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2021.01.25

トランプ氏は2度目の弾劾訴追、バイデン新大統領は亀裂修復への積極的政策に
-霍見芳浩・ニューヨーク市立大学大学院センタービジネス学部名誉教授の報告を紹介-

皆さんこんにちは井之上喬です。

1月20日正午前(日本時間21日未明)、ジョー・バイデン氏(78)が数々の困難を経て、アメリカ合衆国第46代大統領に就任しました。彼の就任演説に、米国で亀裂が深まりつつある国家の分断を、何としても回避したいとする苦悩のリーダーの姿を見ました。それは世界の多くの人々が共鳴するものでした。

今回は、私の長い知友でもある、米ニューヨーク在住の霍見芳浩さん(ニューヨーク市立大学大学院センタービジネス学部名誉教授)が発信している現地の情勢分析レポート「アメリカだより」の最新号を、掲載させていただきます。

霍見さんは、ハーバードビジネススクールのMBAの教授も過去に務めており、教え子の一人には、第43代大統領のジョージ・W・ブッシュ氏もいるとのことです。

長年、米国に住み、学者として政治や経済、社会の変遷を目の当たりにしてきた人ならばこその知見と肌感覚による、日本では知ることのできない貴重な見識を、ぜひ皆さまも共有いただければ幸いです。(基本的に原文のままですが、単語や数値の表記、段落は、読みやすさのため一部変更しています)

 

アメリカだより(No.25)
2021年1月20日 霍見芳浩

トランプはクーデター責任で二度目の弾劾、バイデン大統領は果敢な政策

今日の正午1分過ぎ(東部時間)、予定通り、バイデンは2万5千余の全国からの州兵で固められた首都ワシントンで就任宣誓を終えて、第46代大統領となった。同時に、民主党は連邦下院に加えて、上院も制し(同添の1月8日のスカーズデール・インクワイラー紙の拙稿参照)、これまで4年間のトランプ暴政の大掃除と新政策に着手。

トランプはバイデン就任式に参列せず、大統領特赦販売(?)の後、一市民となり訴訟と負債の山を抱えたまま、ワシントンから逃げ去った。しかし、トランプには連邦上院の流血クーデターの責任追及の裁判が始まっている。

連邦下院は共和党議員10名を含む多数で、1月14日、トランプは「1月6日、おりからバイデン・ハリス正副大統領決定の儀式の最中の連邦上下院議場にトランプ支持の白人至上主義のネオナチ暴徒乱入を明らかに扇動」と判定し、「流血国内テロ主犯」で、トランプを弾劾(Impeach)して連邦上院へ送付。

連邦上院議員100名を陪審員とする裁判で、67名が「トランプ有罪」と判定すれば、大統領の資格を失う。ただし、同人はすでに、米国有権者により昨年11月3日の選挙で馘にされているから、実害は、「前大統領特権の生涯護衛、 生涯年金、はじめもろもろの手当てと特権」を失い、生涯、大統領職を含めて連邦職につけない。FBIは騒擾、傷害、殺人などで500余人を指名手配。

精神錯乱のトランプを無視して、バイデンは死亡者すでに40万人を超すコロナウイルス潰しのために、就任から100日以内に一億人にワクチン無料接種を果敢に進める。接種者不足は10万人の接種者の緊急養成で補い、ワクチン量産は「戦時立法発動」で連邦政府の直轄で可能とし、接種ネットワーク拡散には、全米の薬店に加えて、移動医療バスで接種対象者の集まる養護施設、老人ホーム、学校、市民クラブへ出向く。この間、全国民にマスク着用、手洗い、ウイルス・テスト、ソーシャル・ディスタンシング要請。

コロナウイルス潰しとならんで、コロナウイルス禍対策で急増の失業者、零細企業閉鎖、住宅ローンと家賃滞納、学生ローン滞納等にも扶助。売上税および地方税収入激減で、各州と地方自治体が、警官、消防士、養護員、教職員、清掃員の首切りに走るのを防ぐ。同時に連邦最低賃金の時給15ドル実施で、貧困世帯の所得倍増。

これら一連の「コロナウイルス禍対策」の予算は約2兆ドル。財源は、低金利時代の政府借入とトランプ減税で不当な恩恵に浴している億万長者と繁栄大企業への応分の課税。

就任直後に、バイデンは、行政命令で世界信用回復のために、(1)世界保健機構への再参加、(2)地球温暖化防止のパリ協定へ再加盟、(3)世界イスラム諸国からの入国禁止撤廃、(4)一千百万人の不法移民へ米国籍付与の立法着手、および(5)親から離された越境児童の親探し。

閑話休題 連邦上院での裁判を待たずに、トランプはソーシャル・ネットのフェイスブック、ツイッター、ユーチューブから追放され、PGA(プロゴルファー・リーグ)はトランプゴルフ場の使用中止。ニューヨーク市、ドイツ銀行から取引中止の忠告。くわえて、ATT他米大企業は、共和党への政治献金の見送り宣言。

トランプの大嘘とデタラメな政敵攻撃がツイッターから消えた後、たった一日で、白人至上主義のえげつない嘘八百の73%が消えた。ソーシャル・ネットの規制強化は必至。日本も見習うべき。ソーシャル・ネットは当然、出版社と定義され、掲載物に責任ありとされる。トランプの唯一の社会貢献となるは皮肉。

  

いかがでしたか。政策の内容はともかく、現実を直視せずに、自分の意見・方針に反するものは容赦なく批判、放逐するリーダーによって、人種、信条、宗教、国家など幅広い分野で深い分断が生まれたこの4年間を、バイデン新大統領が今後どう修復し、どのように民主主義を回復させていくのか。

正しい倫理観双方向コミュニケーションにより、自己修正を図りながら目的を達成していくパブリック・リレーションズ(PR)の観点から、米国のこれからを期待をこめて見守りたいと思います。最後に、今回の就任演説で印象に残った一節を下に記します。

「憲法を守る。民主主義を守る。米国を守る。権力ではなく可能性を、個人的利益ではなく公共の利益を考えて皆さんのために尽くす。そして共に、私たちは恐れではなく希望、分断ではなく団結、闇ではなく光の米国の物語を書き記す。礼節と尊厳、愛と癒やし、偉大さと寛容の米国の物語を」(日本経済新聞 1月21日付の全訳より抜粋)

2021年1月25日
井之上 喬

 

以下は、上記レポートで触れられた寄稿原稿です。

スカーズデール・インクワイラー紙
2021年1月8日
霍見芳浩(本文および訳) 

アメリカ民主主義を回復したジョージア州に感謝しよう

昨11月3日、ジョージア州は民主党の大統領と副大統領候補のバイデン・ハリス組を選び、現職のドナルド・ペンス正副大統領組を落選せしめた。そして、今年1月5日、連邦上院議員二名の決戦投票で、ジョージアの有権者は民主党候補のラファエル・ワーノック牧師とジョン・オソフ両名を揃って当選させた。

この結果、民主党は連邦上院の多数派となり、これまで連邦上院多数派党首で、共和党の死神の異名をもつ、ミッチ・マクコネルは、これまで少数派代表のチャック・シューマ民主党議員と(訳注:1月20日ハリス副大統領就任と同時に)交代させられる。ワーノック・オソフの勝利なしには、バイデン次期政権はトランプが傷つけた米国民主主義の修復は出来ないだろう。

マクコネルの異名はナンシー・ペロシ下院議長が可決して上院に渡す与野党合意の法案でも、大喜びで抹殺するのに由来する。法案殺しだけではなく、上院の多数派党首は上院の各委員会と下部小委員会の議長を決定する。これらの委員会は法案成立、各省庁の長官、米国連邦最高裁判事はじめ各州の連邦法廷の判事の任命に欠かせない。換言すれば、バイデン政権の統治責任を抹殺する。

米国民主主義を守る二大ガードレールは、クーリンな選挙と米国憲法に従う公正な法廷である。この二つは、トランプ・ショックにも、共和党による不正操作にも立派に耐えた。

トランプとマクコネルの米国民主主義破壊にあきれて、アイルランド・タイムズ紙のフインタン・オトール氏は昨年のコラムで、「世界は米国を愛し、また憎み、また羨んだ。しかし、今、初めて、米国を哀れんでいる」と述べた。

日本、中国、カナダ、そして独の私の友人は、トランプ・マクコネルの米国を憂い、「米国は世界のリーダーシップを捨てたのか」と問う。アジア、欧州、そして北米の民主国はこれまで、トランプとマクコネルの「米国第一」政策(事実は、米国一人ぼっちで孤立)に失望してきた。バイデンは世界でのリーダーシップを再び得て、地球気象破壊に取り組み、世界中の民主主義を支えると期待されている。

トランプ大統領の怠慢と事実無視のために、コロナウイルス禍の死亡者はすでに全米で35万人強。衰える兆候もない。各地の病院はコロナウイルス禍患者の手当ての配給割り当てを真剣に検討している。

トランプ・クーデター喜劇は無血ではない。米独協力がコロナウイルスに効果的ワクチン生産に成功。しかし、トランプ・マクコネル米国は約束したワクチン接種実施に惨めに失敗。トランプは2020年末までに2000万人に接種を約束しておきながら、CDC(訳注:国立防疫センター)の発表では、やっと500万人に接種。

トランプ・マクコネル共和党は各州の地方自治体への援助を拒んできている。各州の地方自治体はコロナウイルス蔓延対策費急増の反面、財源の小売り上げ税収急落に悩んでいる。もっと重要なことは、トランプ大統領は貪欲なロビイストや無能な三文政治屋を閣僚や各省の幹部に据えてきており、彼らは行政統治をこなしえず、米国経済と公衆衛生医療を破壊してきた。

バイデン次期政権は、非常に優秀で献身的な公僕で固められており、バイデンの政策をこれまで無視されてきた行動に転換する。

ロナルド・レーガン元大統領(共和党)は1980年の大統領選挙の第一声を深層南部のミシシッピー州(北のペンシルバニア州ではなく)のフィラデルフィアで上げたが、これは偶然ではなかった。ミシシッピー州のフィラデルフィアと言えば、(1964年6月21日)、大学生のシビル・ライツ(公民権獲得)運動員3名が、KKK(白人至上主義テロ団体)の暴漢組に惨殺された所。

レーガン大統領は就任演説で、「英語で最も恐るべき言葉は」と開口し、続けて、「私は政府の人間で、あなたを助けるために来た」であると明言。これが、トランプ・マクコネル共和党の五つの信条の始まり:(1)政府はあなたの敵;(2)白人が人種偏見の真の犠牲者;(3)税金は収奪;(4)労働組合は悪;そして、(5)自然環境保全は経済を破壊。

連邦上院と下院を民主党が制するから、バイデン次期政権は、ルーズベルト、トルーマン、アイゼンハウワーの各民主と共和政権が築いた連邦政府の役割で、米国人にとって、「あなたへの援助は間近だ(help-is-on-the-way)」の活発なリーダーシップを甦えさす。

不幸なことだが、死神マクコネルと共和党議員は、バイデン大統領が約束した米国の経済、教育,そして医療の難問解決に反対して、「政府の財政赤字はインフレを誘発」の大嘘で米国民を脅す。

2007年のスマホ革命以来の世界では、実質利子率(連銀野の単利からインフレ年率を差し引いたもの)が長期にわたって低く、国内貯蓄が増大しているから、米国連邦政府はインフレをはびこらすことなしに、必要な投資資金の借り入れが可能。

必要資金の借り入れと億万長者と繁栄の大企業(訳注:トランプ減税で無税)に応分の課税で、バイデン政権は、気象とエネルギーの修復とこれまで無視されてきたインフラ投資および幼稚園から大学までの教育への戦略的投資を賄える。

コロナウイルス禍蔓延を潰さずには、米国経済と社会の回復はありえない。いまや、バイデン大統領の就任から100日以内に1億人にコロナウイルスワクチン接種の公約を果たすために, みんなで協力すべき時。

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