アカデミック活動

2011.03.28

早稲田vsウォートンMBA学生のビデオ討論 〜被災地への思いを共有して

皆さんこんにちは、井之上 喬です。
先日私がパブリック・リレーションズ(PR)の教鞭を執る、早稲田大学大学院公共経営研究科の学生と米国ペンシルバニア大学大学院、ウォートンスクールの定例ビデオ・カンファレンスが行われました。

この定例討論は、公共経営の学生とウォートンスクール/ローダーインスティチュートの学生との間で毎春行うもので、昨年は「CSR」をテーマに日米企業のCSRに対する取り組みとその違いについて論じ合いましたが、今年は直前の震災発生のため当初の予定を変更し「東日本大震災」にテーマをしぼりました。

ウォートン側はMBA生、早稲田側からの出席者は、終業式を中止にしたこともあり、院生2年の三加茂圭祐君の声かけでアジア太平洋研究科や教育研究科など学内の他の院生にも参加してもらいました。またコーディネータとして、ウォートン側はプログラム・ディレクターの長友恵美子さん。早稲田側からは私がモデレータとして、そしてまとめのためのレクチャーを行いました。

早稲田大学大学院公共経営研究科の学生と米国ペンシルバニア大学大学院、ウォートンスクールの定例ビデオ・カンファレンス

被災地へ思いを馳せながら

連日地震・津波・福島原発のニュースであふれる日本の学生と、大災害を米国から注視するウォートンスクールの学生とのビデオ討論会は、これまでのものとは異なったものになりました。

討論会が始まる前に、ウォートン側からのたっての希望で言語文化部長のDr. Kenric Tsethlikaiから東日本大災害に対する丁重なお見舞いの言葉をいただきました。

双方の学生紹介の後に、さっそく討論に。討論のテーマは3つ設定され、1つ目は、「今回の大震災時の日本政府の対応」について、2つ目は「この大震災とソーシャルネットワーク(SN)の関わり」、最後は「日本でのSNSの普及と将来;実名vs匿名」について。

最初の、「今回の大震災時の日本政府の対応」では、海外のメディア(CNN、FOXなど)における、日本政府の福島第1原子力発電所への対応についての批判を日本人としてどう受け止めているのか? また、日本政府のこれまでの対応をどのように評価しているのかなどについて討論が行われました。

続いて、放射線リスクに対する日米メディアの反応の違いについて論じ合いましたが、日本と比べ情宣的な米国メディアの報道について、日本側がどのように感じているのかについても話し合われました。

2つ目の「この大震災とソーシャル・ネットワーク(SN)の関わりについて」では、今回の地震で「SNS」がどのように利用されていたかといったもので、具体的には家族との連絡や地震情報を得る時、また情報を発信する際のSNSの利用状況などについて討論が行われました。

また今回の地震の経験で固定電話や携帯電話が使えなかったことなどから、将来はツイッターや、スカイプ、FacebookなどSNS利用の傾向がより高まるのではないか、といったことについても話し合われました。

3つ目の「日本でのSNSの普及と将来;実名vs匿名」については、実名公表をためらわない米国に対して、匿名的な利用傾向が強い日本では、Facebookより匿名で自分の気持ちが日記形式で書けるMixiへの人気が高いことなども話し合われました。

またFacebookのもつ魅力の一つである、表面的ではあるが実名で日々の行動を書き記せる、利便性の高いサイトの魅力についても討論。

面白いことに米国でのFacebookは就活に活用されていて、企業側が書類選考の際に実名で登録されている学生の情報にアクセスし参考にするケースもみられるようです。

一方今回の災害で、日本側から、これまで信頼性の高かった携帯電話の機能不全が露呈したことが明かされました。これらが実名でのツイッターやFacebook利用によるSNSへの信頼性を高め、今後日本での利用増加が見込めるのではないかといったことについて論じ合われました。

ルイスの文化モデルと日本人のソフトパワー

討論の最後に、日本人被災者の行動に対する世界からの賞賛とその文化的差異について話し合われました。
ウォートンの学生たちは被災地で整然と並ぶ日本人を見て、「日本人ってすごい」と感じたようです。

またこのところの海外からの報道を見ても、日本人はどうしてあの様な行動がとれるのか西洋人にとっては興味が尽きないようです。

授業では、リチャード・ルイスの「3つの文化モデル(Lewis Model)」を使い、西欧人と日本人の文化的相違を考察しました。

このモデルは、西欧諸国にその特徴がみられるLinear-Active(線状的)文化、そしてラテン諸国にみられる Multi-Active (複合的)文化、最後に、日本を代表するアジア諸国のReactive(反応的)文化を分類し、それぞれがもつ特性を当てはめたモデル。

授業では、「避難所に物資が届いた時に我先にと、物資の取り合いにならずに整然と列を成して順番を待っている日本人を見てびっくりしたが、これは日本では普通のことなのでしょうか?」といった質問も米側から飛びだしました。
日本人は、冷静でパニックに陥らず、規律正しく、自然に敵対することなく融合し、地震など人間より大きな自然の力によって起きた事象に対しては受け入れる傾向が強いことなども話し合われました。

また前回紹介した、ジョセフ・ナイ、ハーバード大学教授の「ソフト・パワー」についても討論し、この震災とその復興を通して、日本がソフトパワーを世界に示すいいチャンスであることも論じ合いました。

1時間半の時間はあっという間に過ぎ、定刻をオーバーしての議論でしたが、次世代を担う若者が地球規模で助け合おうとする精神に心を打たれるとともに、世界が良い方向へ進んでいくことを感じさせてくれた授業でした。

授業の後に長友さんからの話しで、この討論に参加した学生が中心となって、今週ウォートン内で数百人規模の日本の被災者のための募金活動パーティが開催されるとのこと。

このような募金パーティは、同大学内でも複数あるようで、日本支援の輪が広がっているようです。
最後に私の心に残った話は、日本側学生の一人、森田昌代さん(アジア太平洋研究科2年)のエピソードです。
討論会前日にペルーから帰国した森田さんは、ダラスから日本に向かう飛行機に乗り合わせた一人の米国青年と知り合います。彼は以前「ジェット・プログラム」(文科省主催)で東北地方のある町に英語教師として滞在していたようで、今回の震災を知り、何とか被災地に戻り現地の人たちを助けたいといたたまれず飛行機に飛び乗ったといいます。

多くの外国人が次々と日本を離れていくなか、放射能の危険も顧みず被災地に向かうこの青年の勇気と彼の無事を祈らずにはいられません。

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