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2022.03.11

ロシアのウクライナ侵攻と日本のエネルギー安保
~未来を見据えたエネルギー政策転換の好機に

皆さんこんにちは井之上喬です。

ロシアのウクライナ侵攻は、先行きの見通しが立たず混迷の度合いを増しています。

ウクライナからの難民は日を追うごとに増加しており、一般市民の困難さは想像を絶するものと察します。

一日も早い安寧が訪れることを、皆で心より祈りたいものです。

あの日から11年

今年も3月11日を迎えます。東日本大震災、そして東東京電力福島第1原発事故が発生した「あの日」から11年が経ちました。

まだまだ多くの方々が、困難の中で頑張っていらっしゃると思います。NHKはこの日を前に、岩手、宮城、福島の被災地3県の沿岸と、原発事故による避難指示が出された地域に住む1000人にWEB上でアンケートを行いました。発表されたその結果を見ると、11年を経てもまだまだ多くの課題が残っていることを痛感します。

それによると、住んでいる地域の復興状況について、「復興は完了した」が14%、「思ったよりも進んでいる」が29%、「思ったよりも遅れている」が29%、「全く進んでいない」が6%、「わからない」が21%となっています。

県別で見ると、「復興は完了した」、「思ったよりも進んでいる」を合わせた割合は、岩手県が50%、宮城県が45%、福島県は37%の順です。

この結果について専門家は、長期的な復興における重要なポイントは経済の回復とつながりの再生によって地域を活性化していくことだが、新型コロナの影響もあり、復興が加速していない現状が浮き彫りになっている、と分析しています。

3県の中、福島県の復興が進んでいると感じる人が少ないのは、やはり東電福島第1原発事故の影響が大きいように思えます。

東電福島第1原発は今も、廃炉、汚染水の処理、放射性廃棄物の処理など難題が山積しています。正念場はこれから、といっても過言ではありません。

国のエネルギー政策に翻弄され続けてきた被災地の深い苦悩が、この結果にも表れているように感じます。

ウクライナ危機と地球温暖化とエネルギー問題

国際的な出来事でも、国のエネルギー政策という観点から大いに考えさせられることがありました。

まずはウクライナ危機です。ロシアに対する経済制裁の影響で、欧米企業によるロシアでの石油・天然ガス開発事業からの撤退表明が相次いでいること。そしてもう一つは、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書発表です。報告書は、地球温暖化による私たちへの悪影響がさらに加速していると、より広範で精度の高いデータの裏付けにより警鐘を鳴らしています。

ウクライナ危機では、イギリスの石油大手BPがロシア石油大手ロスネフチの保有株を売却し、ロシアの事業から撤退すると発表したのに続き、シェルがサハリンで進むエネルギー開発事業「サハリン2」から退くことを表明しました。そしてアメリカの石油大手エクソンモービルは「サハリン1」から手を引きます。欧米企業による、ロシアでのエネルギー事業からの撤退表明が、矢継ぎ早に続いています。

日本は言うまでもなく、エネルギーの多くを海外に依存しています。そのため以前から、エネルギーの確保と安全保障の問題が議論されてきました。

ロシア関連では、三井物産、三菱商事がサハリン2に出資をしています。しかし、シェルの撤退表明を受けて簡単に右に倣え、とはいかないようです。萩生田経済産業相も、日本企業が撤退することは簡単だが、「その後をどこかの第三国が権益を取ってしまったら、制裁にはならない」と述べるなど、資源のない日本の国民生活や経済を守るエネルギー安全保障を重視する姿勢を示していました。それでも、8日には、「エネルギーの安定供給と安全保障を最大限守るべき国益の一つとして、G7(先進7か国)とも歩調を合わせて適切に対応したい」と述べるなど、国際協調とのバランス点を見つける苦慮がにじみます。

私の考えですが、領土問題を抱えてのロシアでのエネルギー開発事業への参入には以前から否定的でした。ことロシアとの関係に関しては、北方領土問題が解決されていない中では、いかなる経済協力も控えるべきだとの個人的な見解を抱いています。旧ソ連は、第二次大戦末期に、1941年4月に締結された日ソ不可侵条約(正式には日ソ中立条約)を一方的に破り、対日参戦しました。そのような旧ソ連外交を継承するロシアとの関係は、特別に構築されるべきだと考えているからです。

待ったなしの地球温暖化対策

一方のIPCCの報告書ですが、産業革命前に比べて気温が2度上昇すれば、今世紀末までに干ばつなどで慢性的な水不足に陥る人口が8億人から30億人にものぼると予測しています。他にも、食糧生産や健康、生物種への悪影響が起こり、特に脆弱な人々に及ぼす弊害は、気温上昇が進むほど大きくなると呼びかけています。

IPCCは、2050年ごろに二酸化炭素とほかの地球温暖化ガス排出量を大幅に削減して実質ゼロにしない限り、21世紀中に1.5度と2.0度の両方を超えた地球温暖化が加速するとしています。ロシアのウクライナ侵攻は、欧米特に西欧諸国のカーボンニュートラル戦略にも影響を及ぼしています。地球環境への悪影響という視点からも、大変憂慮されます。

日本はどうでしょうか。政府はエネルギー基本計画で、カーボンニュートラルを実現するために2030年には再生可能エネルギー水素・アンモニア、原子力の非化石燃料の比率を2019年の24%程度から59%程度へ引き上げるとしています。目玉の再生可能エネルギーは18%程度から36~38%程度に大幅に拡大する見通しですが、一方で、放射性廃棄物などの問題を抱える原子力も6%程度から20~22%に増やす計画です。

ロシアのウクライナ侵攻は、否が応でも日本のエネルギー安全保障、エネルギーの安定確保を真剣に考える機会となっています。個人的には、原発に頼るのではなく、水素や太陽光、風力などの再生可能エネルギー、それも地産地消を基本にしたエネルギー政策に大きく舵を切る、またとないチャンスだと感じています。

実現に向けて、国を挙げての大きな国民的議論が必要かもしれません。そのためにも「倫理観」をベースとした「双方向性コミュニケーション」と「自己修正」機能よるマルチステークホルダーとのリレーションシップマネージメントである、パブリック・リレーションズ(PR)の役割りが欠かせない、と感じています。

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