パブリック・リレーションズ

2007.11.30

PRパーソンの心得 18 世論をリードする

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

個人が社会の様々な現象との関わりを持ち生きる過程で、集団の中に複雑に形成されていく世論。世論は時として、正義を動かし、またある時は悪をも正当化する強大な力を持っています。

パブリック・リレーションズの活動をする上で、世論とどう向き合うのか。常に私たち実務家や広報(PR)担当者にこの問いが突きつけられています。

複雑で常に変化する世論

20世紀を代表する米国のジャーナリスト、ウォルター・リップマンは、1922年出版の Public Opinion (世論)の中で、世論について、「人の集団によって、あるいは集団の下に活動する個人が頭の中に描くイメージ」(『世論』 1987年 岩波文庫 掛川トミ子訳より抜粋)と定義しました。

また1923年同書をベースに記されたパブリック・リレーションズの最初の専門書 Crystalizing Public Opinion (世論の覚醒化)の中では、著者エドワード・バーネイズ(Edward L. Bernays)は、世論について、「複雑で常に変化するもの」と位置づけました。

ジェームズ・グルーニッグ(James E. Grunig)のコミュニケーションの分類に従えば、このバーネイズの考え方は、非対称性の双方向性コミュニケーション。この時期のバーネイズは、社会へ影響力のある人々(インフルエンサー)の発言効果を利用し、新しい考え方をパブリックに浸透させるなど、非対称性の双方向性コミュニケーションを通して説得型のパブリック・リレーションズを行った代表的な実務家とされています。

バーネイズは、パブリック・リレーションズの成功には社会科学に基づいた調査により社会構造や大衆心理を分析し対象(ターゲット)を把握し、その結果得られたターゲットの属性に訴えかける形のPR活動が必要であると説きました。

世論を知る観点からみれば、バーネイズの手法は現在にも通じるものです。しかし情報流通が飛躍的に発達し、一般の人々が容易に複数の情報源を持つことができる現在、説得型のパブリック・リレーションズは機能し難くなっているのも事実です。

むしろ今求められるのは、世の中に有益に働く物事をパブリックに認知してもらう活動。つまり一方的に「それは良い物である」と説得するのではなく、様々なパブリックが既成概念を超えて自ら判断する礎となる様々な情報を提供し、対話の中でパブリックの判断を仰ぎながらリードする活動が求められているのです。

健全なパブリックを維持する

世論をリードする立場にあり、その責務を負う者が肝に銘ずべきことは、誰でも一歩間違えばプロパガンディストになり得るということです。これらは湾岸戦争やイラク戦争の例をみても明らかです。双方向性コミュニケーションによるパブリック・リレーションズに対して、有利な情報を一方的に発信し、煽動的に世論を強引に形成しようとするプロパガンダは、その技術や手法においてパブリック・リレーションズと大きく変わらないからです。

両者を区別するものは倫理観。そして、対等な双方向のコミュニケーションと自分の主張が誤りだと気付いた場合、即座に自己修正できる環境です。加えて、何が最善で最良かを常にウォッチすること。その過程で組織が誤った方向に暴走していると判断したときには、強い意思を持って進言し、それを抑止する役割を果たさなければなりません。

私は、70年代後半から80年代にかけて、インテル社やアップル社と関わり、革新的技術を集積したマイクロ・プロセッサや個人でも操作できるパーソナルコンピュータの登場により、手書き文化の日本でどうすればキーボード文化を導入、普及できるか考え、奔走しました。また80年代から90年代は、日米間に横たわる数々の摩擦(通信、半導体、自動車)にも関係し、如何に世論がマスメディアの影響を受けやすいか専門家として身をもって体験しました。

現在、ネット上の3D仮想世界と呼ばれるメタバース、セカンドライフの日本での普及に取り組んでいますが、これまでのインターネットと異なる3次元空間が社会にどのような形で受け入れられるのが最善なのか、パブリックからのフィードバックをもとに日々スタッフと意見交換をしています。

時代に先駆けて開発された優秀な技術や新しいモデルを社会に導入するためのパブリック・リレーションズの活動は、PR活動が与える世論への影響力の大きさと、その活動を担う専門家としての責務の重さを私に教えてくれました。そこで学んだことは、「パブリックは常に変化する」ということでした。

そして私達が認識しておくべきことは、パブリックはいつも健全な状態にあるわけではないということです。現在、朝日新聞(夕刊)が自戒を込めた連載読み物、「新聞と戦争」は、パブリックに最大の影響力を持つメディアの社会的責任の重大さについて多くの示唆を与えています。

PRの実務家や広報(PR)担当者は、パブリック・リレーションズがパブリックを健全な最良の方向へと導く手段として機能させる責務を負っています。皆さんが将来、高い意識と強い個に支えられた主体性のある専門家として、世論をリードする存在へと成長し活躍されることを心より願っています。

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