パブリック・リレーションズ

2006.02.24

実務家に求められる10の能力 1.統合能力

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

以前このブログで「倫理観」 「ポジティブ思考」 「シナリオ作成能力」 「英語力」 「IT能力」と題して、広報担当者やパブリック・リレーションズの実務家に求められる5つの資質を皆さんと一緒に考えました。これから折を見て、それらに加えて必要な10の能力を順次ご紹介したいと思います。

今回は、パブリック・リレーションズの機能の主軸となる「統合能力」についてお話します。

広辞苑によれば統合という言葉は、「複数のものをひとつに統(す)べ合せること」を意味します。日本では戦前の軍隊用語にも初歩的な意味合いを持たせて使われていたようですが、米国では60年代からコンピューター業界で盛んに用いられ、統合システム(integrated computer system)や統合ソフト(integrated software)など様々な言葉を生み出しました。
個人的には、1970年代後半からハイテク業界と深くかかわりを持つようになってこの言葉を意識するようになったと思います。現在ではインテグレーテッド・マーケティング(integrated marketing)や統合戦略(integrated strategy)あるいは事業・経営統合、統合医療というように、ビジネス分野でひろく使用されるようになっています。そこに共通する概念は、「複数の要素を結び付けて活用することでシナジー効果を促し、全体の効率性を高める」ことです。

一方、パブリック・リレーションズとは様々なパブリック(一般社会・ターゲット)とのリレーションズの総体であり、個々の活動を有機的に統合し、最短距離で目標(目的)達成を可能にする手法です。したがって、ここでいう「統合」とは、目標(目的)達成に必要な様々な活動が、最も効果的に発揮できるよう全体として機能させることを意味し、それを実現する能力が「統合能力」です。

なにかを統合する場合は、まず「何のために統合するのか」という「ゴール(最終目標)」とその方向性を示す「ビジョン」を明確に設定することが重要です。設定されたゴールに向かって全ての活動を統合させることで一貫性や整合性がうまれ、効率の良い戦略や戦術を構築することができます。
また高い統合能力をもつことにより、最適なゴールやビジョンの設定を可能とし、それぞれの部門の特性を活かすことで、複数の個をひとつのベクトルに集約させることができるのです。

そして「どう統合すべきか」を知るには、常に長期的かつ大局的に物事を捉える視点を確保することが重要です。「木を見て森を見ず」といった局部的な見方に気をとられすぎると、時としてゴールを見失い、戦略から逸脱してしまうことになります。

森と木の関係を例にした場合、「森全体をみる」視点、ホリスティックな視座を確保するには「燃えている木の火を消す」だけではなく、「なぜその木が燃えているのか」といった根本原因を究明することが肝要です。原因がわかれば「火はどこに向かうのか」という森全体への長期的な影響や「どうしたら消火できるのか」など、先回りして対応策を講ずることができ、損失を最小限に抑えることが可能となります。

統合能力をもつことにより、変化に対して整合性のある修正をより迅速に加えることができます。統合能力の視点で日本社会を俯瞰した場合、その能力は十分に備わっているとはいえません。たとえば、省庁における縦割り行政に起因する対応のにぶさや非効率性などがあげられます。
人材力や技術力、資金力など世界に誇れる日本の資産を国益に結びつけ、国民の幸福と世界の平和と繁栄を実現する「グランドデザイン」が描ききれずにいるのも、統合能力の脆弱性に起因しているように思われます。

「国のあるべき姿」を明確に打ち出し、その実現へ向けて動き出すには、全体を把握し国家の目的に沿って様々な要素を統合できる手法、つまりパブリック・リレーションズが重要であると強く感じています。

企業活動において広報担当者は組織の最前線にたち、経営に重要な影響をあたえる役割と機能を持っていることを認識し、PRの実務家はクライアントとターゲットとのインター・メディエーター(仲介者)として、目的達成のために最適な環境を自ら創り出してその達成に貢献していく必要があります。

実務家は、「組織のもつ人材力、商品力、資金力、情報力をどう統合すれば最大の効果を発揮できるのか」を常に念頭におきながら行動しなければなりません。統合能力が高い人間はリーダーシップを発揮できます。

したがって、PRの実務家にはパブリック・リレーションズを有効な経営手法として経営トップや各部門へ十分な理解を促し、組織全体で効果的に活用していくための強いリーダーシップが求められているのです。

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