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2021.05.31

デジタル庁発足でマイナンバーは進むか?
~パブリック・リレーションズで国民不安を払拭

皆さんこんにちは井之上喬です。

沖縄・奄美と九州から東海の各地がすでに梅雨入り。このうち、近畿や四国地方では統計史上最も早い梅雨入りとなったようです。異常気象の影響でしょうか、梅雨入り早々に大雨の被害も出ているようです。ハザードマップの確認など備えをしっかりとしたいですね。
今日のテーマは、ハザードランプが点いた日本のデジタル事情についてです。

日本のデジタル化の命運をかけ発足

行政のデジタル化を推進する関連6法が、5月12日に参議院本会議で可決・成立し、菅政権の目玉政策である「デジタル庁」が9月発足に向けて動き始めました。

給付金支給の遅れ、ワクチン接種予約の混乱、感染情報共有アプリの不具合など、新型コロナウイルス禍では日本のデジタル行政の遅れが浮き彫りになりました。その改善をめざし、まずは政府や自治体が使うシステムを統一して、行政手続き面のオンライン化を推進することになっています。

平井卓也デジタル改革相は、「立ち上げからスタートダッシュできるようにしたい」との意向を示し、職員数500人規模を見込むデジタル庁のうち、120人程度は民間企業・大学関係者からの採用を予定しています。官公庁に民間人など外部の材を4分の1も導入するとしたのは、思い切った取り組みであると評価できます。そして、デジタルに精通した専門性が高い人材を集めるため、テレワークや兼業、常勤といった柔軟な働き方も認める考えのようです。

スイスのビジネススクールであるIMD(国際経営開発研究所)の「世界のデジタル競争力ランキング2020」によると、対象の63カ国・地域で日本は前年の23位から27位に4ランクダウンしています。ちなみに1位はアメリカ、2位はシンガポールで前年と変わらず、3位にはデンマークが前年から順位を一つ上げました。残念ながら、日本のデジタル競争力の低下は明らかです。

今回の法律が目指す姿について、平井卓也デジタル改革相は「スマートフォンであらゆる手続きが60秒でできるようにする」と述べています。マイナンバーカードの機能をスマホに搭載し、スマホ一つで銀行口座の開設や確定申告が行えるようにし、さらに専用口座を一つ登録しておけば、その都度申請しなくても公的給付金などを素早く受け取れるようになるとしています。

デジタル庁はデジタル政策の司令塔として、各省庁のシステム関連予算を一括管理し、デジタル化への取り組みが不十分な省庁には改善を勧告できる、強い権限を持っています。従来の省庁の垣根を越え、常に国民の目線に立って、機動力と実効性のある柔軟な政策を実行できる組織となるよう、そしてそれが日本経済の復活と発展につながるよう、大いに期待しています。デジタル庁の果たす役割は、極めて大きいといえます。

完全独立した第三者監視機関設置を

しかし、いくら機能や仕組みを作ったとしても、それを国民の多くが使う状況にならない限り、デジタル化は進みません。その一端を担うのがマイナンバーカードの普及でしょう。

マイナンバーカードの保有率は、新型コロナウイルスの感染拡大で非常事態宣言が発令された昨年4月時点で、16%でした。今年5月5日時点でようやく30%を超えましたが、まだ国民の3人に1人程度でしかありません。

普及が遅々としている大きな理由は、心理的な阻害要因だと思います。カードを持つことで政府から監視されるのではないか。あるいは個人情報の漏洩や悪用などセキュリティーは大丈夫なのか。懸念はぬぐい切れません。国民の不安払拭には、抜本的な体制づくりが必要ではないかと考えています。

現在、マイナンバーカード運用および個人情報保護の監視・監督は、2017年1月に発足した「個人情報保護委員会」が担当しています。位置づけとしては内閣府の外局、つまり政府の行政機関になります。公正取引委員会と同様の独立性を持っているとされていますが、個人の尊厳や命を脅かす問題が発生した場合にも、最後まで責任をもって解決に導ける権限があるのか。それがないと国民は安心できません。

ただ、私自身も認識していなかったことですが、実はマイナンバーカードのICチップ自体には、プライバシー性の高い情報は記録されないとのことです。住民票の個人情報、年金の納付・受給記録、健康保険の履歴、所得や納税額などの情報は、それぞれの情報を管理する官公庁が管理し、担当機関の間のやり取りにはシステム内でのみ照合可能な暗号情報が用いられているため、マイナンバーから芋づる式に個人情報が抜き出されることはないそうです。また、仮にカードを紛失したとしても、現状では暗証番号の入力が必要で、一定回数間違えると使えなくなり、さらにICチップの情報を不正に読み取ろうとするとチップそのものが壊れてしまうなど、高度なセキュリティー対策が施されているとされています。

いずれにせよ、国民に現状を正しく伝え切れておらず、国民からの認識も十分に得られていないと感じます。菅総理がスローガンに掲げる「世界最先端のデジタル社会」を実現するためには、国民一人ひとりの参加と協力が不可欠です。この目標達成のため、前述のように政府には国民の不安を払拭するよう、政府から完全に独立した監視体制を構築し、安全性を担保することを改めて求めたいと思います。

ハードウエア、ソフトウエアがいかに強固でも、どこかにセキュリティの穴がある可能性があることは、これまでの数えきれない事例が示す通りです。さらに、運用する人間の側も、間違いや意識のゆるみ、上からの命令、誘惑など、さまざまな不正につながる落とし穴と隣り合わせです。問題が起きた際には、監視機関が主導的に原因究明の調査権を持ち、必要とあらば検察権も持ち合わせられるような権限を与えることで初めて、健全なデジタル社会が実現するのではないでしょうか。

政府のデジタル化推進にあたっては、常に国民を意識した、パブリック・リレーションズ(PR)の考えが大変重要だと考えます。最大の利害関係者(ステークホルダー)は私たち国民だからです。そこで最も厳しく求められるのは「倫理観」であることは言うまでもないでしょう。そして、日常、緊急時双方での「双方向コミュニケーション」を想定し、実践する。目指すべきゴールに向かって柔軟に「自己修正」を続けることも大切です。行政機関には、一貫性・安定性が求められますが、それが硬直化、自己保全と見られてしまわないよう、さまざまな関係者とのリレーションシップ・マネージメント(関係構築)の意識をしっかりと浸透させることが欠かせない、と考えています。

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