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2020.07.21

新型コロナ禍を起爆剤に
~新しいビジネスモデルの創出が不可欠に

皆さんこんにちは井之上喬です。

海の日、スポーツの日を含む連休が目前ですが、新型コロナウイルスの感染の拡大には歯止めがかかりません。特に東京は著しく、周辺の神奈川、埼玉、千葉、そし愛知や京都、大阪、福岡など中部、関西、九州もそれを追いかける形です。

連休を前にした22日から始まる、政府の「Go To トラベル」キャンペーンでは東京が除外されましたが、再度の新型コロナ感染拡大のなかでの政府のちぐはぐな対応に、多方面から疑問、批判の声が上がっています。

進まぬ政府のデジタル化と国際競争力の低下

そんな新型コロナ禍のさなかの7月17日、政府は経済財政運営の基本方針、いわゆる「骨太の方針」を決定しました。

主なポイントを見ると、1)行政のデジタル化を促進するための制度と組織の見直し、2)企業のテレワーク定着に向けた新たな数値目標の策定、3)財政の健全化、国土強靭化や防災・減災(数値は明示せず)などとなっています。

今後1年間を集中改革期間とし、安倍首相は「思い切った社会変革を果敢に実行する」と意気込みを語ったとのことですが、状況は遅々として改善されていないことに危機感を覚えます。日本型のIT国家を目指し、5年以内に世界最先端のIT国家を目指す「e-Japan構想」を表明してから、すでに20年が経過しているのです。

省庁間の縦割りの大きな壁を乗り越えて、どこまで改革実行を加速できるか、待ったなしの状況です。

牛歩のごとき、この20年の日本のIT化の遅速を指摘する報道も多く目につきます。関連する項目をいくつか、日本経済新聞の7月18日付けなどから拾い出してみましょう。

まずは「IT競争力ランキング」です。日本は2016年の10位から2019年には12位にランクダウンしました。同ランキングは、導入するITの技術水準の高さや国民のインターネット利用率、デジタル関連の規制などを総合的に評価するもので、世界経済フォーラムなどが取りまとめています。日本は、18位の行政部門をはじめ、携帯電話料金が81位、規制が38位などで、これらが全体の順位を押し下げたようです。

ちなみに1位はスウェーデン、2位がシンガポール、3位はオランダとなっています。

「IT競争力ランキング」(2019年)

  • 総合順位:12位←10位(2016年)
  • 行政部門:18位
  • 携帯電話料金:81位
  • 規制:38位

国連の「電子政府ランキング」(2020年)では、1位のデンマーク、2位の韓国、3位のエストニアに対し日本は14位でした。皆さんも実感したことと思いますが、新型コロナウイルス対策の1人10万円の給付金受付などでもIT化の遅れが浮き彫りにされたばかり。

電子政府ランキング(2020年)

  • 1位 デンマーク
  • 2位 韓国
  • 3位 エストニア
  • 4位 フィンランド
  • 5位 オーストラリア
  • 14位 日本

また、企業活動のしやすさを評価する世界銀行の「ビジネス環境ランキング」(2020年)をみても、1位のニュージーランド、2位のシンガポール、3位の香港(2019年の発表時点で)に対し、日本は29位にまでランキングを落としています。なかでも特筆される項目としては、事業の始めやすさについてで、残念なことに、106位と惨憺たる結果になっています。

ビジネス環境ランキング(2020年)

  • 1位 ニュージーランド
  • 2位 シンガポール
  • 3位 香港
  • 29位 日本

これらの結果が表しているように、日本の国際競争力の低下は歯止めがかからないのみならず、世界に後れをとってさえいます。6月16日にスイスのビジネススクールIMDが発表した「2020年版世界競争力ランキング」では、日本のランキングは昨年の30位から過去最低となる34位に低下し、まさに奈落の底に転げ落ちようとしています。

2020年版世界競争力ランキング

  • 1位 シンガポール
  • 2位 デンマーク
  • 3位 スイス
  • 34位 日本←(30位、2019年)

同ランキングで日本は、1992年まで首位にいましたが、その後凋落が続きます。特に、ビジネスの効率性の領域が足を引っ張っているとの分析があるようで、その分野のランクは、2019年の46位から2020年は55位にまで大きく落ちています。対象となる全63の国・地域の中でも最低水準となっているのはショックでした。

イノベーションを生み出すための土壌作りを

新技術の開発やそれを活用したビジネスの展開、世界への普及など、イノベーション(技術革新)は多岐にわたります。設立50周年を迎えた井之上パブリックリレーションズは、これまでもパブリック・リレーションズ(PR)の視点から、イノベーションが生まれやすい環境作りに向け、さまざまな社会課題の解決に取り組んできました。

例えば、国内外の先進的なクライアント企業とタッグを組み、新しい健全なグローバル市場形成に向けて日本の規制緩和を後押ししました。古くは、日米の通信摩擦半導体貿易摩擦自動車摩擦の改善があります。最近でも、クラウド環境下での経費精算システムの導入に向けた規制緩和に注力し、新しい市場を創出するのみならず、その結果として社会課題の解決も実現してきました。

これまでの経験から痛感するのは、イノベーションを起こす、元気な企業が育つ土壌となる、深いレベルでの改革を日本でもっと進めていく必要があるということです。

7月18日の日経新聞1面トップでは、「米中コロナテック躍進」の見出しで、新型コロナウイルスによる社会環境の変化に対応する、米中のベンチャー企業の状況を報じています。その中で、2020年4-6月の新規ユニコーン企業数22社の中で、日本企業はわずか3社であると、米国調査会社のCBインサイツは報告しています。

また、国内のスタートアップ企業への投資額は、米国14兆円、中国10兆円超に対し、日本はわずか4000億円と圧倒的に低いことも同社は日本の低迷要因の一つに挙げています。

処方箋として、資金の供給と、先端技術に道を開く規制緩和や大学での研究の事業化、リスクに挑戦する起業家教育など、産官学でイノベーションを巻き起こす必要性について論じています。

ただ、イノベーションは狙って作れるものではありません。まずは技術革新が次々と芽生える環境を整えること。官から民、業界から社内まで、様々なレベルで知恵を絞り、常に前進させていくことが求められます。

世界規模での新型コロナウイルスの感染拡大は、社会の価値感や行動様式を大きく変化させました。例えばテレワークの恒久化など、働き方の見直しも余儀なくされています。世界は大きなピンチを迎えていますが、そこにはチャンスも隠れているでしょう。ただ、忘れてはならないのは倫理観です。人々の不安につけ込むのではなく、多様な人々の立場や状況を理解しながら、不安を軽減しよりよい社会を実現するためのビジネスを行うこと。そこに、自分たちの強みを素早く十分に発揮していくことが重要です。

ポストコロナ、ウィズコロナなどさまざまな表現はありますが、かつて人類が経験したことのない世界規模の変化のなかで、日本が生き延びるために何が必要でしょうか。この半年の混乱を通じ示された冷静さや協調性、真面目さなど、日本人の持つ特性に加えて、最先端技術を駆使した21世紀型の「Japanモデル」を生み出すこと。それがカギだと思います。

マルチステークホルダーとの良好な関係構築を通して目標を達成するパブリック・リレーションズ(PR)を通じ、多くの課題を抱える、この世界規模の難局を皆さんと一緒に乗り越える活動に、これからも取り組んでまいります。

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