トレンド
2021.06.19
日本の少子化が赤信号
~子育て世代の不安解消に対策を急げ
こんにちは井之上喬です。
先日の英国で開催されたG7先進国首脳会議で、世界のリーダーたちは新型コロナウイルス撲滅に向けた強い意思を示すと同時に、東京オリンピックの開催を支持しました。開催国日本の国内は、賛否両論が渦巻いていますが、残すところ約1カ月。感染防止対策に基づく各種制限下での史上初のオリンピック開催を、注意深く見守っていきたいと思います。
2021年の出生数、80万人割れが確実に
日本の少子化問題が深刻さを増しています。
厚生労働省が6月4日に発表した「2020年の人口動態統計」によると、2020年の1年間に生まれた子どもの数(出生数)は前年比2.8%減の84万832人で、5年連続で過去最少を更新しました。1人の女性が生涯に産む子どもの推計人数を示す「合計特殊出生率」も1.34と、やはり5年連続で低下しています。
出生数は前年の婚姻数との関係が大きいと考えられますが、コロナ禍前のいわゆるノーマル状態だった2019年の婚姻数は59万9007組。それが2020年には前年比12.3%減の52万5490組。この影響が徐々に反映される今年2021年の出生数がどうなるか、想像すると空恐ろしくなります。
人口動態統計は速報ベースで毎月出されていますが、5月25日に発表された「人口動態統計速報(令和3年3月分)」の数値を見ると、今年1~3月の出生数は前年同期比9.2%減の19万2977人。結婚してすぐに妊娠したとして出産までの十月十日を逆算すると、新型コロナの感染拡大で緊急事態宣言が発令された昨年4月以降の婚姻タイミングと一致します。
これまでの政府の推計では、年間出生数が80万人を下回るのは2030年ごろと予測していましたが、複数の民間調査機関は昨年秋時点で、早くも2021年に出生数が80万人割れするとの試算を出しています。第一生命経済研究所の推計では77万6000人。日本総合研究所の推計では79万2000人。
4月以降の数値が明らかになれば、傾向はよりはっきりすると思いますが、この悪い予測が現実となることはおそらく確実です。
出生数の減少は、将来の労働力の減少につながり、社会・経済の活力を低下させるばかりでなく、現役世代が高齢者らを支える社会保障制度にも悪影響を及ぼします。日本の将来、国家の未来を考える時、この現実を見ると本当に心配でなりません。
ちなみに、2020年の死亡数(2020年の人口動態統計の結果概要p10)は、全体では前年比0.6%減(8445人減)の137万2648人。死因と数を詳しく見ると、感染症とも関係がある「肺炎」による死亡数は、前年比で17.9%も減少(1万7073人減)し、7万8445人でした。これは、コロナ感染症対策として手洗い・うがい・マスクの着用などを励行した効果が大きいと考えられます。なお、「新型コロナウイルス感染症」の死亡数は3466人でした。
いずれにせよ、出生数も死亡数も減ったことから、新型コロナウイルスは日本の少子高齢化にさらなる拍車をかけたといえます。
新型コロナで見えた「産み控え」意識
さて、今年1~3月の出生数の大幅減からも、コロナ禍の様々な影響が子育て世代の「産み控え」につながっているのは間違いないと思われます。それを裏付ける意識調査を紹介します。
スマートフォン向けのヘルスケア事業などを行う株式会社エムティーアイ(本社東京都新宿区、前多俊宏社長/東証一部上場)は昨年夏、女性向け健康情報サービス「ルナルナ」のユーザーを対象に、コロナ禍における妊娠・出産・妊活事情についてのアンケート調査を実施しました。
現在子どもがおらず、妊活も休止しているユーザーに、妊活休止の要因に今回の新型コロナが関係しているかを聞いてみたところ、71.3%が「関係している」と回答しました。休止の判断は、「パートナーと相談した」68.5%、「自身で考えて結論を出した」39.1%、「医師・医療機関の方針にそって」13.0%、が上位を占めました。
一方、現在も妊活や不妊治療を続けているユーザーに、新型コロナによる影響を聞いたところ、76.1%が「妊活や治療を続けることに不安を持った」と答えました。なお自由回答として「今の時期に妊娠することのリスクを考え躊躇した」、「仮に今妊娠したとしても不安」、「他の妊婦さんに迷惑になるかと思い病院に行きづらい」などの意見が寄せられています。
さらに、2020年に出産したユーザーに出産後の新型コロナによる影響を聞いたところ、89.5%が「影響があった」と回答しました。具体的な例は、「外出ができず育児によるストレスを余計に感じた」が66.4%とトップで、2位は「自治体や民間の育児サポートを利用しづらくなった」で45.3%でした。
現在、国や自治体、そして企業も含め、少子化対策として様々な子育ての支援事業、不妊支援の事業や制度の拡充に取り組んでいます。新しいところでは、政府は昨年暮れに不妊治療の助成を大幅に拡充しました。所得制限を撤廃し、特定不妊治療(体外受精と顕微授精)の助成額を2回目以降も30万円へと倍増、助成回数も増やし、条件も緩和しました。
しかし経済的支援もさることながら、より重要なのは産んだ後の社会的サポートではないでしょうか?
上記アンケート結果からも分かるとおり、コロナの影響で育児に関わる物理的・精神的なサポートが得にくくなり、以前にもまして支援・援助が得られるか不安に感じている人は増え、不安の大きさも増していることは明らかでしょう。それらの懸念材料が解消されない限り、子どもを産み育てようというモチベーションにはつながっていきません。
折しも6月9日、政府の経済財政諮問会議が今年の「骨太の方針」原案を示し、菅総理大臣は「新型コロナ対策に最優先で取り組みながら特にグリーン、デジタル、地方、子どもの4つの課題に重点的な投資を行い、長年の課題に答えを出し力強い成長を目指す」と述べました。
日本はかつて、団塊の世代と言われた1940年代後半には、出生数は年間250万人を超えていました。70年代初頭の団塊ジュニア世代以降、その数字は下落の一途を辿り高齢化社会を突き進んでいます。今もなお、人口減少と少子化は、日本の深刻な問題として続いています。
いま、子どもを持ちたいと思うカップルが、安心して、そして積極的に妊娠・出産・育児・教育と、一連の子育てに臨める施策が強く求められています。その根底には、さまざまな人々とのつながりを考慮したパブリック・リレーションズ(PR)の意識が欠かせません。関係者、中でも決して声は大きくないが最も影響を受けている人たちの声を聞く「双方向コミュニケーション」を行いながら、政策から現場まで柔軟に方策を変える「自己修正」を繰り返す。さらに、出産、子育てという個人の営みを支援するためには、自分の業務の範囲・達成にとらわれない、人の幸せとは何かという「倫理観」に裏打ちされた広い思考が求められます。少子化対策に携わる全ての関係者は、この3つのキーワードを念頭にしたリレーションシップマネージメントを通じて、関係する多様なステークホルダーと連携し、少子化問題に取り組んでもらいたいと思います。