トレンド

2021.07.08

株主総会に見る「ニッポン株式会社」の課題
~新しい企業価値創造に不可欠なパブリック・リレーションズ(PR)

皆さんこんにちは井之上喬です。

新型コロナウイルス禍での2回目の梅雨の季節を迎えています。
気がめいりそうなジメジメした天候のなかですが、街のあちこちで紫陽花が鮮やかな美しさを競っていますね。自然の移ろいにも気を配る余裕をもっていきたいものです。

インベスター・リレーションズ(IR)にも変化

3月決算の企業が多い日本では、6月末は定時株主総会が集中する時期です。
東京証券取引所の今年春の発表によれば、3月期決算企業の株主総会の開催日のピークは6月29日。444社で集中率は26.9%と、1983年の集計開始以来で最低水準となっているようです。コーポレートガバナンス・コードの改訂などにより、株主との対話を充実させるために開催日の集中を緩和する動きが広がるとともに、インターネットを活用した情報提供も充実させるなど、インベスター・リレーションズ(IR)にも変化が起きています。

一方、オンラインで参加できる「バーチャル株主総会」の開催を予定している会社は、全体の14%に相当する232社と、前年比8.8ポイント増加するとのことです。コロナウイルス禍により、インターネット経由での議決権行使の仕組みを整える企業も増えているようです。

コロナウイルス禍を乗り越えるべく、株主との対話強化に配慮したインベスター・リレーションズ(IR)のさまざまな方法が模索される中、荒れる株主総会も見受けられます。、その1社が東芝です。

皆さんも報道でご存知のように、東芝が6月25日に開いた定時株主総会で、永山治取締役会議長(中外製薬名誉会長)の再任案が否決されました。前年の株主総会の運営が公正でなかったとする調査報告書を受けて、アクティビスト、いわゆる「物言う株主」以外にも永山氏の責任を問う動きが広がったのです。一連の不祥事や株式非公開化などの問題に対し、取締役会をまとめてきた議長が否決されるという異常事態が発生し、今後の経営が一段と混乱することは避けられない状況になっています。

何が原因なのでしょうか。
結論から言えば、パブリック・リレーションズ(PR)の考え方が経営に組み込まれていないからです。もちろん投資家との関係作り(IR)には真剣に取り組んできたでしょう。しかし、同様に一般社会(パブリック)との関係構築(PR)はどうだったでしょうか。製品のユーザー、顧客だけでなく、この地球の上で、だれもが、よりよい明日を目指して共に進んでいく上でなんらかの関わりのある仲間(ステークホルダー)であるという基本意識が、経営陣にはどれだけ浸透していたでしょうか。

私が考える「ハイパー・グローバリゼーション」のなかで、従来から指摘されてきた経済面のグローバル化に加え、情報発信のグローバル化も一気に加速しています。そんな中、世界規模で企業価値の変化の動きが顕著になっていることを甘く見過ごしてきたツケが回ってきた、とも言えます。

外部環境の変化に柔軟に対応する

2011年に、ハーバード大学ビジネススクールのマイケル・ポーター教授が中心となり世界に向けCSV(共有価値の創造)の概念を提唱しました。CSVは、企業の経営戦略の1つとして、本業に則した形で社会的課題を解決する取組みを行っていくべきだという考え方です。「企業が本業を通じ、社会課題解決と経済的利益という相反ともいえる目的を追求し、かつその活動によって相乗効果を生み出そうとすること」と規定されています。

この考えは、2015年9月の国連によるSDGs(持続可能な開発目標)の採択、それと一体化する形での環境(Environment)、社会 (Social)、企業統治(Governance)を配慮した経営を指すESG投資に対する注目度が一気に高まっていることとも通底します。新たな企業価値の創造が、世界規模で求められているようになってきたのです。

それを象徴するのが世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)の大変革です。2020年、第50回のテーマは 「ステークホルダーがつくる、持続可能で結束した世界」でした。世界経済フォーラムの創設者クラウス・シュワブ会⻑も「ステークホルダー資本主義の概念に具体的な意味を持たせたい」と表明。従来の株主至上主義から、企業を取り巻く多様なステークホルダー・リレーションシップに大きく舵を切る必要性を示唆したのでした。

この大きな流れこそ、私が考える本来のパブリック・リレーションズ(PR)、つまりさまざまなステークホルダーとの良好な関係構築を図るためのマルチ・ステークホルダー・リレーションシップマネージメントの概念です。新しい企業価値を創造するために必要なパブリック・リレーションズ(PR)の時代が到来した、といっても過言ではないと思います。

東芝をみても、2020年3月期の海外売上比率は41%、金額で1兆3873億円となっています。また、株主の半数を外国人株主が占め、そのうちアクティビストは全体の20%程度とみられています。ビジネス面でも株主の面でもグローバル化が進展していることが明確に表れています。

これまでの、日本市場だけでの企業活動を重視した「ニッポン株式会社」の殻を破り、世界中のさまざまなステークホルダーとの対話に向けた、的確で戦略的なパブリック・リレーションズ(PR)を経営に組み込むことが不可欠です。

こののままでは、ニッポン株式会社は絶滅危惧種に指定されてしまう、と思いませんか。
今こそ危機感を持ってパブリック・リレーションズ(PR)の重要性に目を向ける時だと思っています。

書籍

注目のキーワード
                 
カテゴリ
最新記事
アーカイブ
Links

ページ上部へ