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2023.07.29
どこまで続く「林檎」の衝撃
〜パブリック・リレーションズ(PR)と新しいビジネスモデル創出の可能性は
皆さんこんにちは井之上喬です。
各地で体温を上回るような気温が続出し、記録的な猛暑が続いていますがお元気ですか。
先日、今年最後の北大の講義のため札幌に行きました。温暖化のせいか気温は連日30度を超え、雨が降る日などは蒸し暑さを感じるほどでした。
皆さん、冷房を適切に使い、こまめに水分を取って、体調管理には十分に注意しましょう。
アップルの時価総額3兆ドル突破
ヒートアップしているのは気温だけでありません。株式市況も世界的に加熱の様相を見せています。
象徴的な出来事に、米国アップルの時価総額が6月末に3兆ドルを突破したことがあります。
アップルの時価総額が3兆ドルの大台を突破したのは、2022年1月以来です。iPhoneに加え、ゴーグル型端末Vision Pro(ビジョンプロ)の発表など「アップル経済圏」のさらなる拡大への期待が、企業価値、時価総額の向上につながっているといえます。
アップル経済圏を眺めてみると、まずパソコンやタブレット端末、スマホ、ウェアラブルなどのデバイス群が中核にあります。それを取り巻くアプリ配信、音楽配信、動画配信、広告などのサービス分野が大きな成長を遂げ、さらにアップルPayや、クレジットカードなどの金融関係など、事業は着実に拡大の道を歩んでいます。今後大きな進化が見込まれる生成AIやゴーグル型端末などへも展開しながら、さらに便利で多様なサービスが実現していくでしょう。
これまでのアップルの時価総額の推移は、2011年が約3748億ドル、2015年が約6542億ドル。そして2020年が約1兆9203億ドルなので、その成長ぶりには驚くばかりです。
井之上パブリックレーションズは1980年代、アップルの日本市場進出を支援していました。日本法人設立の際には、当時九段南に構えていたオフィス内にアップルジャパンの設立準備事務所を置くなど、アップル本社と一体となってパブリック・リレーションズ(PR)のコンサルティングを行っていたのです。
世界初の、ワンボタンマウスで操作する「マッキントッシュ」の登場を覚えている方も多いことと思います。操作にはキーボードで複雑な命令やプログラムを打ち込まなければならなかった「電子計算機」を、画面のアイコンをマウスでクリックするという簡単な操作でだれにでも使える「パーソナル・コンピューター」へと変えた画期的な出来事でした。
私は当時から、アップルビジネスの大きな可能性は予想していましたが、同社はその後の幾多の激しい外部環境の変化に柔軟に対応しながら、ビジネスの内容を変えてきました。その結果、急成長を維持し並み居る企業の中で世界の頂点に立つアップルは、私の想像をはるかに超えた存在となりました。
どこまで拡大する「アップル経済圏」
そのようなアップル経済圏拡大の動きの中で、私が特に注目しているのが金融です。2023年4月にアップルは、米国でクレジットカード「アップルカード」の利用者向けに、普通預金口座サービスを開始しました。
詳しいサービス内容など詳細は,報道記事などを参照して頂きたいと思いますが、例えば口座の開設は、iPhoneを使って社会保障番号(Social Security number)を入力し、同意ボタンを2度ほどクリックするだけで行えるそうです。
証明書類の提出が必要なメガバンクやネット銀行に比べてとても簡単で、シンプルに口座が開設できるようです。
ネット決済やネットバンキングは、日本でも急速に普及しています。私はセキュリティへの懸念から個人的には使っていませんが、最近は利便性に魅せられ、多くの人が活用しているようです。
現時点で、アップルが日本でクレジットカードや預金口座サービスを展開するとの発表はありません。それでも、スマホ市場でiPhoneのシェアが約70%と世界的にも高い日本市場への上陸となれば、国内の金融市場へのインパクトは相当大きなものになるのではないかと考えます。
メガバンクを中心とする日本の金融界は、これまでの実店舗をコアにした従来型のビジネスモデルから大きく転換しようとしています。ですが、効果が表れるのはまだまだこれから、と言えるのではないでしょうか。
もしアップルがこのような状況の日本の金融市場に進出するとしたら、日本のパートナーはどこになるのでしょうか。今まさに、業界関係者は水面下でさまざまな動きをしているものと思います。
パブリック・リレーションズ(PR)の役割が重要に
最新のテクノロジーを駆使し、消費者の立場に立脚したさまざまな新しいビジネスモデルを創出し続けるアップル。そのアップル経済圏に飲み込まれるのではなく、うまく連携しながら、日本発でグローバルに通用する新しいビジネスモデルの創出を実現できないだろうか、と私は思いを巡らせています。勝つか負けるかの「競争」ではなく、ウィン・ウィンでともに栄える「協創」の世界が生み出されることを、強く願っています。
そのために必要なのは、「倫理観」に基づいて「双方向性コミュニケーション」を行い、必要に応じて自らを変革する「自己修正」を基盤とした「マルチステークホルダーとのリレーションシップマネージメント(関係構築活動)」、つまりパブリック・リレーションズ(PR)の考えです。この視点からアップル社の発展を見ると、成功、失敗含め実に多くの事例をくみ出すことができます。
製品、サービスを問わず、企業活動の根幹にあるのはパブリック・リレーションズ(PR)活動です。企業は、それぞれのテクノロジー、サービスを通じて外部に情報を発信していますが、その発信の幅をさらに広げていくのです。つまり「双方向性コミュニケーション」の拡大です。それにより、成長、発展に結びつく情報も入ってきます。
情報発信を通じて新たなパートナーシップが創出され、多様な試行錯誤と自己修正を重ねた結果、社会課題の解決(倫理観の実現)につながる新しいビジネスを創り出すことが可能になります。このような流れを作るために、パブリック・リレーションズ(PR)の果たすべき役割は大きい、と感じています。