パブリック・リレーションズ

2005.04.25

パブリック・リレーションズ(PR)を成功に導くキーワード1.倫理観(Ethics)

こんにちは。井之上喬です。
4月11日に、「パブリック・リレーションズ(PR)とは、個人や組織体が最短距離で目的を達成する、『倫理観』に支えられた『自己修正』と『双方向性コミュニケーション』をベースとしたリレーションズ活動である」と私なりのパブリック・リレーションズ(PR)の定義を紹介しました。

この定義を支えるキーワードは、「倫理観」「自己修正」「双方向性コミュニケーション」です。これらの概念は、日本社会にあまり深く根付いていない感がありますが、パブリック・リレーションズ活動を成功に導くために欠かせない要素で、パブリック・リレーションズの生命ともいえる部分です。定義の理解をより深めるために、これから三回にわたり、キーワードを一つひとつ掘り下げてみたいと思います。

今回は倫理観についてです。倫理観という言葉はよく耳にしますが、なんとなく使用されることが多く、むしろ明確な意味を持って使われることのほうが少ないかもしれません。倫理観を誰にでも解りやすく端的に言い表すと、「人間の行為における善・悪の観念」で、「倫理学」は善・悪の観点から人間の行為を研究する学問といえます。

このブログでは倫理学の持つ間口の広さと、深い奥行きについて詳細に説明することはできませんが、岩波書店の『哲学・思想辞典』によると、倫理学は古代ギリシャのソクラテス(前470/469?前399)にその萌芽がみられ、「………人間はただ生きることではなく、よく生きることだ」としています。孫弟子のアリストテレスも、人間のよい生き方を問題にしましたが、人間の善や幸福を探求する哲学部門に初めて「倫理学」という名を与え、人間の「見る」「なす」「作る」の三つの働きに対応させて、哲学を「理論学」「実践学」「制作学」に区分し、倫理学をこの中の「実践学」に属すると分類・規定しています。今日の哲学を「理論哲学」と「実践哲学」に大別し、倫理学を実践哲学に位置づけられているのは、この分類に由来するとしています。

その後、中世のキリスト教(アウグスチヌス、トマス・アクイナス)を中心とした倫理思想、近代初頭の倫理思想、近代イギリス倫理思想(ホッブス、J・ミル)そして近代フランス(ルソー)、ドイツ(カント、ヘーゲル)の倫理思想と、歴史と共に変遷していきます。

私たち人間は本質的に「かかわる」存在です。ですから、人間の最も深い体験は他者との関係です。他者とかかわることで私たちは今の自分自身を作り上げているといえます。このことは、個人が集合する組織体にもあてはまります。

パブリック・リレーションズになぜ倫理観が欠かせないかといえば、個人も組織体も、他者やパブリック(一般社会)との関係を築く上で、普遍的な倫理的価値観をシェアし実践することが、結果として最短距離で目標達成を可能にする大きな要素になるからです。不祥事が繰り返される日本社会で、倫理観に基づく思想を持ち行動することは、時には回り道に見えても、長い目で見れば、お互いが利益を享受し持続的に発展できるサイクルを築く近道となるのではないかと考えています。

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