アカデミック活動

2013.08.01

京大MBAスクールが世界初の試み〜アジアにフォーカスしたグローバルビジネスリーダー育成

皆さんこんにちは、井之上喬です。

今日から8月に入りますが、4月から始まった私の担当する2つの講義が終わりました。
ひとつは、先日早稲田大学のオープン教育センターのゼミ形式授業「パブリック・リレーションズ特論」が千葉の鴨川での合宿を最後に終了。もう一つは、京都大学経営管理大学院の「アジアビジネス人材育成寄付講座」(Chair of Human Resource Development for Asian Business)です。

後者の京大ビジネススクール(MBA)講座は、今年4月から来年3月までの1年間にわたるもので日本の大手企業の俊英を受講生に今後急成長が見込まれているアジアでのビジネスリーダー育成を目的としています。

近年の国際環境は、米国のプレゼンスの低下や欧州経済の混乱により、先進諸国経済の先行きに不安を拡大させる一方、リーマンショックからいち早く立ち直ったアジア諸国の急速な成長と経済力拡大による「アジア市場の取り込み」は、進展するグローバル化の中でどの国の成長戦略にとっても必須要件となっています。

米国がアジア重視の姿勢を明確に打ち出した現在、日本企業がこれまでのアジアにおける事業活動を新たな次元に引き上げ、その対応力を抜本的に強化していくことは喫緊の課題になっています。

本講座ではアジア諸国の歴史や文化、ビジネス様式の理解と事業の企画・開発・推進、そして企業経営、社会貢献、人材育成、コミュニケーションなどの能力開発を通じて、日本とアジアの国々の経済・社会成長に資する受講生による日本型ビジネスモデル構築の実証研究が行われます。

講座の寄付者には三井住友銀行、野村総合研究所、大阪ガス、大林組、日本生命、三井住友海上火災、 富士ゼロックスが名を連ねています。

世界初の現地ビジネススクールとの提携

本講座推進責任者で、経営管理大学院経営研究センター長の小林潔司教授は、「世界GDPのうち、非先進国が生み出すGDPは10年以内に50パーセントを突破する。 途上国の中所得者層の規模は2030年までに12億人規模に達し、途上国の中所得者層の人口が、アメリカ、ヨーロッパ、日本を合わせた総人口よりも大きくなる」と途上国とりわけアジア重視を強調。

また、「これまでの多国籍企業が1つの国際的デファクト標準(one-size-fits-all standard)を巡って競争するモデルから、それぞれの国の実情にあった新しいしなやかな標準 (one-finds-own-size standard) モデルが求められており、それぞれの国とのアライアンスに基づいて共同開発する戦略が求められている」と前述の新しいモデル構築の必要性を説いています。

本講座では、アジア各国の有力大学や現地ビジネススクールをはじめ行政機関、企業との連携やネットワーク構築を通し、効率的かつ迅速な人材育成教育の実現を目指しています。

そのために、アジア主要国のビジネススクール、政府機関、現地企業等から26名に及ぶ講師陣を招聘して、アジアビジネスをリードする卓越した人材育成のための教育カリキュラムを組み、教材の開発も進めています。

カリキュラムでは、英語集中研修や4つのテーマ(各国の状況、リーダーシップと人材管理、CSRパブリック・リレーションズ)を含むコアコンピテンシー集中講義を行います。

加えて受講生がアジア各国(初年度はタイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、インド)に滞在し、現地企業・政府機関等との人脈構築、現地ビジネス環境などのフィールドリサーチを行う計画です。
この講座の特徴は、世界でも初めての試みとなる、現地ビジネススクールとの提携です。

講座の重要部分は現地でのインターンシップですが、現地でトップを走る提携先の拠点大学を経由して現地企業でインターンシップを行い、これまで取引先や日系社会としかネットワークを持たない日本企業が相手国大学を経由することにより、通常のビジネス活動では展開できないネットワーク形成を可能としています。

京大ビジネススクールが西日本でトップ

社会人の間で「学び直し」への意欲が高まるなか、MBA(経営学修士)を取得できる大学院が関心を集めているようです。

日本経済新聞社と日経HRは昨年から「ビジネスパーソンが通ってみたいMBA大学院」について、「ビジネススクール調査」を実施しています。

今年は、全国の20-40歳代を中心とするビジネスパーソン1715人を対象に同調査を行っています。
その結果、首位は東日本が慶應義塾大学大学院の経営管理研究科(1477点)、西日本は京都大学経営管理大学院(1753点) が、2年連続して選ばれています。

東日本の2位は早稲田大学大学院商学研究科(1048点)、3位は一橋大学大学院商学研究科(841点)。西日本の2位は神戸大学大学院経営学研究科(1200点)、3位は同志社大学大学院ビジネス研究科(688点)。

私は前述した京大のアジアビジネス人材育成寄付講座で前述の4つテーマのひとつである、「グローバルビジネスの基盤としてのパブリック・リレーションズ」をテーマに5回の講義を担当しました。

京都大学経営管理大学院東京オフィスにて

グローバルビジネスの基盤となるパブリック・リレーションズ(PR)とは何か、また混沌とする社会にあって何故必要とされるのか、その背景をグローバルな視点で受講生の理解を深めることが主眼でした。

企業や組織では人材不足に陥ると、企業側の視点に立った即戦力となる人材の確保に走りがちになりますが、多様性が求められるグローバルビジネス環境では、異なる相手を理解し自己を主張できる豊かな「個」の確立した、人間力ある人材が求められます。

パブリック・リレーションズは、目的や目標をスムーズに達成するために必要な、「倫理観」、「双方向性コミュニケーション環境」、そして、「自己修正能力」の3つのグローバルビジネス人材に不可欠な基本要素を併せ持った手法。

ダイバーシティ(多様性)は倫理観のある双方向性環境の中で有効となり、相互理解のない異文化間の衝突は、自らの修正に至らず、国家間の戦争にさえ発展しかねません。さまざまなステークホルダーとの良好な関係構築づくりを通してリレーションシップ・マネジメントが行なわなければなりません。

大手企業で次代を担う人材として推挙された受講生。米国ビジネススクールのように、1年間まるまる勉学に没頭できる環境の中での講義は、昼間社会人として働き夜間や休日に受講する日本型MBAスクールと異なり熱気溢れたものでした。

その勉学態度だけでなく新たな知識の吸収力や応用力などには目を見張るものがありました。近い将来、この講座の受講生からアジアやグローバル・ビジネスにおけるリーダーが輩出されるであろう手応えも感じることができました。

京大の強みであるフィールドリサーチや研究手法も取り入れ、小林教授のリーダーシップのもとでこれまでにない斬新な教育コースの開発や、それを実現するスピードと事業力が、京大MBAスクールを西日本でトップの座に輝かせた証左といえなくもありません。

私が日頃口にする「時流の潮目を読む先見性」を実感できるプロジェクトでした。

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