パブリック・リレーションズ

2006.04.07

実務家に求められる10の能力4.マーケティングに関する知識

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

以前、実務家に求められる10の能力として「統合力」 「判断力」 「文章力を伴ったコミュニケーション能力」 を紹介しました。今回はパブリック・リレーションズの戦略的プラン構築にとって不可欠の「マーケティングに関する知識」についてお話します。

優れたパブリック・リレーションズは包括的で戦略性に富んでいます。その鍵を握るのがマーケティングの知識といえます。製品やサービスを戦略的に市場投入するマーケティングへのかかわりは、経営に直結したパブリック・リレーションズを可能にします。特に画期的な製品・サービスの発表や社運をかけた開発商品の発表などはコーポレート・レベル(経営トップ)での介在なしにはスムースに運びません。

マーケティングとは、広義な意味で「財(製品やサービス)の誕生からその消滅にいたるまでのすべてのプロセスにかかわる活動である」とされ、狭義な意味においては製品やサービスの販売促進活動と認識されています。

一方、パブリック・リレーションズにはマーケティングPRとコーポレートPRがあります。マーケティングPRは販売促進を成功させるリレーションズ活動です。そしてコーポレートPRは企業への良好なイメージを構築するリレーションズ活動です。優れた製品やサービスにより企業イメージが高まることもありますし、良好な企業イメージにより製品やサービスの販売が促進される場合もあります。したがって両者はプラスにもマイナスにも連動しかつ影響しあう密接な関係にあるといえます。

特にマーケティングPRには新製品の販売促進を強力にサポートする上で、マーケティングの知識が必須となります。またコーポレートPRを行う際にも市場構造やポジショングの調査・分析のための知識をベースに持つことで、市場動向を把握した統合的なパブリック・リレーションズが可能となるのです。

頻繁に用いられるものとして、業界動向や製品・サービスの構造を時間軸で分析して競争メカニズムや市場特性を知るプロダクト・ライフサイクルや強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)から競合相手との差別化・優位性を導き出しマーケットでのポジショニングを決定するSWOT分析などが挙げられます。

広告主導からPR主導へ

マーケティングにおける広告一辺倒の時代は長く続きましたが、近年、様相は一変しています。デジタル・メディアの発達により、消費者にはこれまで以上に双方向型コミュニケーションを希求する傾向がみられます。製品・サービスごとにチャンネル選択をおこない、直接ターゲットの心にとどくきめ細かな販促活動なしには市場での優位性の確保は困難になってきています。

この傾向について、マーケティングの第一人者フィリップ・コトラーはその著“Principles of Marketing”(1999)のなかで、「パブリック・リレーションズは一般社会における認知度獲得に大きなインパクトがあり」「製品、人、場所、アイディア、活動、組織、国家まで、さまざまなものを広くプロモートするのに使用されている」と記述し、この大きな可能性を活かすために近年、「マーケティング・パブリック・リレーションズという部署を設置し製品やサービスの販売促進と企業イメージの向上を包括的に取り組む企業もある」とマーケティングにおけるパブリック・リレーションズの重要性を示すと共に、その潜在的な効果に高い期待を寄せています。

こうした背景から、数年前に米国で “The Fall of Advertising and the Rise of Pr(ブランドは広告でつくれない)”, Al Ries and Laura Ries(2002)が大ヒットし、販売促進の軸足を広告からパブリック・リレーションズへとシフトするトレンドが生まれました。近年この傾向は日本にも波及し、パブリック・リレーションズへの期待が高まっています。

インテル会長ロバート・ノイスから学んだこと

私が79年後半、半導体メーカーIntel社(インテル)と取引をしていたときにマーケティングの重要性について開眼するきっかけとなったある体験があります。

それは当時のインテル会長、ロバート・ノイスと会った時のこと。ICの発明者でもある彼は、「トランジスタの父」といわれるウイリアム・ショックレイのもとで半導体研究をしたあと、フェアチャイルドを設立し、その後ゴードン・ムーアとシリコンバレーでインテル社を設立し今日のインテルの基礎を築いた人です。そんなノイスさんとあることから社員の報酬の話となり、彼は「誰が社内で一番高い給料をとっていると思うか?」と私に尋ねました。私は「貴方ですか?」と答えたら、首を横に振り、「何人かの副社長のなかにいる」といいました。インテル社は技術志向が極めて強い会社なので、私は「当然、研究開発部門の担当副社長なのでは?」と答えたら、また首を横に振り、その場にいたある人物を指差しました。その人物は当時マーケティング担当副社長で40歳そこそこのジャック・カースティンだったのです。

ノイス会長の言ったことを裏付けるかのように、その後のインテルのマーケティング・ドリブンの日本市場攻略には目を見張るものがありました。このことは、インテルが将来を見通した研究開発や製品の市場投入時の政策決定や正しい販売活動をおこなうために、戦略機能を有するマーケティング部門を組織内の最重要セクションとして十二分に認識していたことを意味していました。日本では精神的な営業論がまだ一般的であった当時、米国の経営者が社会科学的な手法を用いたマーケティングの重要性を深く認識し、実践していた事実に強い衝撃を受けたものです。

あれから20数年、マーケティングの戦略的な機能を重要視し活動する企業も多く現れました。しかし未だ市場調査という狭い意味でマーケティングを捉えている向きも否定できません。広報担当者やパブリック・リレーションズの実務家は、マーケティングの機能と戦略性を如何にパブリック・リレーションズ活動に活かすべきか、それぞれの活動のなかで考えていかなければなりません。それが所属する組織やクライアントの掲げた目的をスムースに達成する条件でもあるからです。

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