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2021.05.08
デジタル世界に唯一性、希少性、資産性をもたらすNFT
~ソフト大国・日本の成長分野に
こんにちは井之上喬です。
今年もゴールデンウィークが終わりました。昨年と同じ緊急事態宣言下であるにもかかわらず、報道では各地の行楽地にたくさんの観光客が集まり、国全体にコロナ疲れや羽を伸ばせないストレスがたまっているようです。みなさんはどう過ごされましたか?
文末で、私が出演する国際フォーラムのインターネット配信に関するお知らせを記載しています。最後までお読みいただければ嬉しいです。
史上初のツイートが3億円で高額落札
皆さん、「NFT」という言葉はご存じですか?Non-Fungible Token(ノン・ファンジブル・トークン)の頭文字をとったもので、直訳すると「非代替性トークン」。分かりやすく言うと、他では替えが効かない、唯一無二の価値のあるもの、という意味になります。最近、デジタルの世界で急浮上しているキーワードです。
今年3月、ツイッター創業者のジャック・ドーシー氏による史上初のツイートが291万ドル(約3億1000万円)で落札されたニュースが話題を呼びました。このツイート自体は、インターネット上にあるので誰でも無料で見られますが、それが本物であることを証明するデジタルデータを付けたことが高額落札の理由でした。この無形のデジタル証明こそが、いま話題のNFTなのです。
NFTには、仮想通貨など暗号資産で使われ、改ざんがほぼ不可能といわれるブロックチェーンの技術が応用されています。ブロックチェーンとは、一定期間に行われた複数の取引の内容を多数のコンピューターシステムが記録・照合し、その取引内容が正しいことを確認した上で暗号化してデータの塊(ブロック)を作って、過去の記録に次々と追加していく(チェーン)する仕組みです。少しでも改ざんすれば変化がすぐに分かり、しかも取引を監視するシステムも多数あることから、特定の団体や人間の影響を受けない、民主的でかつ安全、確実なデータの記録方法として普及しています。
インターネットやデジタルの世界は、自由自在に加工したり、いくらでも正確なコピーを作れるのが特徴の一つですが、ブロックチェーンを使ったNFTなら、これが唯一無二のオリジナルであると証明し、価値を与えることができます。デジタル作品(データ)に本物を示す証明書を貼り付けることによって、それらを売買する新しいマーケットが生まれたのです。
新型コロナにより社会のデジタル化が急速に進んでいる証左でしょうか、2021年の年明け以降、NFTは全世界で急速な盛り上がりを見せています。
冒頭のツイッター以外にも、24ピクセル四方の小さなデジタルアート群「CryptoPunks」のうちの1作品に8億円、人気ブロックチェーンゲーム「AxieInfinity」内の土地に約1億6000万円の値が付いたほか、米国のプロバスケットボールリーグNBA選手のトレーディングカードが短期間で約240億円分購入され、さらに、あるアーティストの既存作品5000点をコラージュした作品「The First 5000 Days」が約75億円となるなど、デジタルコンテンツが資産として高額取引される例が増えてきました。
世界最大のNFT売買サイト「OpenSea」には、アートやゲーム、スポーツなど1400万点以上が登録されているそうです。また、NFT業界サイト「DappRader」によると、今年第1四半期の取引額は1600億円以上にのぼるという報告もあります。
もっとも、これだけの高額取引が目立つのは、新規分野であるNFTマーケットに世間の注目を集めるため、富裕層の人たちを巻き込んだアピール戦略だとの見方もあります。実際、前出75億円で落札された「The First 5000 Days」については、落札者は当初謎とされていましたが、主催した大手オークションハウスの英国クリスティーズはのちに、落札は世界最大規模のNFTファンドの共同創設者だったと明かしました。
NFTは、希望すれば誰でも発行することができます。例えばアーティストが作品(所有権)を売りに出したい場合、NFT売買サイトに登録して作品のNFTを発行します。それがオークションで落札されると、NFTは購入者に譲渡され、譲渡の記録もNFT内に付け加えられます。決済も、仮想通貨で行えます。なお、著作権そのものは譲渡の対象外となるため、制作したアーティストは作品を引き続き展示したり、同じ作品のコピーを販売したりすることもできます。
NFTは、既存の美術品や不動産取引など、形のあるものにも応用できるため、今後さらに拡大すると予想されます。あらゆるクリエイティブ産業やコレクション市場、さらにそれを超えて革命を起こすとも期待されています。ただ一方で、課題も挙げられています。
健全なマーケット形成に必要なのは?
ひとつはマネーロンダリング(資金洗浄)の懸念です。犯罪などで得た大金を、出所を不明にするため、口座間の送金や高額な物品の売買を通して、きれいなお金に見せかける行為です。巨額のお金が動くNFT取引を、悪意ある複数の人物が申し合わせてマネーロンダリングの手口に使うことも実質的には可能のようです。
これらの動きに対し、マネーロンダリング対策の推進を目的とする国際的な枠組み「金融活動作業部会」(FATF)は今年3月下旬、暗号資産に関する新しいガイダンスを発表。そこには、これまで規制対象に入っていなかったNFTが一躍クローズアップされています。
(FATF=Financial Action Task Force on Money Laundering:本部パリ、1989年の仏アルシュ・サミット経済宣言を受けて設立された政府間会合による組織)
一方、国内ではNFTの法的な定義や取り扱いや販売のルールはまだ明確に定められていません。先手を打って昨年、暗号資産取引所や法律事務所、監査法人など約100社が加入する一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)は、作業部会を立ち上げました。NFTの健全な普及に向けたガイドラインの策定が進められているようです。
デジタル資産の取り扱いに詳しい慶応義塾大学経済学部・坂井豊貴教授は、4月19日放送のNHKのBSニュース番組「キャッチ!世界のトップニュース」のNFTに関する特集で、
「日本ではNFTを扱う会社が成長している。一つはブロックチェーンゲーム。ゲームの中で得たアイテムをゲームの外の世界に持ち出し、売ることができる。資産性が付く。この手のブロックチェーンゲームの有力企業が日本にいくつかある」と言及し、
「かつて日本は暗号資産やブロックチェーンの分野で先進国になりかけていた。ところが金融庁が大変厳しい規制を敷いてしまった結果、世界から完全に遅れをとってしまった。再び政府がNFTに対して規制をかけると、せっかくいま育っているNFT産業が一気につぶれてしまう。これだけは避けなければいけない。法律の網をかけずに自由に産業を発展させたほうが必ず日本の国益につながる」と語っています。
坂井教授によれば、例えば100人しか聞くことができない楽曲のNFTを100個売るなど、希少性のある音楽をアーティストが発表できるようになるそうです。このNFTはデジタルの世界に唯一性、希少性、資産性をもたらしたといえるでしょう。
ソフト大国の日本にとって、NFTは大きな可能性を秘めていると思います。事業者が積極的に参入でき、万全なセキュリティ対策を講じてユーザーが安全に利用できる環境づくりを、国や業界団体が協力し、成長を阻害しないようリードしていく必要があります。私の親しい知人でもあり、安全なプログラム技術の研究開発を行うSFI株式会社の関敏夫社長も「ブロックチェーンの活用にはサイバー攻撃に対する対応およびシステム全体を運用しているプログラム自身でトラブルを起こさない安全性が担保されていることが前提になります。」と述べています。
新技術が普及する時には、それが安全でメリットも大きいことを一般の人たち(パブリック)にも知ってもらうことは大変重要です。導入初期に起きた強い警戒心が厳しい規制を招き、その後の産業の前進を妨げてしまう例は少なからずあるからです。NFTは将来、ビジネスから趣味の世界まで広く使われるポテンシャルを持ち、恩恵を受けるステークホルダーの範囲も広がるでしょう。複雑で簡単には理解しにくい技術ですが、倫理観をベースに、信頼を得ながら正確な情報を分かりやすく伝える双方向コミュニケーションをとりつつ、柔軟に自己修正をして健全な方向に進めていく姿勢が望まれます。まさにパブリック・リレーションズ(PR)の知識や技術が活用できるはずです。
お知らせ
5月10日から12日までの3日間、第3回「日・EU経済連携協定(EPA)フォーラム」がオンラインで開催されます。
EU-日本間の経済パートナーシップ協定に関するビジネスについて、産業界のリーダーたちが意見を表明・議論します。私が参加するセッション『The value of strategic communications and public relations in the Shareholder and Stakeholder Ecosystem.What are the strategic tools? Why, when and how?』は、フォーラム2日目の 2021年5月11日(火)日本時間21:30~22:30に、ストリーム配信されます。
ハイパー化するグローバルビジネスの課題解決に、コミュニケーションやパブリック・リレーションズ(PR)がどう寄与するかを紹介します。全編英語ではありますが、ご興味のある方は是非ご登録および視聴をお願いします。
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