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2021.02.10

新たなSNS「クラブハウス(Clubhouse)」を体験しましたか?
~技術進歩でも不変のパブリック・リレーションズ(PR)の原則

皆さんこんにちは井之上喬です。

気象庁は4日、関東で「春一番」が吹いたと発表しましたね。統計を開始した1951年以降最も早い記録だそうです。地球温暖化の影響で、春の訪れも加速したのかと心配になります。

新型コロナウイルス第三波による感染拡大に対応して出された緊急事態宣言は、栃木県を除く10都府県で3月7日まで1カ月延長になりました。皆さんの職場や学校でも、在宅勤務(テレワーク)、オンライン授業が当たり前になってきたのではないでしょうか。

コロナ禍での新たなコミュニケーションツールの進化

コロナ禍で、コミュニケーションの方法は一変しました。対面は大きな制約が続く一方で、ネットの活用法は日々進化しています。最近、新感覚のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)として人気が急上昇しているのが、「クラブハウス(Clubhouse)」と呼ばれるサービスです。日本でも、メディアがこぞって取り上げ過熱気味の様相です。

ウィキペディアによると、クラブハウスは元グーグル社員が創業したアルファ エクスプロレーション(Alpha Exploration) が開発した招待制の音声チャットSNSです。2020年にスタートし、日本では2021年1月23日よりβ版の運用が始まりました。また、利用は18歳以上で、本名を使用する必要があるとしています。

クラブハウスは、「音声系SNS」と紹介されることが多いようです。個人(主催者)が立ち上げた「部屋」(ルーム)が用意され、利用者は、気に入った部屋に入って主催者やスピーカーの話を聞きます。大きな特徴はライブ専用であることで、録音も基本的に禁止です。文字のように残らないため、その時限りのトークショーに参加しているリアルタイム性が、魅力の一つです。

立ち上げた主催者が許可すれば、参加者が発言することもできます。今のところ、アプリはiPhoneなど(iOS)でしか動作しないため、クラブハウスを利用できるのはiPhoneユーザーに限られます(Android用アプリは開発中だそうです)。

クラブハウスの利用者になるためには、誰かに招待される必要があります。しかも各ユーザーは2つの招待状しか持てないため、いわば「限定されたユーザーしか加わることができない」という特別感も、このアプリの魅力を高めている要因とも言われています。

音声のみ、ライブ専用という仕組みは、私たちが日常的に使っているLINE、Twitter、Facebook、InstagramなどのSNSとは全く異なるプラットフォームで、「誰でも配信できるラジオ」と表現する人もいるようです。リアルタイムの音声コミュニケーションというと、ビデオ会議のズーム(Zoom)を思い浮かべる人も多いと思いますが、ズームは限られたメンバーによる会議であるのに対し、クラブハウスでは利用者は興味のある部屋を探し、入って聞くことができる点が大きな違いととらえるとわかりやすいと思います。

顔を出す必要もなく、音を聞くだけというラジオ感覚に新鮮さを感じたり、自分でも簡単にチャンネルを立ち上げられるなど、急激なヒットの要因は他にも多く見つけられそうです。画面を見たり、キーボードを使ったりすることも不要で、ラジオのように何かをし「ながら」聴くことができます。家事をしながら、仕事をしながらなど「ながら時間」を狙っているのも特徴だそうです。受験勉強をしながらラジオの深夜放送を聞いていた私たちの世代にも、すっと受け入れられるかもしれませんね。

話し手として有名人、著名人が多く出ていること、そして、一つの部屋を参加者でリアルタイムで共有しているという近い距離感も大きなヒット要因のようです。単なる雑談も多いようですが、最近では軍事クーデターがあったミャンマーからの生中継があったり、ハーバード大卒の医師が新型コロナについて解説したりなど、タイムリーなテーマに沿った情報伝達、議論も活発に起こっているようです。

インフルエンサーを自然なかたちで気軽に引っ張り出し、そこに訴えたいテーマをかぶせるという手法は、新たなパブリック・リレーションズ(PR)の情報発信ツールとしての可能性があると感じられます。

10年に1度のSNSになるか?

知り合いのオンラインメディアの編集長は、「肉声で話し合うので、これまでのSNSにありがちな誹謗中傷も今のところなく、既存のSNSのような「荒れた」感じもしませんし、炎上もありません」と評していました。

また、「TwitterとLINEが東日本大震災を機に広まったように、『危機の時代』にSNSは生まれ変わるのだと思います。10年に1度のSNSではないでしょうか」と、率直な感想と新たな可能性を語ってくれました。

ビジネスモデルとしても、クラブハウスはSNSに「音声」と「ライブ」を取り入れるという新たな分野を開拓しています。昨年シリコンバレーやサンフランシスコなどアメリカ西海岸の新興企業を視察した知人の米国人IT企業経営者は、多くの若い企業・経営者がGAFAを追い抜く熱気にあふれる中、クラブハウスもそんなポテンシャルを持った企業の一つだと期待していました。

にわかには信じられませんでしたが、考えてみればGAFAも最初は無名の小さな企業でした。アイデアと技術をたゆみなく磨き上げることで、現在の地位を築いたのです。「自分の声」という、どんな技術よりも古い情報伝達手段を最大限に生かしたこのサービスが、どこまで伸びていくか楽しみです。

まずは、クラブハウスが、コロナ禍の中での新しいコミュニケーションツールとなる可能性に注目したいと思います。その上で大切な点は、これまでも繰り返してきたことと同じです。発信する人、参加する人の「倫理観」だと思います。

主催者が発言をコントロールし、その場で、自分の声で発言するだけに、参加者同士の対立や攻撃が起こる可能性は高くないでしょうが、その場にいない人に対する批判や、参加した人への働きかけが、一方的、過度になるなどの懸念は常にあります。特定の相手との1対1ではなく、不特定多数との1対多、つまりパブリックとの関係(リレーション)をしっかりと意識することが大切です。

私が50年以上にわたり取り組んできたパブリック・リレーションズ(PR)のベースをなすのは、「倫理観」に基づいた「双方向性コミュニケーション」と「自己修正機能」です。

この概念は、国や企業、そしてNPO、NGOなどのさまざまな組織体から、私たち個人にまで、広く当てはまります。

SNSに人々が集まるのは、多様な人々と交わり、関係を築きたいからです。コミュニケーションツールがどんなに進化しようとも、上に掲げた3つの要素からなるパブリック・リレーションズ(PR)の考え方は、さまざまなステークホルダーと良好な関係を構築するための根底であり不変だと確信しています。

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