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2023.06.12

ヒット商品番付に垣間見るコロナ後の世界
〜対話型生成AIの進化と私たちはどう付き合うか

皆さんこんにちは井之上喬です。

激動の2023年も入梅と共に、早くも折り返しですね。
残りの半年、健康に留意しながら仕事に私生活に精一杯取り組んでいきたいものです。

上半期ヒット商品番付は

この時期の恒例になった感もありますが、日本経済新聞社は2023年上期(1〜6月)の日経MJヒット商品番付を発表しました。興味がある方は、6月7日付けの日経MJをご覧ください。

それによると、東の横綱は新型コロナの「5類移行」、西の横綱は「WBC世界一」でした。

新型コロナウイルスは、5月に感染症法上の分類が従来の2類から5類へと移行しました。皆さんも身近に感じられているように、旅行や外食の分野は活気を取り戻しています。また、3月にテレビにくぎ付けになった方も多かったでしょうが、大谷翔平選手ほかWBC日本代表の優勝が全国を沸かせたのは記憶に新しいところです。

コロナ後の生活は消費者を高揚させ、国境を越えるヒットが次々と生まれている、と記事はコメントしています。

大関以下を見てみますと、東の大関が「ChatGPT」、西の大関がインバウンド復活、関脇は東が「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」、西が「THE FIRST SLAM DUNK」です。続く小結は東がユニクロの「ラウンドミニショルダーバッグ」、西が「東急歌舞伎町タワー」、前頭はゲーム「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ キングダム」、アニメ「【推しの子】」、帽子型自転車ヘルメット、「JINS SAUNA」、「東京ミッドタウン八重洲」、全戸億ション、そして「小学生がたった1日で19×19までかんぺきに暗算できる本」、などとなっています。

この番付を見て、皆さんはどのような印象を持たれるでしょうか。

私はやはり、産業革命以来のインパクトと評されている東の大関で、彗星の如く登場したChatGPTに、大きな衝撃と可能性、そして得体の知れない不安という、これまでに無い思いを抱いています。

2月のこのブログでも触れたChatGPTは、さまざまな業界にまたたくまに広がり、量・質ともに大きな影響をもたらしています。

日経新聞の記事はこれについて、「コロナ禍の間に世界の距離はオンラインで縮まり、優れたモノやサービスは瞬時に国境を越えるようになった。米オープンAIが開発した対話型人工知能(AI)「ChatGPT」は、公開からわずか2カ月で月間利用者が1億人を突破。世界を席巻し、検索機能やソフト操作を加速度的に便利にしている」と評しています。

パブリック・リレーションズ(PR)業界でも、プレスリリースや想定質問をChatGPTで作成してみた、などの話が出ているのには正直驚きました。

対話型生成AIの光と影

ChatGPTが注目されて半年余り。人工知能(AI)技術の進化はそれ以前から続いていましたが、人間がこれをどう取り扱うかは途上であり、大きな課題を抱えているのも現実です。

一般の人々に限らず、AI業界大手のトップたちでさえ、自らが構築している人工知能(AI)技術がいつか人類に存亡の危機をもたらす可能性があり、パンデミックや核戦争と同等の社会的リスクとみなすべきだ、との警告を発した。そんなニュースも目にします。

非営利団体のCenter for AI Safety(CAIS、AI安全センター)は、「AIによる絶滅のリスクを軽減することは、パンデミックや核戦争といった他の社会的規模のリスクと並んで世界的な優先事項であるべきだ」と発表しました。

注目すべきは、この公開書簡にはAIに携わる350人以上もの経営者や研究者、技術者が署名していることです。

その背景には、ChatGPTなど大規模言語モデル(LLM)の最近の進歩により、AIがやがて誤報やプロパガンダの拡散に広く使用されるようになるのではないか、あるいは何百万人ものホワイトカラーの雇用が失われるのではないか、などの懸念が高まっていることが挙げられます。

対話型自動生成AIが将来、どのような進化を遂げるかはだれも正確な予想は出来ないでしょう。しかし、少なくともこれまで私たちが経験してきたテクノロジーの進化とは全く違う、異次元の衝撃をもたらすような気がしています。

いずれにせよ、産業革命以来ともいわれる対話型自動生成AIの開発競争が世界規模で一気に加速することは明らかです。日本もこの流れに乗り遅れるわけにはいきません。

このような世界の潮流に対し、政府のAI戦略会議で座長を務める松尾豊東大教授は日本経済新聞のインタビューで、日本国内でも、対話型自動生成AI開発に不可欠な最先端の半導体を駆使した、膨大なデータ処理のための計算用インフラを早急に構築する必要性を訴えています。つまり、大規模データセンターなどの整備を「政府がインフラ投資として支援すべきだ」としています。

対話型生成AIの性能を高度化するには、基盤となる大規模言語モデル(LLM)に大量のデータを学習させる必要があります。高性能の半導体は、そのための必須の基盤ということですね。

パブリック・リレーションズ(PR)の相棒AI

繰り返しになりますが、私が考えるパブリック・リレーションズの概念は以下の通りです。

パブリック・リレーションズ(PR)とは、個人や組織体が最短距離で目標や目的に達する、『倫理観』に支えられた『双方向性コミュニケーション』と『自己修正』をベースとした、多様なステークホルダーとの良好な関係構築活動つまり、マルチステークホルダー・リレーションシップマネジメントである」。

前回、ChatGPTについて書いた時にも触れましたが、人工知能がどれだけ進化しても、社会を動かすのは人間であること、そしてその基本にはパブリック・リレーションズの考えが大切であることは変わらないと考えています。AIの能力はますます向上するでしょう。それが悪意により用いられないためには「倫理観」が何よりも重要になります。AIは倫理観について、古今東西の知識、知恵を教えてくれるでしょう。でもそれを実践するのは私たち人間だからです。

そして、精度を増す対話型生成AIは、双方向コミュニケーションや自己修正についても、時や状況に応じた多様な方法を呈示してくれると思います。しかし、それらはあくまで過去の例を上手にまとめたものに過ぎません。現在の状況に最適なものをどう選び、いかに実行するか。やはり人間が自分の知恵や感覚、想像力を総動員し、創造的に試行錯誤していくことが欠かせません。私たちを取り巻く状況は常に移り変わっているからです。人種、宗教、文化を超えた、さまざまな考え、立場の人たちによるコミュニケーションは、最終的には人間同士の、総合的な交わりであることを忘れてはなりません。

つまり、パブリック・リレーションズは、これからも人間が主役であり続けるでしょう。世界の抱えるさまざまな問題を解決し、よりよい社会を実現するためのパブリック・リレーションズにとって、AIは強力なパートナーとなるでしょう。そのためには一人でも多く、パブリック・リレーションズの考え方を持つ人たちが世界に必要になります。でもこの素養を備えた人は圧倒的に少ないのが現実です。

一昨年秋に、人材育成のために一般社団法人日本パブリックリレーションズ学会を自ら立ち上げたのも、こうした理由からです。残りの人生を幼児教育を始めとする初等、中等、高等、そして社会人に繋がるパブリック・リレーションズ教育に励んで参りたいと思います。

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