パブリック・リレーションズ

2005.11.04

パブリック・リレーションズの巨星たち2.PRを体系化した先駆者 エドワード・バーネイズ(1891-1995)、「社会や組織体に与えた影響 その1.」

こんにちは、井之上喬です。

いかがお過ごしですか。

今回から井之上ブログの配信が金曜日に変更になりました。

さて、バーネイズは1910年代から活動し始め、その生涯を終えるまで実に80年以上にわたりパブリック・リレーションズの世界に影響を与え続けた先駆者です。

では、彼の手がけたさまざまなプロジェクトは社会や組織体にどのような影響を与えたのでしょうか。今日は今週月曜日に引き続き、パブリック・リレーションズの巨星であるエドワード・バーネイズの「社会や組織体に与えた影響、その1.」と題して、アメリカ社会のライフスタイルにまで影響を及ぼしたプロジェクトを見ていきたいと思います。

バーネイズがこだわり続けたのは、社会科学に基づいた調査による社会構造や大衆心理の分析と、その結果得られたターゲットの属性に訴えかけるパブリック・リレーションズを徹底して展開することでした。そして、最も効果的な媒介(主にメディア)を通して戦略的にパブリックの賛同を得られる環境を作り出すことで、数々のプロジェクトを成功に導きました。

20年代、タバコの売り上げに行き詰まりを見せていた米国のタバコ業界は新しいターゲットとして女性に目をつけました。その頃American Tabacco Companyの「ラッキー・ストライク」のプロジェクトに関わっていたバーネイズは、タバコを「時代を先取りするカッコイイ女の象徴」に据えるためのイメージ戦略を展開しました。

いくつか例を挙げると、イースター(復活祭)のパレードで女性の参加者たちに「自由のための光」のシンボルとして、タバコを吸引しながら行進させました。また、当時のパッケージにグリーンが使用されていたことから、ファッション業界を味方につけて多くのファッション雑誌で特集を組み、グリーン・カラーをその年の流行色に仕立て上げてしまいました。

いつでも「スタイリッシュで解放的」でいたいという女性の心を動かすことで、多くの女性の喫煙を促したのです。タバコのもたらす健康への有害性がまだ叫ばれていない時代だからできたプロモーションでした。

また、著名人や医師、弁護士など資格を持つ社会へ影響力のある人々(インフルエンサー)の発言効果を利用して新しい考え方をパブリックに浸透させた例もあります。

その中に、40年代から20年近く携わったthe United Fruit Companyのバナナの市場拡大プロジェクトがあります。バーネイズは「バナナは健康によい食べ物」と標語した数々のプロモーションを展開。さまざまな調査の過程で49年、医師のシドニー・ハースによる「セリアック病(消化不良の便を含む小児脂肪便症)にバナナが効く」との研究結果が20年前に発表されていたことを知りました。

そこでバーネイズは、医療関係雑誌にこの研究結果を発表すると共に、ハース医師の50年にわたる医療活動とセリアック病の治療法発見の功績をたたえ、同医師の79歳を祝うバースデー・パーティを開催しました。プロジェクトに話題性を持たせたうえで、研究発表をまとめて出版した本をなんと10万部もマスメディアや医療関係者に送付したのです。

これを契機に、多くの新聞・雑誌がこの問題を取り上げるようになり、「バナナは乳幼児には消化が悪い」とされていた過去のイメージを一変させ、乳幼児にバナナは必要不可欠な食べ物とされるようになりました。その後バーネイズの助言で、the United Fruit Company によるバナナ摂取と健康の因果関係に関する研究ファンドが設立されました。

この他にも、今ではアメリカの朝食の定番になっている「卵とベーコン」を、ベーコン会社のプロモーションで新しい朝食のメニューとしてアメリカの家庭に提案しました。

このプロジェクトはthe Beech Nut Packing Co.,のために考えたベーコン消費量を伸ばす大々的なプロモーションで、ただ広告を打つのではなく、「おいしいからもっと食べて」と医者自身の口から、ベーコンを食べることは健康によいと語らせたのです。医者に対して食生活に関するアンケートを実施。その結果から「朝食はしっかり摂るのが良い」とした意見が多くあることに注目して、卵とベーコンの朝食をアピール。5000人の医師に対してその調査結果と、専門医の意見を載せた手紙を送るなど、インフルエンサーをつかった間接的な手法でライフスタイルに影響を与えたのです。今では最も一般的なアメリカン・ブレックファーストがこのようなかたちで誕生したことは驚きです。

これら以外に、米国内でシルク(絹)を広めるなど、バーネイズの社会に与えた影響は多岐にわたっています。そして、現在も人々の考え方や習慣として社会に根付いている事実を考えると、パブリック・リレーションズの与える影響の大きさを改めて実感することができます。

次回〈来週金曜日〉はバーネイズの「社会や組織体に与えた影響、その2.」と題して、パブリック・リレーションズのカウンセラーとして組織体に与えた影響を考えていきたいと思います。

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