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2021.03.22

東日本大震災から10年、社会課題解決に科学技術活用は不可欠
~AI開発にも活かせる倫理観を基盤にしたパブリック・リレーションズ(PR)の概念

皆さんこんにちは井之上喬です。

今年の3月は、10年前の3月11日に起きた東日本大震災の全国的な追悼行事が満載でした。連日メディアでも大きく取り上げられ、突然に発生する自然災害や人災に私たちはどのように準備し対応すべきか、多くの示唆を与えてくれました。私たち人間は、最新の科学技術をもってしても自然の猛威には無力で、最終的には人間の英知で解決しなければならない--そんな多くの事態を目のあたりにしてきました。今後もこのような事態が起こることを想定するとともに、科学技術の急速な進歩と如何に上手に付き合っていくべきか、私たちは問われています。

課題解決に期待されるAIだが・・・

さまざまな社会課題の解決に期待されている科学技術の一つに人工知能(AI)があります。現在、多くの国や企業が莫大な資金と人材をAIに投入し、開発競争を展開しています。

AIの進化が続き、2045年ごろには人間の脳とAIの能力が逆転するシンギュラリティ(Singularity:技術的特異点)が実現し、さまざまな分野に浸透した高度なAIによって、人間の生活に大きな変化が起こるとされています。

AIは、人類のさまざまな課題を解決し、明るい未来のために貢献するでしょうが、先日、この開発に警告を発する記事を目にしたのでご紹介します。3月8日付けの日経ビジネスのコラム「世界鳥瞰」で、ちょっと気になる見出しは『技術者が警告 「AIは偏見を持つ」』 でした。この見出しを見た時、私は一瞬はっとしました。

冒頭の一説を引用しましょう。「・・・・AIが持つバイアスの問題に注目が集まっている。大量のテキストから学習するAIは、人種やジェンダーに関する過去のバイアスを取り込んでしまうという。より公正な判断をするAIの開発には、時間と資金を犠牲にしてでも人間のチェックを介在させる必要がある」。技術への過信を戒める警告で始まる、とても考えさせられる記事だったからです。

ネット検索やeコマースなどを通じても実感されていると思いますが、AIはすでに、私たちの生活に深く浸透しています。
しかし、生活を便利で効率よくする一方で、使い方やプログラムの仕方を間違えれば、AIは大きなリスクや危険性を秘めていることを、記事は改めて認識させてくれます。その対処には時間と資金が必要になるとし、同誌は「・・プログラムの中に人間の優れた判断をもっと取り組んでいく必要がある」と指摘しています。

つまりAIの役割として、これまでに蓄積された大量のデータを分析し、最も効率が良い経路を計算したり、人間に最も近い判断を提示したりすることが期待されているとすれば、前述の人種やマイノリティなどへの差別や偏見も、過去に実際に人間が行ってきた判断として機械的に学習され、引き継がれることになってしまわないか。そんな問題が残されているということです。
AIを応用する上で、特に学校や企業での採用や地域の治安管理など、人間の幸福や尊厳、公正に関する分野に関しては細心の注意が必要でしょう。過去のデータを無分別に与えるのではなく、AIに学習させるのに適切なデータであるかどうかを判断し、AIがはじき出した結果も検証して軌道修正させる。膨大な量のビッグデータを相手にどうするか、現実的には難しい課題ですが、人間を育てるのと同じく、ていねいなAIの開発が必要であることを、記事は指摘しています。

公正なAI開発に活かせるパブリック・リレーションズ(PR)の概念

ここで指摘されている、人類や社会のために役に立つ、より公正な判断をするAIの開発に不可欠なのが、私の考えるパブリック・リレーションズ(PR)の考え方だと思います。

私が考えるパブリック・リレーションズ(PR)の概念は、「倫理観」に基づく「双方向性コミュニケーション」と「自己修正機能」を柱に、さまざまなステークホルダーとの良好な関係を構築する「リレーションシップ・マネージメント」です。

様々な社会課題を解決しよりよい社会を構築するために、倫理観に基づき多くのパブリック(ステークホルダー)と双方向性コミュニケーションを行い、相互理解を促進する。その中で、自らの修正が必要であれば直ちに修正して前へ進む。このパブリック・リレーションズ(PR)の概念を活かした、人類、社会の発展に有益なAIの開発も1つの方法だと思うのです。

ある米国系大手IT企業のトップを歴任している私の古くからのアメリカの友人は、「鉄腕アトムを生んだ日本こそが、社会や人類のためになるAIを開発するための中心になるべきだ」と常日頃主張しています。初めて彼からこの言葉を聞いたとき、思わずはっとし納得させられたのです。そうです、アトムにしてもドラえもんにしても、これらのキャラクターはいつも平和を希求していますね。日本は古来、自然災害に翻弄される歴史の中、人間同士のいざこざなどは、つかの間の小さなことと観じ、少しずつ譲り合い、自分を変えながら、皆がより幸せになるよう共に歩くという生き方を培ってきました。そんな考えが根付いている日本には、技術開発力とも合わせ、人類、社会のためになるAI開発の中心的役割を果す存在になるチャンスがあります。

これまでに経験したことのない未曽有の東日本大震災、福島第一原発事故そして現在の新型コロナウイルス感染拡大のなかでも、日本国民の考え方、行動などバランスの良さは世界から高く評価されています。

この日本の国民性を活かし、多くの社会題解決のために役に立つAIの開発に、日本政府は本気で取り組むべきではないでしょうか。日本のAI関連予算規模は確実に増えていますが、米国や中国の政府予算に比べると2割以下にとどまっている現状もあります(富士キメラ総研)。新たな成長戦略の大きな柱と位置付けて、政府には大胆な予算処置を要望します。

人間が介在する新しいAIの開発分野で、日本がパブリック・リレーションズ(PR)の概念をベースに、世界をリードすることは夢物語ではないと思うのです。  

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