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2021.03.01

メディアに対価を払って記事を配信するGoogle新サービス
~日本の複数報道機関が提携合意

皆さんこんにちは井之上喬です。

今日は3月1日、このところの春の暖かさに、気分も行動も開放的になりがちです。新型コロナも新規感染者数は減ってきたものの、まだ関東4都県で緊急事態宣言が続いています。社会経済活動を優先するあまり緊急事態宣言を早期解除してしまうことが、再度の感染者増につながるのは過去のデータが物語っています。東京オリンピック・パラリンピック開催を真剣に考えるのであれば、政府には関係各方面への厚い経済支援とセットでの、徹底した取り組みが望まれます。ともあれ皆さんの適切な感染防止対策が、引き続き大切であることは変わりません。

向こう3年間で1000億円を拠出

インターネットの巨人・米Googleは2月10日、ニュースの発信元に使用料を支払ったうえで記事を配信する新サービスについて、日本の複数の報道機関と提携することで合意したことを明らかにしました。その名も「Google ニュース・ショーケース」。いったいどんなサービスでしょうか。

「Google ニュース・ショーケース」は、ニュースメディアと読者の双方にメリットをもたらす新サービスとして、昨年10月にまずドイツとブラジルのGoogle ニュース上でスタートし、提供地域を広げる方針が示されていました。ことし2月に入って、オーストラリア、英国、アルゼンチンでも利用できるようになり、現在「ロイター通信」や「フィナンシャル・タイムズ」「ル・モンド」など各国有力紙を含む、ヨーロッパや南米などの450以上のニュースメディアが参加しています。

そもそもGoogleに対しては、検索結果やレコメンドにニュースのヘッドラインや要約を掲載するのが「ただ乗り」だとして、ここ数年批判が高まっていました。とくに欧州やオーストラリアなどの規制当局は、Googleに対しメディアに対価を支払うよう求める訴訟を起こしていたのです。

そこで投入されたのが今回の新サービス。ライセンス契約した媒体社の記事は、Google ニュースのスマートフォンアプリなどに設置された各社専用のニュース表示欄「パネル」に、見出しや写真、要約として掲載されます。記事を選択するとメディアのサイトにジャンプする動作は同じですが、自動巡回してアルゴリズムが表示順位を決める通常のGoogle ニュースと違い、新サービスではメディア側が見せたい記事を主体的に選択・発信することができるとしています。

Googleはこのメディア側の作業に対して月額制で対価を支払い、ユーザーはショーケースを見る感覚で好みのメディアを選び、編集された記事コンテンツを見ることができる。これがGoogleが打ち出す「双方のメリット」です。

対価として、Googleは新サービスで提携する報道機関に、記事などの使用料として向こう3年間で総額10億ドル(約1,060億円)を支払うとしています。日本でのサービス開始時期や具体的な報道機関名はまだ公表されていませんが、どんなメディアが顔を出すのか、ユーザーとしてどのような体験ができるのか、とても待ち遠しいですね。

メディア業界に様々な影響も

電通が毎年発表している統計資料、「2020年 日本の広告費」によると、昨年(1~12月)の日本の総広告費は、世界的な新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、通年で6兆1,594億円(前年比88.8%)となり、東日本大震災のあった2011年以来、9年ぶりのマイナス成長だったとしています。

それでも、インターネットの伸長は目覚ましく、広告費は2006年に雑誌を、2009年に新聞を、そして2019年にテレビを追い抜いています。また、国内出版取次の最大手、日本出版販売の資料「出版物販売額の実態」最新版(2020年版)によれば、2001年から2019年の間に、出版社の数は約3割減、総売上に至っては5割も減少しています。

こうした傾向は世界的なものと考えられますが、広告出稿量がメディアの経営と密接な関わりをもつメディア業界に今後、この「Google ニュース・ショーケース」は、どのような影響を与えるのでしょうか?

まず、高品質なニュースソースに対価を支払うライセンスプログラムという枠組みでは、会社規模やニュース分野を問わず積極参加を希望するメディアが多く出てくるかもしれません。とくに資本力が小さな会社にとっては、巨大プラットフォームで収益も得ながらプレゼンスを高められる格好のチャンスとなります。

反面、いったんこの枠組みに入ってしまうと、その影響の大きさから後に引けなくなるなど、特定のプラットフォームへの依存度が高まることへの危惧を感じるメディアも出てくるはずです。以前、ある業界紙の経営者から、国内の有料データベースに記事を提供し始めたところ、そのロイヤリティ収入が予想外に大きく、ポートフォリオとして軽視できなくなったと聞いたことがあります。

一方、上のような有料データベースサービス会社は、今回の新サービスを自社の脅威と感じているかもしれません。メディア側が「ショーケース」で記事を提供し始めれば、利用者は無料のGoogle側で同じ記事を読めることになり、売上が影響を受ける可能性は否めないからです。

いずれにせよ、Googleの世界戦略、その一挙手一投足に世界が翻弄される構図は相変わらずのようです。しかし、彼らがここまで飛躍した背景には、常に社会の一員として世界がよりよくなるための経営理念を設定し、外部環境の変化を読みとり、不断に技術を磨いて世界へと提供してきたこと、加えて「倫理観」と様々なステークホルダーとの「双方向コミュニケーション」を通じて「自己修正」を行う、リレーションズ活動の実践が行われてきたからではないかと思うのです。

実は、Googleがこのサービスを昨年10月に発表した際、オーストラリア政府とGoogleは、プラットフォーマーがコンテンツへのリンクを表示する際に対価を支払うことを義務付ける法案をめぐって対立していました。法案が修正されなければ、Googleはサービスをオーストラリアから引き上げざるを得ないとまで表明していたようです。

しかし、オーストラリアのスコット・モリソン首相と、Googleのスンダー・ピチャイCEOがオンライン会議で「建設的な話し合い」を行った結果、対立は回避され、最終的にサービス開始に至りました。このトップ会談の裏に、環境の変化をいち早く読み取り、様々なステークホルダーとのスムーズな関係構築があったことは容易に想像できます。

パブリック・リレーションズ(PR)の主軸はリレーションシップマネジメントです。目標実現の最短アプローチ、「パブリック・リレーションズを制するものが世界を制す」ということができるかもしれませんね。

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