パブリック・リレーションズ

2009.11.02

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 19 〜理論的基盤:調整と適応  その1

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

今週は、昨秋発売された『体系パブリック・リレーションズ』( Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上のロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的な本で、日本語翻訳メンバーには私も加わりました。

今回は第7章「理論的基盤:調整と適応」(井之上喬訳)。2回にわたって紹介します。以前このブログで、「組織体はどうすれば存続できるのか?調整・適応そして自己修正」の表題で「調整」と「適応」についてお話ししたことがありますが、めまぐるしく外部環境が変化する現代にあって、PRパーソンにとって重要なテーマです。そんなこともあり『体系パブリック・リレーションズ』の第7章の翻訳担当にさせていただきました。

生態学的アプローチ

第7章の冒頭では、「組織体とは、熾烈なグローバル競争や、技術革新、不安定な経済、そして多くを要求する高度に洗練された顧客などが渦巻く激動の環境の中で、常に生存能力を試されている生態システムのようなものである。」とキャロル・キンゼイ・ゴマンの言葉が引用され、「生態」がEPRの中で重要なキーワードとなっていることを示しています。

スコット・カトリップ、アラン・センターは、生理学者ウォルター・キャノンが唱える変化する外界に適応する、ホメオスタシス(恒常性維持)の概念を初めてパブリック・リレーションズに適用しています。生命科学の分野から借りた「生態学」という用語によって学生や実務家は、「パブリック・リレーションズが、それぞれの環境の中で、組織体と他者との相互依存関係に関わっていることを理解することができた。」とし、「パブリック・リレーションズの重要な役割は、組織体を取り巻く環境の変化に合わせて調整し適応できるように組織体を支援すること」と論じています。

本書(EPR)は、「1952年発行の初版でパブリック・リレーションズに生態学の概念を導入し、社会システムの見方を用いることを示唆した初めてのパブリック・リレーションズの書籍である」とし、調整、適応がEPRの基盤となっていることを強調しています。

本書第1章で定義されているように、パブリック・リレーションズは、「組織体とパブリックの間に構築・維持される関係性を取り扱う」ものであることを確認し、「このような関係性は、絶え間なく変化する環境で、政治的、社会的、経済的、そして技術的変革の圧力にさらされている。」と外部環境の変化を注視することの重要性を説き、さらに「組織体が、ますますグローバル化する社会における未知の領域を安全で着実に進むためには、このような圧力を慎重に評価することが不可欠になる」としています。
そして米国のデパート、シアーズやノードストロームが強力な組織で栄え、ワーズ百貨店やウールワースの400店舗の安売りチェーンが市場から姿を消した原因を、「ダーウィン流に説明すると、新しい時代を生き続けられるのは、力のある組織体ではなく、変化する世界に調整して適応する能力のある組織体ということになる。」と組織体の恒常維持にとって生態学的なアプローチが必要であることを論じているのです。

状況を捉える

本書第7章では、「パブリック・リレーションズの役割は、個々の状況における、特定の動きや変化、そして作用するさまざまな力を捉え、分析することにある。」としています。パブリック・リレーションズにとって外部環境の変化により生じた状況をさまざまな視点で捉え、それらを分析することの重要性を説いています。

例えば、メリーランドを拠点に活動する動物愛護団体(PETA)の活動を挙げ、動物愛護運動が盛んになることで、化粧品メーカーや医学研究所、精肉業者、連邦政府機関などの組織体にとって、自らの使命達成にどのような影響を与えるのかを論じています。いうなれば新しい活動的な圧力団体の取り組みが、組織体の意思決定にインパクトを与えるようになるということです。

本書は、「動物愛護運動はエイボンやエスティーローダー、ベネトン、トンカトイ・カンパニーなどに対し、ウサギ、モルモットなどの動物を使用した製品テストを中止するよう圧力をかけた。」と化粧品会社や衣料会社などへの強力な働きかけを伝えています。

その一方で、「また同運動は、国立衛生研究所に対して、動物を使用して研究を行う研究クリニックの閉鎖を求め、ペンタゴンには動物の損傷テストの中止を迫った。」と外部からの強いアプローチにさらされている様子を記述しています。企業側が対応に苦慮しているのが目に見えるようです。

またこれらの運動により、「テキサス州の食肉処理場はPETAからの圧力の後で閉鎖を命じられた。さらに圧倒的多数が、動物愛護を支持して、毛皮や化粧品研究の使用目的で動物を殺すことを違法と考えるようになり、PETAは世論を勝ち取りつつある。」と組織体にとって、状況把握がいかに重要かが容易に理解できます。

本書では、「パブリック・リレーションズの業務は、端的にいえば組織体を取り巻く環境に合わせて調整・適応できるように組織体を支援することにある。」とし、「パブリック・リレーションズのカウンセラーは、世論や社会変化、政治運動、文化的変化、そして技術開発、自然環境をモニターしている。そして彼らは、これらの環境要素を解釈し、組織体の変化や対応策に関する戦略を策定するため経営層と協働するのである。」と論じています。

日本で繰り返される不祥事を見てみると、倫理観の欠如は言うまでもありませんが、組織体が変化する外部環境を読み切れず調整・適応することなく市場からの退場を余儀なくされるケースが後を絶ちません。本書にあるように、21世紀を生き抜くことのできる組織体とは、単に力のある組織ではなく、さまざまな視点で内外の環境変化を複合的に捉え、必要であればパブリックとの間で調整・適応を行い、自己修正のできる組織体ではないでしょうか。

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