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2023.03.13

地盤沈下が続く日本
~高度人材教育に必要なパブリック・リレーションズ(PR)の考え方

皆さんこんにちは井之上喬です。

今年も3月11日が来ました。東日本大震災そしてそれに伴う東京電力福島第1原発事故から早くも12年が経ちました。

報道によると、避難者の数は現在(2月時点)でも3万884人。福島県では2万人以上の皆さんが県外で避難生活を送っているとのことです。震災で亡くなられた方は3月1日時点で1万5900人、行方不明者は2523人で、改めて被害の甚大さを感じます。ただ、こちらの数字は過去1年間変わっていません。つまり新たな遺体の発見と不明者の身元確認はなかったことを意味しています。これは初めてとのこと。それだけ多くの年月が流れた、ともいえるでしょう。
年月はとどまることなく過ぎてゆきますが、当時の記憶を風化させることなく、今後予測される大規模災害に備えることが大事ではないでしょうか。それが亡くなった方、行方不明の方々の思いを大切にすることにつながるように思います。

先日のWBCの対チェコ戦に先発した佐々木朗希投手は、故郷の陸前高田で小学3年生だった当時、父親と祖父母を震災で亡くしています。登板した3月11日は、12年後のその日でした。運命的ともいえるこの日のピッチャーマウンドから、彼がどのような思いで投げたのか、テレビの画面からは伝わってくるものがありました。

日本は地震大国。大型震災の発生は時間の問題と言われていますが、改めて大規模災害への備えを一人ひとりしっかり行いたいものです。

地盤沈下続く日本経済

もうすぐ4月、日本では新学期を迎えます。真新しいランドセル、制服に身を包んだ新入学生、そして期待に胸を膨らませた新社会人の皆さんを目にする季節となります。

しかし足許の日本の状況を見ると、あまり楽観的にはなれない、厳しい状況に直面しているのも現実です。

2月19日の日本経済新聞電子版にも、そんな日本の今を象徴するような記事がありました。見出しは「日本の名目GDP、ドイツが肉薄 世界3位危うく」で、現在の日本のGDP(国内総生産)世界3位という地位が揺らいでいる、との内容です。

ドル換算した名目GDPでみると、長引くデフレに昨今の急激な円安・ドル高が加わり、世界4位のドイツとの差が急速に縮まっています。さらに中国を抜いて世界最大の人口大国になったとみられるインドも猛追し、世界経済で日本の存在感はしぼみつつある、と状況を説明しています。

これに関連したショッキングなニュースが最近、流れました。2月末時点の世界の時価総額ランキングで、トップ50から日本企業が姿を消えたことです。

これまでトップ50に唯一日本企業としてランクインしていたトヨタ自動車が、圏外(52位)に押しやられたのです。ランキングにはかつて、30社を越える日本企業がランクインしていましたが、今は見る影もありません。なぜ日本経済がしぼんでしまったのか、「失われた30年」はどのような30年だったのか、しっかり検証する必要があると改めて思うのです。

そして沈滞している日本の経済を立て直す大きな鍵、その一つは「教育」にあると私は考えています。

待ったなしの教育改革

岸田首相も1月の施政方針演説で、日本の国際競争力を高めるために教育の国際化、グローバル人材の育成を掲げています。

皆さんは日本の教育水準について、どのような認識をお持ちでしょうか。

教育に関する総合的なランキングとして、経済協力開発機構(OECD)の「OECD Better Life Index Education」は代表的な存在です。2022年6月の教育総合ランキングをみると、1位はフィンランドで、オーストラリアとスウェーデンが続きます。日本は14位と、前回(2019年5月)の7位から順位を大きく落としています。

また、5歳から39歳までで教育を受けた期間の平均年数である「教育期間(Years in education)」の順位でも、1位はフィンランド、スウェーデン、オーストラリアのそれぞれ20年であるのに対し、日本は、教育期間が16年。順位は31位と前回32位より1つ上げたものの、決して高い水準ではないと判断できます。ちなみにOECD全体の平均は18年です。

これらのデータを見ても、日本の教育の質向上は待ったなしです。改善への圧力、要請は高まっています。私の周りの、教師を含めた関係者の方々も、新しい教育の在り方について日夜試行錯誤を重ねています。改革には時間がかかるでしょうが、これらの取り組みが実を結ぶことを願ってやみません。

加えて、高度人材の育成も不可欠です。AIの進化により到来するシンギュラリティ時代に向け、AIや半導体に関するエンジニア、データサイエンティストなど、最先端技術の開発、実用化をになう人たちの需要がますます高まるからです。

私が代表理事を務める一般社団法人日本パブリックリレーションズ学会では、昨年から日本の「失われた30年の検証プログラム」を実施しています。これまでの失敗をもとに、これからの日本が如何ににあるべきかの議論を、各界の識者の皆さんの英知を集結して進めています。そのなかでも教育改革は重要なテーマです。経済成長の最大のけん引力は「教育」にあることは、みなさんの多くにも同意頂けるでしょう。

中でも、教育の一要素として私が不可欠と考えるのがパブリック・リレーションズ(PR)です。これは単なる宣伝、一方的な情報伝達ではありません。『倫理観』に支えられた『双方向性コミュニケーション』と『自己修正』をベースとした、マルチステークホルダーとの良好な関係構築活動(リレーションシップマネージメント活動)なのです。

インターネットが世界中を駆け巡り、AIの進化でSNSが既存のメディアを凌駕しつつある今、正しい情報と虚偽の情報を瞬時に見極める力(情報リテラシー)が求められています。倫理観は、そのベースになるものです。

そして、これからの複雑な社会を生きていくうえで、自分以外の多様な利害関係者(マルチステークホルダー)とのさまざまな関わりと対話(双方向性コミュニケーション)を通して、自らの行為を俯瞰し、柔軟に変更したり、間違いをただしたりすること(自己修正)が重要になります。そのような関係構築(リレーションシップマネージメント)を通じ、目的・目標を達成することが一層重要になるでしょう。

AIなどの進化による情報化社会は今や、情報入手の速さや量の豊富さでは人間をはるかに上回ります。その上で私たちに問われるのは、どのような目標を定め、それを最短距離で達成するための関係構築をどう進めるかなど、実際の行動です。そのためにも、パブリック・リレーションズ(PR)の考え方を身に着けた高度人材の登場こそが、これからの日本や世界をよりよいものにしていくために必要ではないかと思うのです。

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