アカデミック活動

2013.03.25

グローバルビジネス学会 第一回全国大会開催〜10件の研究発表と講演・パネルで終了

こんにちは井之上喬です。

グローバルビジネス学会(SGB)の第一回全国大会が3月16日と17日の両日にわたって開催されました。「多極化におけるグローバリゼーション」を統一テーマに、数々の講演とパネルディスカッション、そして10件に及ぶ学会内研究成果の発表と討議が行われました。

世界経済の発展に寄与する人材の育成を目的としたグローバルビジネス学会は国際的学術団体。昨年4月に設立されて最初となる全国大会には、会場となった早稲田大学国際会議場の会議室(16日)と井深大記念ホール(17日)に、グローバルビジネスに関心の高い会員、一般参加者約250名が出席しました。

ハイレベルな10件の研究発表とTPPセッション

初日の10の研究は、インフラ、知的財産、人材教育、競争力、新提案の5つのカテゴリーに大別され発表が行われました。

最初は、山根公高東京都市大学准教授による「水素エネルギー社会と水素自動車のグローバル化に向けて」。来るべく水素社会に向けて、技術的に優位性を持つ日本から世界普及の重要性についてさまざまな数値を用いて発表されました。

二番目は、日立の英国での鉄道事業における研究として、「英国鉄道ビジネス参入への挑戦」が山田千晶氏(日立製作所)から発表されました。同社がさまざまな試行錯誤を経て今日のビジネスモデルを構築したことを、検証を通して明らかにしています。

これ以外に、ビジネスのグローバル化が進む中で増加が予想される国際係争における国際仲裁について、中野憲一、原悦子弁護士(毛利・アンダーセン・友常法律事務所)による「国際取引と投資協定仲裁」の発表。

紙面の都合で、詳しくご紹介できませんが、他の発表では、渥美育子氏による「グローバル人材を測定するインデックス試論」、丸田力男氏による「日本産業のグローバル競争力の低下―その真因究明と改善策の提案」。

山川義徳・金井良太・岡宏樹・原良憲各氏による「オープンサービスイノベーションを支える脳科学の産業応用?文化多様性に適応するためのニューロITストラテジー」。

今回唯一の米国人ビジネスマンPaul LaValla氏による、“Death and Rebirth of the Domestic Economy”など、それぞれ独創的なテーマの発表が行われ、発表後の質疑応答は毎回時間切れの状態。

とりわけ興味深かったのは、学生会員による発表(大和田克:早大院、神谷貴大:中大、梅田知里:慶大)で、「世界情勢の変化と教育制度の転換―アイデンティティ確立こそ,今教育に必要だ」をテーマに、大学教育には宗教、哲学、歴史、とりわけ明治維新以降の日本近現代史の学習が必要であることを学生の視点で論じていたことです。

10件の発表の詳細については次の予稿集サイトにアクセスください。 ( http://s-gb.net/contents/sgb_1stcon.pdf

初日の16日には特別セッションとして、今最もホットな国際的な貿易問題であるTPPが討議されました。前日には、安倍首相が日本のTPP交渉参加を正式表明しただけに会場は熱気で満席。

セッション参加者は、渡邊頼純氏(慶応義塾大学教授)、近藤剛氏(早稲田大学特命教授/伊藤忠商事理事)、そして在日米国商工会議所のローレンス・グリーンウッド氏(U.S.-Japan Regional Leadership Committee共同議長/元APEC米国大使)の3名。

(写真:16日TPPセッション 右から渡邊教授、近藤教授、グリーンウッド元APEC大使)

冒頭はモデレータの渡邊教授による、日本で誤解されているTPPの諸問題について解説が加えられました。

これを受け、商社時代ワシントンでロビイストとして活躍していた近藤氏が、日本での国際経済連携構想は30年以上前の大平内閣に遡ることを披瀝。重要なことは日本の農業のように、保護主義を貫き通すことではなく、積極的な海外輸出を含む市場開拓をマーケティング手法など駆使して行い、ブランド化することで産業競争力をつけることであるとし、タフなネゴシエータによる、一刻も早い交渉参加を訴え、TPPが日本にも大きな恩恵をもたらすことを強調。

またグリーンウッド氏は、TPPについての情報不足に起因すると考えられるTPPに対するイメージの“Obake”化にも言及。TPPを理解していないことでTPPが恐ろしい存在として国民の前に立ちはだかっているのではないかと、政府の国民へのコミュニケーション不足を指摘しました。

フロアからのさまざまな質問も受け、最後には情報交換や情報発信を積極的に行うことで交渉に入っても不必要な摩擦は避けるべきとする意見で一致しました。セッションは予定を10分オーバーして終了。

また16日は、昼の時間を利用して、守山宏道経済産業省中小企業庁国際室室長による講演「我が国、中小企業の海外展開」が行われるなど、盛りだくさんのプログラムでした。

■グローバル人材に必要な5つの”C”

2日目の17日午前中は、大竹美喜会長、小林潔司理事長の挨拶に始まり、小島順彦三菱商事会長が統一テーマを受けた基調講演を行いました。なかでも人材育成の重要性について語っていただきました。

中東サウジアラビアでの勤務経験が自らの原点にあるとし、英語は重要だがもっと重要なことは、1)自分の意見を持つこと、2)自分の意見を自らの言葉で伝えようとする姿勢、3)目標に向かって貪欲に努力する精神的な逞しさを持つこと、の3点としています。

また、グローバル人材には以下の5つの“C”が必要として、 Curiosity(探究)、Challenge(挑戦)、Communication(意思疎通)、Courtesy(礼儀)、 Characteristics(独自性)を挙げ、とりわけコミュニケーション能力が求められるとし、同世代だけでなく若年から壮年までが連携し合う、タテ、ヨコのコミュニケーションの重要性に触れています。そしてタフな人材育成には、米国の授業で行われているようなディベートも取り入れる必要があることを指摘。

基調講演を受けてパネルディスカッション(モデレータ:井之上喬)では小島氏も加えた5名のパネリストによる討議が行われました。

(写真:パネルディスカッション:右から、小林潔司、関口和一、
小林りん、アレン・マイナー、小島順彦、筆者)

最初のアレン・マイナー氏(サンブリッジ会長)が日本の若者のベンチャー精神は日本人が考えているより旺盛とし、彼らの中に世界市場を見据えて行動する人材が現れていることを指摘。また、日米起業協議会(イノベーション・アントレプレナーシップ・カウンシル:経産省、国務省共催)の米側委員を務める同氏は、日本人の外国に対して持つ関心の高さは世界一と日本のグローバル化に肯定的な見方を示しました。

軽井沢での国際的な中高一貫校開設の準備に追われる小林りん氏(インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢設立準備財団代表理事)は、これからの教育は1)問題設定能力、2)リスクテーキング能力、3)多様性への寛容力に重点を置く必要があると自らの体験を交えながら語っています。

一方、日本経済新聞の関口和一氏(論説委員兼編集委員)は、英語教育は必須としながら、これから必要とされる人材として、1)ベンチャー人材、2)ソフトウェア人材、3)グローバル人材の3つを挙げ、個性を持ち「人と違うことをやる」ことができていないとし、教育の中身は、知識習得偏重主義から 問題設定能力向上に力点が置かれる必要性を強調。

小林潔司教授は、「自分のコア」を持つことが大切。海外では日本のどの大学を卒業したなどは誰も知らないし気にも留めない、重要なことは自分が何者で、何を考えている人間であるかである、とこれからは個人の人間力が重視されるとし、「学生の両親に対する教育」の必要性も説いています。また京都大学経営管理大学院が、4月から開講する「アジアビジネススクール」の人材育成プログラム概要を説明。

最後に、大学の就活問題が議論として浮上。現在のように3年から就職活動を始める状況は決して健全ではないとし、就活前の学習や海外での異文化体験を奨励し、大学4年の後半からでも遅くないとする意見が多く出されたのが印象的でした。

午後からは、3つの研究発表が行われました。一つは、原良憲氏(京都大学経営管理大学院教授)による「おもてなし革新のグローバル人材育成」、もう一つは小林潔司氏(同教授)による「グローバル人材育成の必要性」、そして私の発表となる「グローバルビジネスのインフラストラクチャーとしてのパブリック・リレーションズ」。私の発表については紙面の都合で、別の機会にご紹介したいと思います。

(写真:筆者研究発表)

これらの発表に続き、木村惠司氏(三菱地所会長)、釡和明(IHI会長)、田中秋人氏(イオン顧問)、Alison Murry氏(欧州ビジネス協会事務局長)による講演が続きました。日本のエグゼクティブの皆さんからは、グローバル企業としての企業紹介に続き、グローバル人材育成の現状と課題についてお話しいただきました。

最後のMurry事務局長は、3月末から話し合いに入るとされる、日本とEUのEPA(経済連携協定)が二つの経済圏に与える影響について語ってくれました。

最後は、大会実行委員長の白井克彦前早稲田大学総長からのお話で無事2日間の大会は終了。

今大会の特色は、ペーパレス化をめざして「予稿集」を電子出版で行ったことと、また初めての試みとして、ニコニコ動画でインターネットのリアルタイム放送を行ったことです。アクセス数は、この種の放送には珍しく6万超。

その後の懇親会には、参加者・講演者などに加え、日ごろお世話になっている三井住友銀行会長の北山禎介さんや日本政策投資銀行社長の橋本徹さん、元内閣官房副長官で東京都社会福祉協議会会長の古川貞二郎さん、また大使館関係ではベラルーシ、コソボ、ベナンの駐日大使など大勢の方々が駆けつけてくださり、暖かい雰囲気のなかで交歓が行われました。

最後に、この大会成功のために、尽力いただいた関係者の皆さん、とりわけ会場を使用させていただいた白井先生をはじめとする早稲田大学関係者そして実行委員の方々、就活中にもかかわらず参加してくれた学生ボランティアの皆さん、そして学会事務局スタッフの皆さん本当にありがとうございました。

次回のSGB全国大会は、京都で開催の予定です。

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