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2020.05.18

決算発表にみる新型コロナの影響と新たな企業価値
~SDGs経営が企業サバイバルの指針に、トヨタ自動車のメッセージに注目

皆さんこんにちは井之上 喬です。

新型コロナウイルス感染拡大防止を目的に発出された緊急事態宣言は、一部地域での解除が発表されました。これまでの自粛ムードから一転、メディアの報道も経済活動の再開に向けた動きに一気に舵が切られた感じがします。

事態が終息に向かうにはワクチンの開発や新薬の登場を待たなければなりませんが、それまでは経済が破壊されないように、コロナとの共存を考えた、業種別のしっかりしたルールを作り、関わる人たちに徹底してもらうことが欠かせないと思うのです。

5月17日発表の東京の感染者数は5名まで減少しましたが、規制を緩和すれば第2波、第3波の感染拡大は必至です。この波をいかに制御し、起きても小さく抑えられるか。

今後は緊張状態の中で、日々の生活を送るノウハウの開発と実践が求められます。今こそそれぞれの知恵を集結し、感染拡大防止と経済活動再開を両立する新たな日常を実現する柔軟な対応が必要でしょう。

厳しさ増す経済環境

経済の動きとしては、5月15日は2020年3月期決算発表のピークでした。

同日の日本経済新聞の紙面では「上場4社に1社 最終赤字 コロナで打撃 震災以来の水準 1~3月期」との見出しに続けて、新型コロナウイルスの感染拡大が上場企業の業績を悪化させ、26%の企業で1~3月期が赤字と報じました。これは、四半期としては東日本大震災が発生した2011年1~3月期の30%以来、9年ぶりの多さとのことです。

大震災では被災地が甚大な被害を受けながらも、他の地域がそれを補い、支援することが出来ましたが、今回は国内外場所を問わず経済活動が停滞しています。

売り上げの下落は幅広い業種に及び、損益が悪化しています。ここにきて国内外で経済活動が再開されつつあるものの、大半の企業が当面は利益の低迷が続くとみていると分析しています。

一方、人々が在宅で仕事をし、さまざまな活動を行う「巣ごもり需要」から、動画や音楽配信、通販、SNSなど、ネット関連では好成績を上げる企業が続出しました。アメリカIT大手のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)は1~3月期の決算で全社が増収となりました。ネット関連の需要から、半導体産業も好調だったようです。

ただ、これらの企業も、他の産業と無関係ではいられません。世界全体の経済活動が低下する中、影響は時間差をもって現れるとの警戒感は濃く漂っています。

本格的な事業再開も見通せないこのような状況で、今後1年の見通しをつけるのは至難の業でしょう。5月15日までに決算発表した企業の約6割が、2021年3月期の見通しを「未定」としました。企業活動において、これまでに経験したことの無いような先行きの不透明感の強さが表れています。

トヨタ自動車にみるSDGs経営の取り組み

このような厳しい環境下の決算発表で私が注目したのは、5月12日に発表されたトヨタ自動車です。

発表内容は皆さんもご存知の通り、世界的な需要低迷で、今年度(2021年3月期)の営業利益は前年比80%減の5,000億円になりそうだと衝撃の内容でした。

グループの世界販売台数も、1,000万台の大台を8年振りに割る見込みで急ブレーキがかかり、豊田章男社長も「リーマン・ショック以上のインパクト」と危機感を強くにじませていました。

私が注目したのは数字だけではありません。決算発表の最後で豊田社長が発信したSDGs(持続可能な開発目標)に本気で取り組むことへのメッセージでした。

トヨタ自動車は、従来、ガバナンスやCSRレポーティングは経営支援室が、環境対策は環境部が、社会貢献は社会貢献推進部がそれぞれ担当していましたが2019年6月に「サステナビリティ推進室」を新設。SDGsやESG(環境・社会・ガバナンス)に本格的に取り組む体制を構築し、全社的にSDGs・ESGへの取り組む姿勢を鮮明にした、いわば「サステナビリティ経営=SDGs経営」に大きく舵を切っていました。

トヨタ自動車のホームページにも掲載されている、「世界中の仲間と“ともに”強くなる」と題した豊田社長のスピーチを見るとその姿勢が鮮明に見えます。

私の印象に残った部分をご紹介します。

まず、「トヨタを『強い企業』にしたいと思ったことは一度もない。トヨタを『世界中の人々から頼りにされる企業』、『必要とされる企業』にしたいという一心で経営の舵取りをしてきた」という点。

そして「『世の中の役に立つ』ために、世界中の仲間と『ともに』強くならなければいけない」と共生、協力の視点を示し、「今回の危機で、『人間として、企業として、どう生きるのか』。地球とともに、社会とともに、全てのステークホルダーとともに生きていく。『ホームプラネット』を大切に、企業活動をしていく」ことを力強く語っています。

視点はさらに広がり、「地球環境も含め、人類がお互いに『ありがとう』と言い合える関係をつくっていく。企業も人間も『どう生きるか』を真剣に考え、行動を変えていく。私たちは今、大きなチャンスを与えられているのかもしれません。そして、それは、大変革へのラストチャンスかもしれません。」と現在置かれた位置を示しながら、

トヨタの使命は、「世界中の人たちが幸せになるモノやサービスを提供すること、『幸せを量産すること』」だと、日本を代表する世界企業が内外へ向けて力強い意思表示を行っています。

これらのメッセージはまさに、2015年に国連で採択された、地球上の誰ひとりとして取り残さないというSDGsの理念を自社の経営に取り込もうとする強い意志の表れだと感じました。

同社も含め、決算に関する報道は数字の内容が中心になるのは自然ですが、SDGs経営視点のGemba Lab安井孝之さん(元朝日新聞編集委員)が、私と同様の視点で記事を書かれており、意を強くしました。

企業トップからの明確なStory Tellingが重要に

地球規模の危機感のなかから生まれてきたSDGsは、2030年に17の目標達成に向け今年2020年からの10年はまさに実装の時期に入っています。その矢先の新型コロナウイルスの世界規模での感染拡大は、地球上のすべての存在に新たなサバイバル戦略が必要だと警鐘を発しているように思えます。

企業経営の視点から見たその戦略は、従来の株主中心主義からSDGs経営へと転換した、新しい企業価値の創造であると考えます。そのためには、従来のビジネスモデルの創造的破壊や産業の境界線消失から生まれる、新たなパートナーシップの構築が不可欠です。その実現の鍵となるのは、最先端のAI(人工知能)やIoT5Gなどのテクノロジーではないでしょうか。

豊田社長は、その方針を自分自身の言葉で株主に、社会に改めて強く訴えました。SDGsの17の目標で言えば、3番の「すべての人に健康と福祉を」、9番の「産業と技術革新の基盤をつくろう」、11番「住み続けられるまちづくりを」、そして17番「パートナーシップで目標を達成しよう」などが該当します。

このように、新しい企業価値を創造するために新たな事業戦略とブランディング戦略を構築し、企業トップ自らがStory Telling(ストーリーテリング)することが、混迷の時にはますます重要になっています。

SDGsは企業サバイバル戦略の大きな指針となりますが、その成功にはリレーションシップマネジメントを主柱とするパブリック・リレーションズ(PR)が必須です。

パブリック・リレーションズは、ESG時代のヒト、モノ、カネ、情報に続く第5の経営資源です。メッセージを多様なステークホルダーに情報発信し、持続可能で良好な関係を構築するために、パブリック・リレーションズの果たす役割は大きいと確信しています。

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