パブリック・リレーションズ

2006.05.12

実務家に求められる10の能力6.クリエイティビティ

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

以前、実務家に求められる10の能力として「統合力」 「判断力」 「文章力を伴ったコミュニケーション能力」 「マーケティングに関する知識」 「フレキシブルで明るくオープンなマインド」を紹介しました。今回はパブリック・リレーションズにダイナミズムを生み出すクリエイティビティ(創造力)についてお話します。

クリエイティビティは既存の概念にとらわれずに新しいアイディアを創り出す能力です。またクリエイティビティは、物事を肯定的にとらえ、積極的な戦略性をもった新しい試みや問題解決への真摯な姿勢を促し、人を感動させる能力を引き出します。

パブリック・リレーションズに必要なクリエイティビティとは、個人や組織体が掲げた目標を達成するために、独創的な手法や戦略、実施プラン、そして時代の求める新しい概念などを創出する力であるといえます。

クリエイティビティは自由で柔軟性のある環境で発揮され、解決策の具体的な選択肢を増やし目標達成へのスピードを加速させます。またプログラム実施の過程で変更の必要性が生じた場合でも適切に自己修正することのできるフレキシブルな環境をも創り出します。

私が20代前半この世界に入ったばかりの頃、「クリエイティビティは独創的なものなので、企画は一人で考えるもの」と勘違いして、誰にも相談せずにプランニングしていたことがありました。

クリエイティビティを育てるには、多くの人と会い、さまざまな体験をして知識や経験のストックを積み上げていくことです。経験も知識も浅い若いうちは必要な知識を有する専門家などの助けを素直に借りること。そしてさまざまな人と意見交換することです。多角的な視点をもった双方向コミュニケーションからは思いもよらない斬新なアイディアが生まれるものです。

ヴォルテールの独創性とは

また、独創的なアイディアを生み出す源泉として模倣があります。18世紀のフランスの作家・啓蒙思想家ヴォルテールは「独創性とは、思慮深い模倣以外の何ものでもない」と「格言集」の中で述べていますが、本物を厳選して真似していくことで独創性は育ちます。

このヴォルテールのことばは、学生時代に音楽クラブでヴァイブをやっていた頃、先輩が「ジャズ・ギターのプレーヤーが同じギター・プレーヤーのアドリブをコピーすればそれは単なるコピーにすぎないが、特性の違う他の楽器、つまりピアノやサキソフォン・プレーヤーからのコピーはコピーでなくなる」と他楽器からのコピーを奨励していた話に、どこか通じるものを感じます。

ブレーン・ストーミングを開発したアレックス・オズボーンは、創造的な問題解決の手法の基本項目として、「他用途への適用(Other Use)、適合(Adapt)、修正(Modify)、拡大(Magnify)、縮小(Minify)、代用(Substitute)、並べ替え(Rearrange)、反転(Reverse)、結合(Combine)」を挙げています。ひとつの事柄をこの9つの項目に当てはめて考えてみることで多角的な視点を育てる良い訓練になるかもしれません。

スティーブ・ジョブズの富士山

創造力を刺激して開花させるには、いつも心を自由にして夢をもつことが大切です。そして常に希望と夢の追求に対する情熱を持つことです。80年代前半アップル社の創始者スティーブ・ジョブズが来日する際、当時日本法人社長の福島さんから、「アップルならではの面白い企画が考えられないだろうか」と相談を受けました。スタッフといろいろな企画を考えましたが、ジョブズをよく知る福島さんはなかなか首を縦に振りません。考えあぐねていると、おもむろに「井之上さん、ジョブズという男は山頂に雪をかぶった富士山をピンク色に染めかねない男ですよ」と度肝を抜かされたことがあります。

福島さんによるジョブズについてのスケール・アウトした描写が意味するものは、独創的な創造力は、自由で夢のある発想と情熱、そして肯定的かつ不屈の精神で、一見不可能だと思える事柄をも実現させてしまうということだったのです。

クリエイティビティはいつも大きなプロジェクトを対象に考えられるべきものではありません。小さなプロジェクトでもその成功には同じ原理が働いていることに心を留めるべきです。クリエイティビティを働かせるには常に目的意識を持つことが重要となり、どんなに素晴らしく斬新なアイディアであっても、掲げた目標の達成に資するものでなければ常に結果が求められるパブリック・リレーションズの実務家としては失格です。

我々パブリック・リレーションズの実務家には、目標達成を実現するために、どのように状況が行き詰まっても最後まで諦めてはいけません。自分だけの力に頼ることなく、持てる知識や知恵を最大限活かし、双方向性をベースに的確な状況判断をおこない、創意工夫による独創的アプローチと戦略を見出すことがプロとして求められている姿なのです。

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