アカデミック活動

2008.04.26

地球温暖化へエコ・イノベーションで立ち向かう 〜SPEEED箱根研究会

こんにちは井之上喬です。
ゴールデンウイークに入り、皆さんいかがお過ごしですか?

いま地球が壊れかかっています。特にこの数年世界中で、さまざまな異常気象による災害が発生しています。過去半世紀に及ぶ世界における平均気温の上昇の大半は、人的起源の温室効果ガスによるところが大きいとされ、地球温暖化への対応は喫急の課題となっています。

先日地球温暖化をテーマにした特別研究会(SPEEED箱根研究会)が箱根で開催されました。主催者で中心的な役割を果たしているのは東京大学生産技術研究所の山本良一教授。その山本教授のお招きで、週末を利用したこの研究会に長年の友人である元共同通信の橋本明さんと共に参加しました。

1000年以上も大気を漂うCO2

山本さんは地球温暖化により、地球が危機的状態にあることを長年警鐘し続けているこの分野の第一人者で、SPEEED(Special Project on Eco-Efficiency and Eco-Design)の代表幹事。また環境経営学会や国際グリーン購入学会などの会長も勤め、講演などで東奔西走。福田首相にもさまざまな助言を与えています。昨年秋には自著『温暖化地獄』(ダイヤモンド社)を出版。その内容は多くの関係者を震撼させるもので、「トルコ一国に相当する面積の北極海氷が半年で消滅」するなど、暴走する地球温暖化を告発しています。

この箱根研修会の参加者は、60社を超える電力、電気、自動車、運輸、建設、金融などの日本を代表する企業から送り込まれた精鋭。今年のテーマは「地球温暖化へエコイノベーションで立ち向かうグリーンティピングポイントを越えよう」。2泊3日のプログラム内容も朝8時から、夜9時過ぎまでという過密スケジュールの中、6つのセッションで26の発表と一つのパネル・ディスカッションが行われました。

山本さんは初日のセッションで危機的な地球温暖化の状態を、地球温暖化地獄の1丁目から8丁目に例え、夏期の北極海氷の消滅により1丁目はすでに越えたとしています。ちなみに地獄の2丁目は、2016年頃が予測されているグリーンランド氷床の全面融解。3丁目は、同じく2050年の寒帯における森林の枯死やアマゾン熱帯雨林の枯死と砂漠化などなど。しかし山本さんは最近の気象状況をみていると、これらが早まるかもしれないと警告。

皆さんは私たちが日々の生活や産業活動で排出する二酸化炭素(CO2)が大気中でどのくらい残存しているとお考えですか?シカゴ大学のアーチャー教授によると、大気中に排出された化石燃料起源の二酸化炭素の平均寿命は長く尾を引き、3万年から3.5万年もの間空気中にとどまるとされています。1000年後でも排出量の17-33%が漂い、実に10万年後でも7%が残存するとされています。

山本さんはNASAのハンセン博士の主張を紹介し、このまま何も対策を取らなければ今世紀中に海面の水位の上昇は、5メートル達する可能性があり、東京、ニューヨーク、ロンドン、上海、ムンバイなど世界の主要都市は海面下に水没するとしています。

専門家によると、地球温暖化を放置すれば世界GDPの20%が失われるが、逆に温暖化対策を直ちに行なえば、そのコストはGDPの1%、つまり20分の1ですむと計算されています。

環境技術とデカプリングで世界をリード

パブリック・リレーションズの専門家の視点で特に興味深かったのは、工藤拓毅さん(日本エネルギー経済研究所)の発表。工藤さんは、日本のエコ・イノベーション戦略をテーマに地球温暖化とエネルギー安全保障について触れ、低炭素化が叫ばれるエネルギー政策では、先進国と発展途上国との立場の違いを乗り越えたバランスのとれた枠組みの構築の必要性を強調。また世界共通の問題として考えた時に、科学者が政府と連携しつついかに社会との対話を深めていくべきかについて語っていたことです。

山本教授が言うように、これまで経済活動では資源エネルギーの消費による二酸化炭素排出が前提。このような構造ではサステナブルつまり持続可能な社会を実現することはできません。そこで新たに経済発展を維持し、資源エネルギーの使用量と二酸化炭素の排出量を減らす処方箋が必要となります。山本さんはこのような考え方をデカップリングとし、これまで同じ方向を向いていたベクトルを分離(デカプリング)させ、異なった方向を向くようにすべきだと訴えています。その実現のためには、革新的な技術革新と新たなビジネスモデルの開発が急がれているといえます。

今年の7月に開催されるG8洞爺湖サミットでは、地球温暖化危機を回避するために必要な低炭素、循環型共生社会の実現のために、新たな思想と枠組みが必要とされています。日本が国際的なリーダーシップがとれるかどうか注目が集まっています。
太古の昔から人類は大自然の脅威に対しては無力な存在でした。しかし石油文明を手にした人類は、成長という飽くなき欲望の果てに自然の秩序を破壊しつくそうとしています。

江戸時代、循環型社会を実践してきた日本には、世界をリードするさまざまな環境技術が蓄積されています。しかしながら、1992年のリオデジャネイロで開かれた「国連環境会議」をスタートとし、日本主導で進められた京都議定書の発効(2005年2月)から3年の年月が経ったいま、米国や日本の対応はEUなどと比べ大きく遅れをとり、いま世界はさまざまな試練に直面しています。

地球的規模の新しい変革をスムーズに行なうには、多様な視点を持ったパブリックとの関係構築を行なうパブリック・リレーションズが不可欠となります。危機的な状態の中で、実務家に寄せられる期待と課せられた責任は大きいのです

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