電と熱エネルギー利用、特に水素製造用の二つの用途を追求する方針を打ち出し、開発を進めるべく法律で定めています。日本と同じ950度を2013年に原型炉を建設しようと計画していますが、この分野での日本の技術は世界一秀逸でその差は歴然。

なかでも、セラミックでウラン燃料を覆った直径一ミリにも満たない被覆燃料粒子球状粒子は芸術品としか表現できないほどのものです。

私が、水素エネルギーに魅せられたのは、2007年秋に地球温暖化に警鐘を鳴らしていた山本良一東大教授とお会いしてからです。翌年箱根での山本さん主宰の研究会に出席し、化石燃料に代わるクリーンエネルギーの開発に国家が真剣に取り組む必要性を感じるに至りました。

20世紀は石油資源をめぐる争いの世紀であったといわれていますが、水素はまさに理想的なエネルギー。日本は歴史上はじめて、水素エネルギー生産国となり、それらの技術を輸出する国になることが可能となるはずです。そのためには国家の意思が働かなくてはなりません。この分野では後発となる米国や他の国々に追いつかれ追い越されることのないように、国による戦略的な意思決定が求められています。

このような新しい流れを創り出さなければならないとき、パブリック・リレーションズ(PR)が有効に働くことは言うまでもありません。

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