パブリック・リレーションズ

2007.09.08

イノベーションの真の意味

こんにちは井之上喬です。
被災地に多くの傷跡を残した台風9号。皆さんお変わりありませんか?

先週、グローバルを視座に置いたイノベーションの創出で日本再生に取り組むプロジェクトについてお話しました。

その中である米国企業経営者が、日本の経営者と米国経営者のイノベーションについての取り組み姿勢の違いを語ったことを紹介しましたが、この言葉の中に日本再生のための一つのヒントが隠されていると考えています。
イノベーションとは何でしょうか。

イノベーション=リスクをとること

広辞苑を紐解くと、イノベーションとは、「生産技術の革新だけでなく、新商品の導入、新市場・新資源の開拓、新しい経営組織の実施などを含む概念」と出ています。つまり、イノベーションとは、既存のモノやシステムからの飛躍をはかり、 新技術や新しいアイデアを採り入れ社会的意義のある新たな価値を創造し、社会に大きな変革をもたらすことを指します。

この用語を初めて生み出したのは、オーストリア出身の経済学者 シュンペーター。彼は1911年出版の自著『経済発展の理論』の中で、景気循環の波を引き起こす要因としてイノベーションを中心概念に据え、波動を描く経済活動を理論化しました。その理論の中で、イノベーションの担い手を企業家(アントレプレナー:entrepreneur)と呼び、経営資源を全く新しく組み合わることで、新たなビジネス創造の主体としました。

前号でも紹介したように、イノベーションにはリスクが伴います。特に技術の場合、日本の組織体は革新的技術を積極的に取り入れ変革を起こすことに消極的です。自分たちに理解できる技術の開発には飛び込んでいくものの、その領域を超えた理解不能と思われる技術や手法の開発・導入には極めて保守的です。失敗しリスクを取ることを極端に恐れるからです。

日本は封建制度のもと何百年もの間「失敗を恥とし、切腹して命を持ってお詫びする」に象徴される思想文化が醸成されてきました。戦後、欧米文化が街に溢れる時代になっても、働き手は終身雇用のなかで多くの同期と競争し勝ち残り、数十年かけて頂上まで到達するシステムが主流を占めてきました。

そのため、人の評価は減点方式。その結果として、人は失敗を極端に恐れ、こじんまりとした個人ができ上がります。失敗を恐れる傾向は、いまや日本人のDNAの中に奥深く組み込まれ、受け継がれているのでしょうか。そんなことはないはずです。

失敗が許される文化

OECDなどの統計によれば、日本は2003年、国民一人当たりのGDPは35,008ドルで世界一位にランクされるもののその後順位を下げ、2005年度は35,650ドルで14位まで下落。

国際労働機関(ILO)によると、2006年の1人当たり国内総生産(GDPは1990年価格)でみた労働生産性では、米国が首位。欧米先進国が上位を占めるなか、日本は16位。またスイスのIMD(国際経営開発研究所)が毎年発表する国際競争力ランキングでは、日本は91年までは首位を確保していましたが、昨年は16位、今年は24位と、急速に順位を落としています

また現在、国と地方を合わせた財政赤字の累積債務は1000兆円を超え、対名目GDP比は先進国の多くが対名目GDP比60%以下に対して、日本は約200%。深刻な不況に苦しんだ70年代の英国でさえ対名目GDP比の100%程度であったことを考えると事態は極めて深刻です。

これらのデータが示すものは日本の明らかな国力低下です。日本における現状を打破し競争力を発揮するシステムの構築が火急の問題であることは明白。

先週、日本再生のためのソリューションは、イノべーションを通して日本を国際舞台で高付加価値の技術やサービスを提供できる国として構築することであると述べました。日本のイノベーションの実現には、その中枢にパブリック・リレーションズを導入することが不可欠です。

短期的、中期的な視点からは、双方向のコミュニケーションを通して、真のイノベーションの意義や魅力を国民をはじめ、技術、経営、法制、財務などあらゆる分野における内外の有能な人材に広く認知させなければなりません。技術者とファンド、研究者と起業家といった新しい関係を構築し、優れた技術やサービスをいち早くビジネスモデル化するなど、パブリック・リレーションズの立場でビジネスを促進させることが可能です。

長期的には、リスクを恐れない「失敗が許される文化」の土壌を醸成すること。様々なレベルでの教育を通して自ら変革を起こすことのできる人材や組織文化を育てることなどをパブリック・リレーションズにより促進します。

シュンペーターが言うように、イノベーションの担い手となりリードしていくのが企(起)業家であるならば、企業や組織のトップに目的達成のために助言することを求められるPRの実務家は、イノベーションを実現させる重要な役割を担っているといえます。日本の再生に残された時間はないのです。

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