アカデミック活動
2014.01.30
地球儀的な感覚を!〜多様性こそ真のグローバル化の源泉
皆さんこんにちは井之上 喬です。
新年を迎えたばかりと思っていたら、今週土曜日には早や如月(2月)を迎えます。一日おきに寒い日と暖かい日が交互に訪れる不順な天候が続いていますが体調は大丈夫でしょうか。
首都圏でのインフルエンザは、ここ1?2週間がピークとの予想もあります。外から帰ったら手洗い、うがいを励行しましょう。
2人のミスターNHK
今週はNHKの籾井勝人(もみい かつと)新会長の就任記者会見での従軍慰安婦問題、尖閣諸島などの領土問題、靖国神社参拝、国際放送などに関する発言への批判が噴出したことは皆さんもご存知だと思います。
国際経験を買われてのNHK会長就任でしたから、会見での一連の発言には残念ながらクエスチョンマークがつきましたね。どのようなトップにも新しい環境でのメディア・トレーニングは必須ですが、受けていたのでしょうか。
偶然ですが先日私が副会長を務めるグローバルビジネス学会では、第18回のモーニングセミナーを開催しましたが講師はかつて“ミスターNHK”と呼ばれた国際ジャーナリストの磯村尚徳(いそむら ひさのり)さんでした。
国際ジャーナリストとして日欧米で講演活動などに活躍中で、2013年3月にはNHK特集番組、テレビ60年「磯村尚徳さんと語る報道番組」「あの時世界は」が放送されましたのでご覧になった皆さんもいらっしゃると思います。
当日は84歳とは思えない現役当時と変わりないダンディさと語り口で、1時間を超える講演を立ったままで行っていただきました。
テーマは「グローバル化の落とし穴 ?アメリカの知的ヘゲモニー」で話の内容は、“赤と白”、Coin laundry for brain、米国の知的ヘゲモニー、そして理想のグローバル人材、の大きく4つの流れで構成されていました。
欧州での豊富な経験とジャーナリストの視点からのお話は、われわれ日本人の一般的な考えともいえる米国中心のグローバル化に対し一石を投じた内容であり、私にとってはこれまでのグローバル化に対する考えをもう一度見直したいと思わせるような内容でした。
冒頭の“赤と白”では昨年就任したフランシスコ教皇(ローマ法王)を、白衣を着た革命的な聖職者と紹介し、権力の象徴である玉座を廃止したり、教会の腐敗を批判したり、いわゆるグローバル化は「人を殺す経済である」であると堂々と批判し庶民に大人気であることを紹介してくれました。
さらに、“Greed is good”(物欲第一主義)の市場主義に引導を渡したことなど、日本のマスコミではなかなか報道されないような欧州の常識も披露していただきました。
また、Coin laundry for brainではIT革命により、いつでもどこでも、だれでもが同じような情報の平坦化状態にあるように感じられますが、「それはコインランドリーでずっと洗われているから」で、日々の膨大な情報は実は米国系の4つのメガメディアから出ているとしています。
これら4つのメガメディアは、マードック氏率いるニューズコーポレーション、CNNなどが加盟するタイムワーナー、そしてディズニー、グーグルで、そしてその背後には米国政府が存在するとした世界のメディア構造を指摘していました。
情報の洪水に流されるな!
さらに昨年スノーデンの暴露でベールを脱いだNSA(米国国家安全保障局)については、当初テロリスト対策を名目に組織されはしたがCIAの3倍の予算で修士以上の職員3万8000人を擁していると語りました。
NSAが世界中の人々の情報を収集、解析していることは独メルケル首相の携帯電話盗聴問題でも明らかで、唯一の超大国米国が“米国流のグローバル化”を統率していると鋭く指摘。
そのほかにもユーロ危機は、米国のヘッジファンドが引き起こした危機でギリシャなどの欧州は犠牲になったと、我々が日々接する米国中心のニュース報道視点とは異なる欧州の常識も披露していただきました。
最後に理想のグローバル人材のためには、「地球儀的な感覚」、「Another America(リベラルで知的で良質なアメリカと組む)」、さらに「米国だけが留学先でない」と多様性がなければ真のグローバル化とは言えないと締めていただきました。
パブリック・リレーションズ(PR)に関わる一人として、真実はどこにあるのか、情報の価値をどこに見出すのか、米国一辺倒のグローバル化なのか、多面的な視点をもつことの意味、日本が主体的なグローバル化とはどのようなものなのか、などについて改めて考えさせられる貴重な時間でした。