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2014.11.27

燃料電池車(FCV)が拓く新産業に期待〜水素社会実現に向け日本が世界をリードしよう

皆さんこんにちは井之上 喬です。

先週は自動車業界そしてエネルギー業界にとって、エポックメーキングな出来事がありました。

それは「究極のエコカー」とも称される燃料電池車(FCV)で世界に先駆けトヨタ自動車、本田技研工業が相次いで発表したことです。
FCVの実用化は単に自動車に留まる話しではなく、水素を使った新しいエネルギー社会、新しい産業が創出される可能性が大きく広がったことを物語っているともいえるからです。

燃料電池や水素の活用は、自動車だけでなく家庭向けの定置型燃料電池や水素発電などにも期待できます。究極のクリーン・エネルギーといわれる水素は水を電気分解して作りだめすることが可能で、またコークスや下水道の汚泥を使って作るなど、多様な製造方法でエネルギーを安定的に確保することが可能になると言われています。

電気は貯めておくことはできませんが、水素は貯蔵することが可能で今後のエネルギー政策上も重要な存在だと思います。その水素社会のきっかけになるのが、今回のFCVかもしれないと考えています。

トヨタ、ホンダが世界をリードするFCV開発

トヨタ自動車は11月18日、日本科学未来館(東京都江東区)で世界に先駆けFCV「MIRAI(ミライ)」(写真左)を12月15日に一般向けに販売開始すると発表しました。その前日の17日には、ホンダも2015年度中にセダン型のFCV(写真右)を発売する、と発表しました。

トヨタの加藤光久副社長は記者会見で「ミライはハイブリッド車(HV)プリウスを超えるイノベーションだ」と語ったそうです。ホンダの伊東孝紳社長も「2030年ぐらいには(FCVが)たくさん走っている光景を夢見ている」とハイブリッド車、電気自動車(EV)に続く次世代のエコカーとしての期待の高さを表していました。

まずFCVとはどのような自動車なのでしょうか。わかりやすくまとめると、ガソリン車のエンジンとガソリン燃料タンクの代わりに、モーター、そして水素から電気を作るFCVの心臓部ともいえる燃料電池スタック、水素貯蔵タンクを搭載した自動車です。

水素と空気中の酸素を化学反応させ生成した電気をモーターとバッテリーに伝え、クルマを動かす力になり、車外に排出されるのは水だけで、排ガスは一切発生しない仕組みが「究極のエコカー」といわれる所以です。

トヨタ、ホンダ、日産など日本勢に加えドイツのBMW、ダイムラー、米国のゼネラル・モーターズ(GM)、フォードそして韓国の現代自動車なども開発にしのぎを削っていますが日本勢が先行した形になっています。

トヨタが発表したミライは、4人乗りのセダン型で価格は723万6000円(税込)ですが政府の購入補助金(約200万円)を充てると、購入者負担は約521万円になります。さらに東京都は約100万円を購入者に補助する予定で、その場合は約400万円強で購入出来ることになります。

10年前には1台1億円とも言われたFCVですが、研究開発の成果で短期間に性能、価格を市販できるレベルまでに引き上げた日本企業の底力には改めて敬意を表したいと思います。

発表によると、ミライの国内販売目標は2015年末までに400台、2015年夏以降に米国市場にも投入、2017年末までに3000台以上としています。欧州は2016年頃までに50?100台を販売する計画だそうですが、「全く新しい車なので立ち上がりは1台1台を丁寧に造り込んでいく」(加藤副社長)と成熟したガソリン車の生産とは異なる取り組みになるようです。

FCV周辺も含め新産業創出への期待

デロイトトーマツコンサルティングの調査では、FCVの国内市場は2020年に約5万台となり経済波及効果は約8000億円、それが2025年には約20万台で同2兆2000億円、そして2030年には約40万台の市場規模になり経済波及効果はなんと約4兆4000億円に急拡大すると予測しています。価格も2025年には約350万円とハイブリッド車並みに下がるとみています。

自動車完成品だけでなく自動車部品を中心とするエレクトロニクス、炭素繊維に代表される素材、化学、そしてプラントなど周辺産業への波及効果も見込んでいます。

その新しい市場に向けて11月には、岩谷産業がFCV向け水素の販売価格を1Kg当たり1100円とハイブリッド車並みの燃料価格にすると発表、東レはFCV向けに炭素繊維の供給を発表、川崎重工も水素を大量輸送しやすくするための水素液化設備を開発した、と発表するなど周辺産業も大いに盛り上がりを見せています。

しかし普及にはハードルも多く、まずは水素インフラの整備が不可欠になってきます。特に現時点で約40カ所の設置しか決まっていない水素ステーションの拡充が急務。これに対しては政府も1カ所あたり5億円程度かかる建設費の半分を補助、水素ステーションの設置加速を後押しする方針です。この分野でも岩谷産業やJX日鉱日石エネルギーが商用ステーションの設置を発表、インフラ整備も進みそうです。

2020年にオリンピック開催を控えた東京都も、11月14日に発表した2014年度の補正予算案にFCV購入や水素ステーション設置に対する補助などに40億円を計上しています。都では2020年までに都バスを含めFCVを都内で6000台、水素ステーション設置35カ所をそれぞれ目標にしており、オリンピックを契機に環境都市東京のイメージを世界に向けて発信するとしています。

水素は、水を電気分解してつくる水素(CO2ゼロ)やナフサや天然ガスと水の水蒸気改質よりつくる水素、石油精製、製鉄プロセスやソーダ工業などから抽出される副生水素、また木片,ゴミや下水汚泥などのバイオマスを使って取り出す水素など、多様な水素製造方法があります。

究極のエネルギー水素は、エネルギー小国の日本が初めて膨大なクリーンなエネルギーを得る可能性を持つ夢のエネルギーです。私の経営する会社井之上パブリックリレーションズでは、5年半前に1日も早い水素社会の実現を願って「水素研究会」をスタートさせました。

自社のCSR活動の一環として立ち上げたこの研究会のメンバーには、同じ思いと考えを共有する水素開発専門家に加えジャーナリスト、企業で再生エネルギーや水素関連事業を担当するエグゼクティブなど、十数名の個人の資格で参加する人たちで構成され、2カ月に一度、開催されています。

いまFCVの開発で世界をリードする日本には「水素社会」の実現に向け、欧米各国と連携しリードしていくことが求められているのではないでしょうか。

水素エネルギーは資源に恵まれない日本にとって、新たな産業の創出も含め大きな可能性を秘めていると思います。水素社会の実現に向けた国を挙げての取り組みが今まさにスタートラインに着いたと言っても良いのではないでしょうか。パブリック・リレーションズ(PR)の専門家として夢の実現のためにその役割を果たしてまいりたいと思います。

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