アカデミック活動

2011.01.31

古川貞二郎元官房副長官を迎えて〜「パブリック・リレーションズ概論」

こんにちは井之上 喬です。

2004年にスタートし、私が教鞭を執る早稲田大学の「パブリック・リレーションズ概論」。この授業のなかの「組織体とパブリック・リレーションズ」のシリーズでは毎年、大手企業の経営者や広報部長、海外の企業経営者、そして自治体や政府で活躍した方など広範にわたってさまざまな講師を外部からお迎えしています。

今回はその中で、政府の中枢で日本国の運営にあたった元内閣府官房副長官の古川貞二郎(東京都社会福祉協議会会長)さんをゲストにお迎えし、「リーダーのあり方と政府広報について」というテーマでお話しいただきました。

在任8年7ヵ月の軌跡を語る

古川さんについては、これまでこのブログでもたびたび紹介しましたが、私との出会いは、4年前の「東京都社会福祉協議会プロジェクト」への関わりがきっかけ。

古川さんはその経歴から異色な官僚といえます。九大法学部を1958年に卒業し、長崎県庁を経て1960年に厚生省へ入省。厚生省保険局長、厚生事務次官などを歴任の後、1995 年からは、前任者の石原信雄氏を引き継ぎ行政出身の内閣官房副長官に就任。

8年7ヵ月にわたり村山富市、橋本龍太郎、小渕恵三、森喜朗、小泉純一郎の5 人の総理に仕えるなど、在任期間は歴代最長記録の持ち主で、官僚トップとして内外の数々の政策づくりに関ってきた方です。

古川さんの首相官邸での勤務は、74年の内閣参事官時代の田中内閣を皮切りに、三木内閣、福田内閣、その後首席内閣参事官として中曽根内閣、竹下内閣、宇野内閣などで計6年強。官房副長官時代も入れると都合15年以上もの長きにわたって、11人の総理大臣と関わりを持った人としても知られています。

古川さんは授業の中で、8年以上にわたって官僚トップである官房副長官として、どのように国家や国民のことを考え行動をとってきたか、また政府における専門家不在の広報活動の問題点や今の日本人に欠けているものは何なのか、そして、これからのリーダーの果たすべき役割と心構えはどうあるべきか、といった話をしてくださいました。

リーダーたる者の心構え

そのなかで、首相や官房長官を支える官僚トップとして、中立公正で国家国民のために仕事をする上で次の3つの重要な事柄について話をされました。

1つ目は、「大義とは何か」についてでした。総理大臣を擁する政府の仕事はいってみれば、社会保障から教育、防衛・安全保障まで広範にわたり森羅万象にまで関わり重責を担う仕事。古川さんはさまざまな問題に直面した際、それらの問題を解決する上で、まずそこに「大義」があるのかどうかを考えなければならないと語っています。そして、即座に判断をしなければならないときに持たなければならないのは、「判断の物差し」であるとしています。

次に「時代の流れを読む」ことの重要性を挙げました。常に先を読んで政策立案することで政策の選択の幅を広げ、最終的に政治による判断に委ねるとしています。

3つ目は、「知恵を出す」ことの重要性。小泉政権時代のハンセン病訴訟を例に挙げ、ハンセン病患者に対する国の不当な扱いが地裁判決で政府敗訴となった時に、その問題についての、道理や道筋がどのように立つのか熟慮し、知恵を出し合い最終的に控訴を断念したことについて話されました。

最後に、混乱する日本の政治やさまざまな分野でリーダー不在が叫ばれている中、「これからのリーダーが果たすべき役割と心構え」について受講生に熱く語りかけました。

古川さんは8つの心構えを挙げました。ここでそれらを箇条書きに紹介すると次のようになります。

  1. 時代の変化・洞察力を読む目
  2. 国際的視野と中長期的視点
  3. 信念を持つ〜逃げない、諦めない、道は開ける、ぶれない
  4. 決断と実行、責任
  5. 受信力と発信力、戦略的広報
  6. 公平公正と信頼
  7. 人知の及ばないものがあることを知る
  8. 悲観主義からの脱却?小渕総理のコップ半分の水を例に(コップの水がもう半分しかないとみるのか、まだ半分あるとみるのかで生き方ややり方が変わる)

これらの話を聞いて、感じたことは、古川さんの話には、パブリック・リレーションズ(PR)の3原則ともいえる、「倫理観」「双方向コミュニケーション」「自己修正」が無意識のうちに組み込まれており、日々それらが実践されているように感じられたことです。また講義の中でご自身の内に、ものを見る際にPR的な視点も含め、さまざまなものの見方が働いていることが感じられ、私にとっては嬉しいことでした。

最後に次世代を担う若者への期待として、「挑戦的な気持ちを持て」と常に物事にチャレンジする精神と、「大河の一滴」であることを意識することで、自分の行動が最初はとるに足らないものであっても、やがて大河のように大きな流れをつくりだすことができると考え行動することが大切であると説きました。

「マネジメント」の著者である、ピーター・ドラッカーはマネジャーの資質の中に、「学ぶことができない資質、後天的に獲得することのできない資質、始めから身につけていなければならない資質が、1つだけある。才能ではない。真摯さである。」と語っています。つまり人間にはいかに努力しても後天的に身につけ得ないものがあり、それは「真摯」な取り組み姿勢。

私は古川さんとお会いするたびに、どのようなときにも誠実さを失わず、目標に向けて忠実にまた情熱的に取り組むその真摯な姿勢に心を打たれます。古川さんどうもありがとうございました。

 

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