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2020.10.12

連鎖する自殺をいかに防ぐか
~相次ぐ芸能人の自死とメディアの役割

皆さんこんにちは井之上喬です。

菅義偉内閣が始動してはや3週間。デジタル庁の創設、携帯料金値下げなど矢継ぎ早に新しい政策が打ち出されています。早期実現に向け、政官財で是々非々の議論を大いに行い、着実に進めてほしいものです。

日本人若年層の死因トップは「自殺」

ここ数か月、テレビや映画で活躍する著名人の方が亡くなる悲報が続いています。9月10日は世界自殺予防デー(World Suicide Prevention Day)で、政府ではこの日から16日までを自殺予防週間として自殺の防止、家庭や社会の啓発活動に力を入れました。そのような期間を挟んで自死の報道が相次いだことは、大変残念です。

ニュースが新たなニュースを生み、SNSなどで拡散されることで否応なしに接触機会が高まってしまうネット時代。専門家によると、著名な人物の自死は「自分の知り合い」を亡くしたような感覚に陥ったり、ともすれば「自殺すれば楽になれる」といったイメージを抱かせ、新たな自死を誘因したりする可能性があるとのこと。ニュースの拡散で連鎖反応が起き、とくに多感で不安定な10代の若い人たちへ影響することがとても心配です。

警察庁の統計によると、日本人の自殺者数は1998年から2009年まで年間3万人を超える状態が続いていましたが、2010年から徐々に下がり、2019年は2万169人にまで減少しました。それでも、世界保健機関(WHO)の統計では、日本は先進国G7の中で自殺死亡率(人口10万人当たりの自殺者数)が最も高く、依然としてその対策が急務となっています。ティーンエイジャーの場合は、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中ではほぼ平均値ではあるものの、1990年代から徐々に上昇している傾向が、OECDの資料(p3)から伺えます。

厚生労働省では、警察庁の統計に基づいて自殺対策白書を毎年発行しています。最新の令和元年版によると、年齢層別の死因順位では、10歳から5歳ごとの6つの年齢層で、トップがいずれも「自殺」になっています。つまり10歳~39歳までは、病気や事故で亡くなるよりも自ら命を絶つ人のほうが多いのです。(ちなみに、後半の40~64歳までの年齢層の死因トップは「悪性新生物」、つまりガンです。)

さらに、自殺原因・動機別の状況をみると、20歳以上の全ての年齢層(10歳ごと)で、1位は「健康問題」となっています(警察庁の統計p24, 表5)。この「健康問題」には、身体の病気だけではなく、うつ病や統合失調症など精神疾患の悩みも含まれます。若い年齢層でも多くの人が、精神疾患の悩みを引き金に自死に至っていることが分かっています。

一方、19歳まででは、「学校問題」が1位、次いで「家庭問題」、「健康問題」と、異なる傾向がみられます。成長著しい学齢期ならではの悩み、課題がここにも表れているといえます。

問われるメディアの意識と行動

さて、今回の一連の状況の中改めて注目されるのが、自殺報道のあり方です。加藤官房長官は9月28日の記者会見で、WHOによる『自殺報道ガイドライン』に言及。目立つような報道、繰り返しの報道、自殺の手段など詳細な報道はしない、さらに相談窓口をあわせて報道する、ことを改めてメディアに向けて呼びかけました。

これを受けたメディア側にも行動の変化が見え始めています。とりわけワイドショーでは、従来通り直接関係ない近隣住民のコメントを取り上げる一方で、故人を偲び冥福を祈る、という構成で進行した番組もあったようです。

徐々に改善はされているようですが、その余地はまだ大きいといえるでしょう。社会データ分析やソーシャルメディアを研究する鳥海不二夫・東京大学大学院准教授が、9月27日に亡くなった女優・竹内結子さんに関するツイッター投稿を分析したところ、メディアの報道姿勢を批判するツイートが多数あったことも分かりました。

報道の自由と権利を守ることは民主主義の大原則です。しかし、一方で個人の尊厳や社会への影響への配慮も欠かせない要素です。政治や世論の動きで恣意的な自粛がはじまり、同調圧力による抑制を生んではなりませんが、報道の陰に苦しむ人たちがいること、特に自殺の場合は残された家族とりわけ子供たちや近親者は大きなショックを受けていることを忘れてはいけません。そのバランスをどうとるか、メディアに携わる方々に常に求められている課題です。

「明確な解はないが、常に結論を出さなければならない」。こういう状況においては、まず倫理観を持ち、双方向コミュニケーションを欠かさずに複数の当事者の立場、意見を尊重し、必要に応じて自己修正を加えていくことが肝要です。望ましい状態をともに考え、よりよい関係を構築しながら、そこを目指していく作業に終わりはありません。

マルチ・ステークホルダーとの関係構築を目指すパブリック・リレーションズ(PR)の考え方は、報道を取り巻く問題に対しても解決のアプローチとして有効であると確信しています。

この考え方は、悩み事を抱える人の役にも立てると考えています。悩みとは、決して自分だけの問題ではないからです。悩んでいる時には見えにくいですが、自分のことを心配してくれる人、力になってくれる人、環境の改善に結びつけてくれる人が必ずいます。

パブリック・リレーションズはステークホルダーとのリレーションシップマネージメント。何か悩み事があったら、皆さんの周りの様々なステークホルダーの誰かに連絡をとって、相談してみてください。ステークホルダーは通常「利害関係者」と訳されますが、「大切なものを守り、共通の目的に向かって協力していく人たち」と言ってもよいでしょう。
決して一人で悩まず、自分を追い込むことなく、必要な時には助けを求める。だれもが、かけがえのない社会の一員であるとの意識を持ってほしいと思うのです。

関連相談窓口

厚生労働省
よりそいホットライン
  • 0120-279-338(つなぐささえる)=全国から
  • 0120-279-226(つなぐつつむ)=岩手、宮城、福島の3県から
自殺予防「いのちの電話」
  • 0120-783-556(なやみこころ)=毎日午後4~9時、毎月10日(午前8時~11日午前8時)に
東京自殺防止センター(NPO法人国際ビフレンダーズ東京自殺防止センター)
  • 03-5286-9090=年中無休、午後8時~午前2時半(毎週火曜日は午後5時~午前2時半、毎週月・土曜日は午後10時半~午前2時半)
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