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2020.11.04

菅首相の「温室効果ガス2050年実質ゼロ実現」宣言を考える
~新たな発想で一人ひとりが地球環境・エネルギー問題を考え、取り組みを

皆さんこんにちは井之上 喬です。

霜月を迎え、全国各地からの紅葉の便りとともに寒さも増してきました。

皆さん、健康管理には十分留意しましょう。

さて、次の4年間、世界をけん引する米国大統領を選ぶ作業が進行中です。多くの課題や問題を抱える世界は、新大統領の登場によってどのように動いていくのでしょうか?いま全世界の目が米国に注目しています。

所信表明演説での宣言の重さ

一方の日本では10月26日、就任から40日が経った菅義偉首相の所信表明演説がありました。皆さんはどのように感じられたでしょうか。

所信表明では、新型コロナウイルス対策、アベノミクスを継承する経済政策、デジタル庁設置を軸とする行政のデジタル化の推進など、いくつかの柱が示されました。私が特に注目したのは、二酸化炭素を中心とする温暖化ガス(温室効果ガス)の排出量を、2050年までに実質ゼロにする目標を宣言したことです。

2050年に温室効果ガスの排出実質ゼロを目指す背景にあるのは、世界全体の排出削減を目指す国際的な枠組みの「パリ協定」です。2015年に採択され、気候変動を引き起こす地球温暖化を抑えるため、産業革命以前からの世界の平均気温の上昇を2度未満、できれば1.5度未満に抑える、という目標を設定しました。それには、今世紀後半の世界全体の排出量を実質ゼロまで下げることが必要だと言われています。

世界各国はすでにその目標に沿った動きを見せています。EU(欧州連合)は2019年に、2050年に実質ゼロの目標を掲げたほか、中国も9月、2060年に実質ゼロを目指すとしました。米国トランプ政権は今月4日にパリ協定から離脱しますが、大統領選の結果次第では政策も大きく転換するでしょう。

日本政府はこれまで、温室効果ガスの削減については「2050年に80%削減」を目指すと示すにとどまり、実質ゼロとする時期は明示してきませんでした。今国会での菅首相の「2050年までの温室効果ガス排出実質ゼロ」宣言と、それを聞いた国会議員の皆さんの大きな拍手は、これからの新たな道筋を示すとともに、目標実現に向けた日本の取り組み姿勢を世界に表明したといえます。

このブログでも何回か触れていますが、地球温暖化による環境へのダメージは世界各地で顕在化しています。大規模な干ばつや台風被害、山林火災などが頻発し、その背後には気候変動が影響を与えていると、多くのニュースが伝えています。

さらに、高緯度地域で永久凍土が溶けて放出されるメタンなどの温室効果ガスは温暖化に拍車をかけ、さらに「冷凍保存」されていた病原菌・ウイルスが地表に現れることで、第2第3のコロナ禍を招く恐れさえあります。まさに地球は病み、崩壊の寸前にいることを皆さんも実感されているのではないでしょうか。

地産地消型エネルギー開発への転換を

温室効果ガスの排出実質ゼロ実現には、官民で年間10兆円超の投資が必要との試算もあるほどで、高い壁であることは事実でしょう。しかしながら、日本発の革新的技術により、温暖化対策を新たな経済成長につなげる、まさにピンチをチャンスにする機会でもあります。創造的な挑戦が不可欠です。今回の菅首相の宣言がそのきっかけとなってくれると考えています。

そのためにまず変えるべきは、エネルギー源のあり方です。これまでの火力を中心とした大規模集中型のエネルギー開発から、地域の特性に合わせて活用可能な再生可能エネルギーを使った、地産地消型のエネルギー開発への転換には、大きなポテンシャルがあると思います。

具体的には、太陽光、風力、地熱、中小水力、バイオマスの活用や水素、蓄電池などの最大活用です。エネルギー源の多様化に加え、事業のあり方もこれまでの産官学連携だけではなく、地域、個人なども参加したパートナーシップへと広げるなど、柔軟、多様な発想で事業を創りだしていくことがカギになるでしょう。

私も以前からクリーンな次世代のエネルギー源として水素エネルギーに注目し、経営する井之上パブリックリレーションズのCSR活動の一環として2009年から「水素研究会」を定期的に開催しています。

この水素研究会を起点にして、2019年11月には、水素エンジン開発に取り組むiLabo(アイラボ、東京・中央区)が誕生しました。私はファンディングメンバーの1人として、パブリック・リレーションズの大きな柱であるリレーションシップ・マネジメントの手法を生かしてその事業展開を応援しています。

SDGs、ESG投資の世界的流れに乗り遅れるな

「誰一人として取り残さない」とする理念に基づき、こちらも2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)。今年から、2030年の目標年に向けた「実行の10年」に入っています。

SDGsには17の目標があり、地球環境に関するものは、「目標7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、「目標13:気候変動に具体的な対策を」、「目標14:海の豊かさを守ろう」、「目標15:陸の豊かさも守ろう」、などが含まれています。

SDGsと表裏一体の関係にあるのがESG投資です。ESG投資は、環境(Ecology)、社会(Society)、ガバナンス(Governance)を重視した経営を行う企業に対する投資のことです。

サステナブルな投資を推進する国際アライアンスGSIA(The Global Sustainable Investment Alliance)の報告では、運用資産に占めるサステナブル投資は欧州で約5割、米国で4分の1を占めるのに対し、日本は2割弱(日本語訳資料p9)と水をあけられています。金額ベースでは、欧米は世界全体の8割なのに対し、日本はわずか7%です。

日本の環境対策は、世界標準の動きに取り残され、これまでの消極的な姿勢は国際的にも際立った感がありますが、今、大きな転換期を迎えていると感じています。今回の菅首相の表明をきっかけに、オールジャパンで目標達成への英知の結集が必要ではないでしょうか?

いま地球は深刻な病を患っています。一人ひとりが出来ることから、地球環境を守る取り組みを始める時です。そのためにもさまざまなステークホルダーとの良好な関係を構築し、自己修正を重ねながら新たなパートナーシップで社会課題の解決を実現できるパブリック・リレーションズ(PR)の役割が、ますます重要になっています。

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