トレンド
2021.12.29
よりよい未来を切り開く--最新技術を使いこなす力と人間的な温かみを子ども達に
~協創・共創に欠かせないパブリック・リレーションズ
皆さんこんにちは井之上喬です。
寄せては返す波のように、新型コロナも日本で、世界で、何度も感染の勢いを強めたこの1年でした。今も新変異株の「オミクロン株」が世界で急速に広がっています。日本は今のところ感染者数は低いものの、それがいつまで続くのか誰も分かりません。引き続き、密閉、密集、密接の「三密」を避け、手洗いの励行、十分な食事や運動・睡眠による体力と健康の維持に努めましょう。
時間、場所にとらわれない生活が定着
この1年、多くの皆さんにとってビデオ会議は仕事の欠かせない道具となったのではないでしょうか。コンピューターの性能向上や通信回線の大容量化、ソフトウェアの改良により、ビデオ会議は、テレビ放送と変わらないほどの高画質、高音質になり、操作も簡単になりました。私も仕事だけでなく、大学の講義でも活用しています。
コロナ禍により、多くの人が必要に迫られてビデオ通信を使うようになると、そこに大きな需要が生まれて機器や技術の開発、投資が進む。すると、さらに多くの需要、高度な要求が起こり、一層の進化が実現する。そんな正のスパイラルが今起こっているのを感じます。
オンラインでのコミュニケーションが簡単になると、住む場所、仕事の場所も自由度が高まります。実際、私の会社の社員や教え子でも、米ニューヨークに住みながら日米をまたいで仕事をしている人や北海道に住んでオンラインでビジネスを展開する人、長野県の安曇野でゆったりとした自然を楽しみながら暮らす知人もいます。
都会、中心街から離れた場所はこれまで、「交通の不便さ」が一番の欠点と見られがちでしたが、立地のデメリットが薄まれば、自然の豊かさや心地よい住みやすさといった要素がより魅力を持ってくることになります。
新型コロナの大波は、私たちの経済、生活に大打撃を与えました。しかし、その水面下では人々の価値観が変わり、やがてパンデミックの潮が引いた時に現れる、新しい風景が作り出されている気がします。それは、社会や経済のあり方の新たな成長のチャンスとなるでしょう。そこに向かい、ポジティブ思考で準備を進めたいものです。
IT技術を使いこなすのは、あくまで人間
素晴らしい可能性を持ち、生活の必須の道具となった情報通信技術ですが、負の要素も目立つようになって来たことも皆さんご存じと思います。まことしやかなウソ情報のフェイクニュースや、自分の興味ある情報が選ばれて送られてくるフィルターバブル、その結果深まる異なる意見の人たちとの分断や対立です。すでにさまざまな対策や取り組みがされていますが、私がとりわけ関心を持ち、懸念を抱いているのが、子どもたちの成長とIT機器・技術の扱いです。
IT技術の上手な活用が、子どもの成長に大きく資するのは間違いありません。デジタル教科書やデジタル教材などの活用は学校現場で進み、文部科学省は現在約4割の国公私立小中学校で行っているデジタル教科書の実証事業を、来年度は全校に拡大するとのことです。
探したいものが瞬時に見つかり、個々の進度に合わせた問題の提示や解説をする、英語の発音や聞き取りの指導をネイティブレベルで行う。電子教材は、限られた数の人間ではしきれない、きめ細やかな学びを補完できます。
その一方で、学習用端末の通信機能を悪用して相手のいやがるイラストや文を送りつけたり、チャットで特定の子どもの悪口を書きこんでいじめるなどの例も事欠きません。子ども達が機器を使いこなす能力は、時に大人を上回ります。問題はそこではなく、もっと根幹の部分にある気がします。
人間として、仲間としてしてはいけないことの区別が出来る「倫理観」。自分はどう思うかを伝え、相手がどう感じるか聞き合う「双方向コミュニケーション」。望ましい方向(共通の目標)へ到達するため柔軟に軌道修正をする「自己修正」。つまりは、自分の周囲の人たち(パブリック)とどのように関係(リレーション)を築いていくかという点に集約できます。これは、私が長年理論と実践を積み重ねてきたパブリック・リレーションズ(PR)の基本でもあります。
これらは決して自然に、十全に身につくものではありません。各々の要素は、子どもの中に備わっているはずです。時には失敗も経験させながら、しっかりと育てていくことが大切です。大人も迷って当たり前です。一方的な指導ではなく、共に学び、成長していく気構えで取り組みたいものです。
しっかり育てたい人間的な感覚・感情
今年の米大リーグで大活躍し、MVPに輝いた大谷翔平選手。投打の二刀流で優れた成績を出しただけでなく、グラウンドのごみを拾い、折れて飛んできたバットを笑顔で打者に返すなど、優れた人間性が大きな好感を呼んだことは皆さんもご存じでしょう。
メディアで盛んに紹介された、大谷選手が高校一年生の時に作った目標達成シートを見ると、最大の目標は8球団から1位でドラフト指名を受けることでした。そのための小目標には「体力作り」「コントロール」「変化球」などに加え「メンタル」「人間性」も挙げ、さらに具体的なステップとして「ピンチに強い」「継続力」「思いやり」など、素晴らしい要素が並んでいました。きっと大谷選手は、これをいつも見ながら、自分で振り返るだけでなく、指導者や仲間とのコミュニケーションを通じ自己改善を重ねていったのでしょう。
データや技術は、誰でも手に入ります。そこでさらに一歩抜きんでるには、周囲の人たちとの関係を築いて良いフィードバックをもらい、自分の感覚、修正能力を最大限に活かして最速で目標に辿り着くことも必要です。目標達成に向かい、心・技・体を磨き続ける努力と成長が、世界最高の舞台で結果を出し、かつ人々に愛される魅力を生み出した大谷選手の根っこにあると感じます。
目標を定め、周囲と助け合いながら自分も仲間も変わり、成長する。そんな子どもを1人でも多く育てたいと、教師の方々と先月、一般社団法人日本パブリックリレーションズ学会を設立しました。本格的なスタートは1月下旬の予定です。詳細については別の機会にお話ししますが、年末、年始にもかかわらず、予定は一杯です。
パブリック・リレーションズは、決して企業や団体だけのものでなく、個人にも、子どもにも身につけてほしい基本。これまでも、絆(きずな)絵本の出版や中高生向け教材の開発を進めてきましたが、これまでの活動、共感してくださる人たちを礎に、さらに発展させていきます。このささやかな波が、よりよい社会のために世界に広がっていく年となることを願いつつ、皆さんの健康とご多幸を祈っております。
今年一年、ご愛読いただき、どうもありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いします。