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2023.12.01
ちょっと心配なメディア事情を考える
〜パブリック・リレーションズ(PR)志向の情報リテラシーが必要に
皆さんこんにちは井之上喬です。
世界気象機関(WMO)は11月30日、2023年が史上最も熱い1年になると発表しました。
そのせいか今年の紅葉の時期は短くなって一気に落葉し、そして冬景色になってしまうようで心配です。
四季は日本人の感性を育て、社会のあり方にも大きな影響を及ぼしてきました。季節の変化は、私たちの文化や生活に彩りとメリハリをつけてくれています。温暖化が進むと、激しい気象が多くなり、「もののあわれ」に象徴される、時々の微妙な移ろいも消えてリズムも大きく変わりそうです。どうなってしまうのでしょうか。
さて私たちは、さまざまなメディア報道を通じ、日本だけでなく世界の政治、経済、文化などの情報を日々入手することが出来る便利な時代に生きています。
パブリック・リレーションズ(PR)にとっても、さまざまなターゲット=ステークホルダーにタイムリーで適切に情報を伝達するコミュニケーションチャネルとして、メディアは欠かせない存在です。
そのメディアを巡る状況が、最近大きく変化しています。メディアと長年接触しているパブリック・リレーションズの専門家として、個人的にも心配しています。
凋落する新聞発行部数
日本新聞協会は毎年初めに、新聞の発行部数などのデータを発表しています。今年公表した2022年10月時点のデータをみると、スポーツ紙を除く一般紙の総発行部数は、前年に比べて約196万部(6.4%)減少の2869万4915部となりました。
10年前の2012年は、約4372万部でした。それが、減少傾向は改善することなく現在は当時の3分の2以下の規模まで落ち込んでいます。
この5年間で失われた部数は何と1000万部。平均すると、毎年200万部ずつ減っていることになります。今後もこのペースが続くと、15年後に紙の新聞は日本から消えてしまう、との厳しい見方もあるほどの厳しい状況が続いています。
発行部数が減少するのに合わせ、そこで働く人も減っています。新聞協会経営業務部調べの「新聞・通信社従業員数と記者数の推移」(毎年4月)をみると、従業員の数は、20年前は5万3,488人(2003年)だったのが、2023年は3万4,454人と約36%減少。記者数でみると、2万1,311人(女性2,458人、2003年)から1万5,905人(同3,930人、2023年)と、女性記者の比率は増加しているものの記者数全体では約25%も減っています。
一方で、新聞各社は紙に加えデジタル化を加速しています。記者の立場からすると同僚記者の数が減る一方で業務の量は拡大しているのが現状です。これまで以上に、記者にとっては厳しい仕事環境になっているのではないでしょうか。
実際に、紙の新聞からオンラインメディアや別の業種に転職する記者が増えている、とのメディア界隈からの声を身の回りでも多く聞きます。
来年初めに公表される、日本新聞協会からの新しいデータが気になるところです。
私たちの生活に不可欠なメディア
私たちが、バイデン大統領やプーチン大統領、そして世界各国の指導者の動静を把握しているのは、一重にメディアが取材し、情報を発信しているからです。メディア各社はそれぞれの取材網や得意分野、方向性を持っています。つまり様々なメディアからの情報を分析することで、私たちが対象とする人たちの考え方や動きが、立体的に浮かび上がるのです。
メディアが社会に与えるインパクトは極めて大きなものがあります。戦争や気候変動、格差拡大など、人々を不安にさせ、社会の安定を揺るがす事象が頻発する今、民主主義社会を健全に保つ上で、公正なメディア報道の役割は重要性を増す一方です。
さまざまなステークホルダーに対し、タイムリーで適切な情報伝達を行う、コミュニケーションチャネルとしてのメディアは、人々にとって欠かせない存在になっています。
だからこそ、メディアの健全な活動が、国内のみならず国外でも維持されることを願ってやみません。
日本のメディアシステムの弊害も
その一方で、メディアのあり方そのものにも改善の余地が少なからずあると感じています。一例は、記者クラブ制度です。首相会見などをテレビで見てお気づきかもしれませんが、日本のメディア業界では記者クラブ制度が当たり前になっており、その弊害も懸念されるところです。
具体的に説明すると、会見では最初に、順番で担当する幹事会社が記者クラブを代表していくつか質問をします。その後に会員各社から質問が出されます。基本的に各社からの質問は1問に限られ、ほぼ決まった時間内に終了する方式です。
これは、海外の記者会見とは大きな相違です。首相に限らず、政府の記者会見は、国民全体にとって重要な問題を、その場で問いただすことができる貴重な機会です。しかし、クラブの決まったメンバーで取り仕切っていては、追及の矛先が鈍るのではないでしょうか。政府とのチャンネルを少数の社で独占せず、状況に応じて深掘りができるよう、多くのジャーナリストへ門戸を広げる工夫が必要だと思います。
大切なのは、時には厳しく、できうる限りの真実追究を行い、事実をあまさず伝えること。国民の知る欲求にこたえ議論の土台となれる、信頼できる情報を提供することです。
メディアによる情報流通の経路は、伝統的な新聞や雑誌など紙から、インターネットの普及によるオンラインメディアへと一層シフトしています。デジタル化により、一般の人々もSNSなどを使い自ら情報発信が可能になっています。その中には不確かな情報もある一方、メディア記者も顔負けの専門的な知識や、わかりやすい伝え方を発揮する優れた情報の伝え手も多くいます。さらにこの一年は、自然な言葉遣いで文章を大量に作り出すことができる「生成AI」が急速に普及し、悪用による巧妙なフェイクニュースもまん延するなど、混沌とした状況は深まるばかりです。
何が真実なのかを判断するのが本当に難しい時代に私たちが置かれています。その中で、メディアはどうあるべきか、終わりのない答えを探り続けてほしいと思います。
以上申し上げたことは、私(井之上パブリックリレーションズ)が長年取り組むパブリック・リレーションズ(PR)の基本理念と照らし合わせてもよく理解出来ると思います。
パブリック・リレーションズ(PR)とは、「個人や組織体が最短距離で目標や目的に達する、『倫理観』に支えられた『双方向性コミュニケーション』と『自己修正』をベースとした、マルチステークホルダーとのリレーションズ(関係構築)活動である」と考えています。
さまざまな虚偽が渦巻く世界で、混迷と対立、そして分断の傾向が強まっています。それに対処し、よりよい社会を作り上げていくには、何が真実かを見極める情報リテラシーに加え、人間同士が互いに理解し合いながら関係構築を行い、自分も変わりながら進む、パブリック・リレーションズがこれまで以上に重要になっています。
パブリック・リレーションズ(PR)が機能することで、さまざまな社会課題の解決の道を探ることが出来ると、私はこれまでの経験から確信しています。