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2022.08.30
原発再稼働、新増設?あなたはどう思いますか?
~次世代に負の遺産を残すな
皆さんこんにちは井之上喬です。
ロシアのウクライナ侵攻から半年が過ぎてしまいました。
客観的な状況からは長期化の様相ですが、1日も早い終戦と平和が戻ることを心から願っています。
ウクライナ戦争の中で、国際的に深刻な課題として浮かび上がっているのがエネルギー問題です。ロシアは核の脅威をちらつかせながら、ヨーロッパ、特にドイツへのLNG供給を、自国への経済制裁の盾に取っています。
それだけでなく、ウクライナ国内にある欧州最大のザポリージャ原子力発電所も、ロシア軍の支配により正常な運転、電力供給が妨げられています。NYタイムズ(電子版)によると、国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長は、今週中にもロシアとウクライナの戦闘で制御不能になっている同発電所に、IAEAの調査団を派遣するとしています。
資源を輸入に頼る日本にとっては、対岸の火事では済まされません。例えば日本企業もかかわっているサハリンのLNG(液化天然ガス)開発プロジェクトは、国内のエネルギー供給に大きな影響を与えます。そして、非常に気になるのが原子力発電所の問題です。
原発推進に転換?
8月24日、岸田首相は首相官邸で開いたGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で、東京電力福島第一原発事故後の原子力政策を大きく転換させる方針を明確にしました。
再稼働に加え、原発の新増設や運転期間延長の検討にも踏み込んで、原発推進の方針を一気に打ち出したのです。
その背景には、ウクライナ戦争で原油やLNGが高騰し、ガソリンや電気料金が値上がりすることで家計を圧迫していること、加えて2050年を目標とする脱炭素の流れも大きな要因と考えられます。
さらに、エネルギー源の多様化が計画通りに進まない中で火力発電所への投資が抑えられ、東京電力や東北電力管内では電力需給逼迫警報が出たのは記憶に新しいところです。
政府は、今夏の参議院選挙前に全国的な節電を要請しました。冬に向け、消費者の不安が広がっているのも事実です。このような状況をダメ押しし、原発政策を大転換するきっかけになったのがウクライナ戦争であるのは明白です。
日本の原発政策は揺れ動いています。2021年10月のエネルギー基本計画では、原発は可能な限り依存度を低減し、再生可能エネルギーなどエネルギー源の多様化を促進するとしましたが、今年6月の経済財政運営の指針では、原子力の最大限活用が盛り込まれました。そして今回の岸田首相の発言は、さらに踏み込んだものとなっています。
確かに原発は、正常時の発電だけを考えれば、効率は良いのかもしれません。しかし、不謹慎な言い方をすれば、人体を蝕む麻薬のように後々まで超長期に渡り、あらゆる面で地球の生態に影響を及ぼします。そのことについて、今を生きる為政者は、十分に想像と熟慮を重ねて行動をとってほしいものです。
政府は、脱炭素、電力の安定供給などを強調し原発推進の大義名分にしています。ですが、東電福島第一原発事故の後遺症を見てもわかるように、汚染水の処理、運転すれば出続ける核のゴミの扱い、そして廃炉の問題など、稼働とともに解決しなければならない諸課題については、言わば何も解決されていないのではないでしょうか。
改めて思い出す「水素研究会」での小泉元首相の講演
今回の原発を巡る政府の動きに関し、あらためて皆さんにお伝えしたいのは、私が2009年から主宰している「水素研究会」で、2017年10月に小泉純一郎元首相をゲスト講師にお招きし、脱原発社会に対する熱い思いを語っていただいたことです。
講演のテーマは「福島原発事故を乗り越えて日本が進むべき脱原発への道はどうあるべきか」。井之上ブログ2017年10月4日付けで触れた内容の一部を、改めてご紹介します。
『今回の講演で特に印象に残ったのは、北欧のフィンランド「オンカロ」(フィンランド語で「隠し場所」)を小泉先生が視察された際のお話です。
世界各国が頭を痛める原子力発電所の廃棄物問題。「オンカロ」は、北欧のフィンランドが世界に先駆け、建設に乗り出している核のゴミの最終処分場のことです。地下400mに2km四方の処分場(原発わずかに2基分)を建設していますが、核廃棄物が出す放射線が、生物にとって安全なレベルに下がるまで、欧州の基準では少なくとも10万年かかるとしています。
入口を閉ざした蓋に「開けると危険だ」という警告を人類の存在さえ危うい10万年後の生物体(人類)にどのように伝えるのか、フィンランド語で示すのか、英語か、あるいは他の言語を使うのか、言葉の意味すら時代とともに異なってくるのに5万年後の人類に果たして通用するのかといったといったお話を興味深く聴きました。』
上記にあるように、次世代に負の遺産を残すことは、今に生きる私たちが例え痛みを伴おうとも、避けねばなりません。5万年、10万年という数字は、人類史の尺度で考えると途方もない数字です。一方福島第一原発をみても、廃炉には30-40年を要するとされ、事故を起こした炉内外に残るデブリ(溶融燃料)の搬出も、度重なる遅延を引き起こしています。加えて、使用済み燃料などを保管する中間貯蔵施設すらままならない日本の原発事情を、岸田首相には冷静に考えてもらいたいものです。
日本は、大きなエネルギーを費やして原発の再稼働を行うのでなく、これまでの太陽光、洋上風力発電(原発15基分は期待される)、更に地産地消型の水力や地熱発電、水素、バイオマスなど、次世代につけを回さないエネルギー政策に、真剣に総力を挙げて取り組むべきではないでしょうか?
8月29日朝のNHKニュースでは、スーパーマーケット経営者による、大分での地熱発電プロジェクトを紹介していました。施設の設計を標準化し、開発コストを抑えることで、全国にフランチャイズ方式で地産地消型の小規模地熱発電を普及させる構想とのこと。このような新しい試みを、電力会社をはじめ地域を挙げて積極的に取り組んでもらいたいものです。
少子化や高齢化問題、労働人口の減少、COVID-19でさらに悪化する財政赤字などなど、現在日本が抱える課題は、原発問題に限らず難題が山積しています。
多様な利害関係者(ステークホルダー)との関係構築(リレーションシップマネージメント)をはかりながらよりよい社会を目指すには、パブリック・リレーションズ(PR)の手法が欠かせません。日本にとって最良な持続可能なエネルギー政策を推進するためにも、「双方向性コミュニケーション」を進めながら国民の幅広い意見をまとめ、必要であれば柔軟に「自己修正」機能を働かせていくべきだと考えます。
解決を次世代に先送りすることは許されません。
一人ひとり人が出来るところから行動を起こすのはまさに今です。