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2019.11.15
量子コンピューターの衝撃!
〜社会課題解決への活用に期待
皆さんこんにちは井之上 喬です。
紅葉を楽しむ時間をないうちに、立冬が過ぎ日本列島のあちこちからは初雪の便りも聞かれるようになりました。一気に冬の足音が聞こえてきそうですね。
皆さん、寒さ対策とインフルエンザ対策は万全に。
ムーアの法則を超える
先日、コンピューターの世界に衝撃的なニュースが流れました。米グーグルが、既存のスーパーコンピューターなら1万年かかる計算を200秒でこなす「量子コンピューター」を開発したとする論文を、英国の科学誌ネイチャーで発表しました。
報道によると、今回の成果について10月24日(日本時間)に記者会見したグーグルの研究チームは「コンピューターの開発史において1903年のライト兄弟の有人初飛行に匹敵する意味を持つ」と、その意義を強調したそうです。
それに対し、量子コンピューター開発のライバルである米国IBMの研究者は「一つの問題だけを解くために作られた研究所内の実験に過ぎず、現実の用途には使用できない」と指摘。量子コンピューターの性能が従来型コンピューターの性能を超える「量子超越性」に関する論戦が、一気にヒートアップしています。
技術的な論戦は専門家にゆだねるとして、量子コンピューターの用途に関しては大いに期待しています。
コンピューターの進化をけん引してきたのが、1965年に登場した「ムーアの法則」です。半導体基板の同じ面積に作れる素子の数(集積密度)は、18か月ごとに2倍になる、という経験則ですが、以来、それに従って半導体技術が進化し続け、コンピューターの計算能力は飛躍的に高まってきました。
しかし、ナノメートル時代に入って、半導体の微細化は難しくなりつつあります。その正しさを証明し続けてきたムーアの法則も、いよいよ限界かとの声も聞かれます。そのため、微細化以外の工夫も併せて、さらに優れたコンピューターを創り出す競争が世界中で繰り広げられています。
優れた技術や理論を持ち寄るパートナーシップの重要性
ところで、コンピューティング能力の拡大に伴い、近年大いに発達した分野に、人工知能(AI)があります。2012年にネコの画像をネコと認識できる技術が開発され、以降、2015年には人間のトップ棋士を破るなど、性能向上と社会への多分野にわたる普及はとどまるところを知りません。コンピューターの能力が人間を超える「シンギュラリティ」(技術的特異点)が2045年に到来するとの予測もあり、それを実現する新たなコンピューターの開発が求められているのも事実です。
AIは、量子コンピューターの応用先として最も期待できる分野の一つであると指摘する研究者も多いようです。AIに必要な、より高度で複雑な計算を量子コンピューターが担うことで、新素材の開発や金融リスクの予測など、幅広い用途が見込まれるとしています。
今回の論文発表で注目すべき点は、論文の研究メンバーが、グーグル社内にとどまらず、米国、欧州などさまざまな組織の研究者約80人で構成されるチームであるということではないでしょうか。
最先端技術の開発、実用化は1社では限界があり、それぞれに優れた技術や理論を持つ研究者やチームと、如何にうまくパートナーシップを結ぶか。その重要性を指摘する声は、昨今ますます高まっています。
まさに今回の量子コンピューターの発表の背景には、その大きな流れがあるものと思います。
量子コンピューターの開発に関しては米国だけでなくカナダ、日本そして勿論中国も取り組んでいます。10月に開催されたCEATECのNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)ブースでも目にしたばかりでした。
誰一人置き去りにしないために
私が期待している人工知能(AI)の応用分野は、さまざまな地球規模での社会課題の解決策を見出すことです。
環境・資源・エネルギー分野、健康・医療・生命科学分野、農林水産・食品分野、そして都市・交通・インフラ分野などで多くの課題を抱え「病んでいる地球」を救うための解です。
これは、国連が2015年に採択した持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)の17の目標と169のターゲット(達成基準)にも合致し、「誰一人置き去りにしない」という精神のもと、最先端技術を活用する好例であると考えています。
SDGsの具体的な目標と照らし合わせてみましょう。まずは、9番の目標「産業と技術革新の基盤を作ろう」です。そして、最先端技術を活用して「貧困をなくそう」「すべての人に健康と福祉を」「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」「気候変動に具体的な対策を」「海や陸の豊かさを守ろう」などの目標達成につながっていきます。
そのためには、17番目の目標である「パートナーシップで目標を達成しよう」が重要になっています。今こそ国を超えた全地球チームで、リレーションシップ・マネジメントを主体とし、「倫理観」「双方向コミュニケーション」「自己修正能力」の3要素を抱合したパブリック・リレーションズ(PR)の手法を使い、地球規模での課題解決に取り組む時だと思うのです。