アカデミック活動

2013.02.04

日経-京大共催シンポジウム「グローバルリーダーの条件」から〜再認識されたパブリック・リレーションズ(PR)の役割

こんにちは井之上 喬です。
昨日(2/3)は節分でした。豆まきの風習は平安時代に起源をもつといわれ、季節の変わり目に邪気を払うために行うと考えられているようです。
皆さんのお宅では節分をどのように過ごされたのでしょうか。

さて今回は、先月24日に催された京都大学経営管理大学院と日本経済新聞社の共催による “The Nikkei Asian Review”(週刊英文経済誌)の創刊1周年を記念したシンポジウム「アジア新潮流・グローバルリーダーの条件」(会場:日経ホール)についてお話します。

このシンポジウムは、京都大学の有するビジネスリーダー育成に関する知見をベースに、アジアビジネスに精通している専門家を招き、グローバル化の進展のなかでリーダー育成とビジネスネットワーク構築のための課題などについて考えていく目的で催されたものです。

グローバルビジネス学会が国際協力銀行とともに、このシンポジウムを後援していた関係や京都大学経営管理大学院の特命教授を務めていることもあって、後半(16:30-17:50)のパネルディスカッションでは私がモデレーターを務めました。

アジア経済圏の新たな統合化

翌朝の日本経済新聞の紙面(9面)ではこのシンポジウムについて、「参加者からは経済危機への抵抗力を高めるために、経済統合を通じたアジア経済圏の強化が必要との声が目立った。」と報じられました。

国内市場・経済が低迷する日本にあって、急拡大するアジア市場を中心とするグローバル市場への企業対応がまさに問われています。

とりわけ経済成長で大きな潜在力をもつアジア地域において、ビジネス成功のためのネットワークの強化・拡大は日本企業にとってまさに喫緊の課題となっています。

また同紙では、基調講演を行ったフィリピンのアキノ政権のエコノミスト、カイェタノ・パデランガ・フィリピン大教授が2008年のリーマン・ショック後のASEANの動きについて、「東南アジア諸国連合(ASEAN)経済は内需を強めながら域内の結束を強めている」と伝えています。

駐英タイ公使で前タイ財務省ASEAN財務金融局長のケツダ・スプラディット氏も基調講演で、ASEAN10カ国と日中韓印など6カ国をひとつの自由貿易圏とする東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉入りに言及し、「地域の新たな統合が始まろうとしている」と地域経済の将来性を強調。

PRはグローバル人材に不可欠な要素

私がモデレーターを務めたパネルディスカッションでは、「グローバルビジネスリーダーの条件とはどのようなものなのか?」についてそれぞれ異なったバックグラウンドを持つ6名のパネリストの方に登壇いただき討議を進めました。 

6名の方々(順不同)は、星文雄氏(国際協力銀行代表取締役専務)、北山禎介氏(三井住友銀行取締役会長)、大曽根恒氏(東洋エンジニアリング常務執行役員)、田中秋人氏(イオン中国・アセアン事業顧問/前イオン専務)、小林潔司氏(京都大学経営管理大学院教授/経営研究センター長)、そして太田泰彦氏(日本経済新聞社論説委員兼国際部編集委員)といずれも各界を代表し、グローバルビジネス分野で素晴らしいキャリアをもつ方々です。

(写真:左より、筆者、北山、星、大曾根、田中、太田、小林の各氏)

紙面の都合もあり80分にわたるパネルディスカッションの中から、6名のパネリストがグローバルリーダーに抱くイメージや条件、そしてグローバル化の課題などについて簡潔な紹介と、モデレーターとして私のまとめを行ってみたいと思います。

幼少の頃から海外生活体験を持つ星さんは、グローバルリーダーの条件について、英語でのコミュニケーションがとれること(可能であれば中国語、スペイン語などグローバルな言語をもう一つ)、出身国の政治や経済、文化などについて語れること、そして世界の政治や経済動向を理解して自分の考えを述べられることなどを挙げています。

リーダーに対する処遇は、日本国内とは異なる給与、要するに欧米先進国企業と同等の処遇を与えることが肝要であり、日本式経営を押し付けるべきではないとしています。 銀行マンとして米国やマレーシアなどでのビジネス経験を持つ北山さんは、コミュニケーション能力はローカルビジネスを展開していくうえでアジアに限らず欧米においても共通する普遍的な要件であると述べています。

タイなどで女性の活躍が目立っている現状を踏まえ、スタッフ拡充のため現地ナショナルスタッフに対し権限をいかに委譲していくかということと、ダイバーシティに配慮することが重要としています。

また、初等教育から高等教育の全ての段階における教育システムのブラシアップ、つまりコミュニケーション能力や倫理観を高めるだけでなく英語をツールしてグローバルに発言できるよう日本の教育システムを改革し、内なる国際化を進める必要があると述べています。

現地法人の社長も務めインドビジネスの経験が長い大曽根さんは、グローバルリーダーの条件として熱い情熱をもったジェントルマンであること、広い視野と好奇心をもつこと、そして基本的な語学力を挙げています。

また日本人リーダーに求めるものとしては、現地の歴史、文化、生活習慣などに対する理解や経営方針の明確化と伝達・理解の徹底。ローカルリーダーに求めるのは、世界的視野と理解力、向上心と改革力、そして後継者育成としています。

イオンのアジア進出に長年かかわってきた田中さんは、グローバルリーダーの資質として、3つ挙げています。

一つ目は、ステークホルダーとの関係構築のためのコミュニケーション力(英語+現地語)です。日本人の文化である謙譲の美徳や陰徳を積むという行動は海外ではほとんど評価されない。情報発信力が極めて重要となるといいます。

二つ目は、高潔で包容力のある豊かな人間力(リーダーシップ)で、倫理感(公私のけじめ)や150%クリーンハンドの原則、同じ目線で対話できる資質について言及。

三つ目の斗う力については、交渉という戦争に勝つためには確かな戦略の下に周到な戦術が練られなければならない。

そして戦斗に勝利するための備え、武器、弾薬や兵糧などの準備を万全にする必要があると述べています。 京大で教鞭を執る以前、IMFやOECDなどの国際機関で従事した経験を持つ小林さんは、グローバル人材にはロジカルシンキングが重要。理屈で攻めて合理的に説明できればビジネスで勝ちを得られる。そうしたタフネスがあるかどうかが肝要としています。

また日本にもっと「知的ゴロツキ」つまり欧米のように、博士号を持ち個人や自国の利益のために相手と丁々発止できるしたたかな人材を増やす必要性を説いています。 そしてコミュニケーションは受け手がするものという考えを変えなければならないとし、彼らと一緒に新しいものをつくるといった共感が必要で、こうしたポジティブな考えがあれば上手くコミュニケーションが取れると述べています。

最後に今年の4月から東京で開講する京大アジアビジネススクール開設に中心的役割を果たしてきた小林教授は、思い切った人材育成プログラムを発表しました。

太田さんは、ワシントンとフランクフルトで日経の駐在記者として米欧の政官界やグローバル企業を取材した経験から、グローバルリーダーはコミュニケーション能力が最大の要件。多国籍、多言語、多民族、多文化の組織を束ねるリーダーの力は、他者に伝わる明確な「言葉」と「理念」だと明言しています。 そしてTPPなど広域経済連携の時代に入り、企業の舞台は海外に一段と広がっているが人材が追いついていない。海外で人(日本人)を育てる必要があるとの提言もありました。 黙っていては伝わらない。文字で書いた文書でも伝わらない。太田さんは自分の言葉で語る大切さを強調し、記者としていつも「発言取材者に対してストーリー性を求めている」ことを強調。

つまり企業トップが自らの哲学や生きざまについてストーリーテリングができないと読者を感動させることはできないとしています。 欧米の企業トップにとって自らのストーリーテリングはトップの務めになっていますが、日本人経営者の中にも少しずつその必要性について理解を示す人たちが増えつつあります。

(写真:筆者)

こうした6名の方々のお話に共通したのが「グローバルリーダーにはビジネス相手の説得や市場開発のため現地語と英語によるコミュニケーション能力が不可欠」ということでした。

コミュニケーションとりわけ双方向コミュニケーションパブリック・リレーションズ(PR)活動にとって、「倫理」「自己修正」とともに3つの基本原則を構成する一つです。 こうしてみるとパブリック・リレーションズは、グローバルビジネス人材に不可欠なインフラストラクチャーであることがわかります。さまざまなステークホルダーとの関係構築作りこそパブリック・リレーションズだからです。

例えばダイバーシティ(多様性)は、双方向コミュニケーションの環境の中で有効となり、相互理解のない異文化間の対立は自らの正しい修正に至らず、国家間の戦争にさえ発展しかねません。進出企業を取り巻く様々なステークホルダーとの倫理観に基づく良好な関係構築づくりを通してリレーションシップ・マネジメントが行なわなければなりません。

アジア地域には多様な国家や地域が多く、相互理解と受容性が大事になりますが、同時にその姿勢をステークホルダー積極的に伝えていくことも重要となります。 これまで欧米主導であったグローバルビジネスの重心がアジアに移行しつつある中、文化、商習慣、言語、宗教が異なるアジアで成功するリーダーシップと本社トップのもつリーダーシップでは求められる役割も異なってきます。

こうした異質性について大学教育や企業研修を通して積極的な内なる国際化への努力が求められていると言えます。 このシンポジウムを通して、ASEAN10カ国と日中韓印など6カ国をひとつの自由貿易圏とする東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の深まりのなかで、パブリック・リレーションズの機能がますます重要なものになることを実感しました。

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グローバルビジネス学会が第一回全国大会を開催 「多極化におけるグローバリゼーション」を統一テーマに講演と研究成果を発表 グローバルビジネス学会は本年3月16日と17日の両日、第一回全国大会(実行委員長:白井克彦 放送大学学園理事長/前早稲田大学総長)を早稲田大学国際会議場(井深大記念ホールほか)で開催します。 全国大会初日は、TPPに関して慶應義塾大学の渡邊頼純教授によるセッションのほか学会員の優れた研究成果が発表されます。

2日目には小島順彦氏(三菱商事会長)の基調講演をはじめ、内外で活躍する各界を代表する有識者の講演とパネルディスカッションが組まれています。2日目の大会後には懇親会も催されます。

なお、学生は参加費無料(※懇親会のみ有料で3,500円)。

*第一回全国大会の詳細と参加申し込みは学会ホームページ(http://s-gb.net)から。 ■本件に関する問い合わせは下記へ 「グローバルビジネス学会」第一回全国大会実行委員会E-mail:info@s-gb.net

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