パブリック・リレーションズ
2011.08.08
霍見教授からのメッセージ 〜危機的状況の中でこそ改革を
こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?
先日、ニューヨーク市立大学大学院教授の霍見(つるみ)芳浩さんの来日講演に出席しました。
主催は霍見教授の慶応大学時代の友人である加賀屋裕さんが主宰する国際エグゼクティブフォーラム。友人で「水素研究会」のメンバーでもある産業工学研究所社長の前川守さんと一緒に参加しました。
霍見さんとは3年ぶりの再会。米国ハーバード大学院で経営学(MBA)を学び、日本人として米国で初めてDBA(経営学博士号)を取得。日米の政治、経済、外交、社会、文化など多方面に精通している経済学者です。
ハーバード大学経営大学院の教授時代に前大統領のブッシュJRをビジネス・スクール(MBA)で教えたこともある霍見さんは、3・11以降の日米関係と日本の針路について冷徹な目で分析、日本へのアドバイスをしてくれました。
危機状況は改革のチャンス
霍見さんは今回の東日本大震災が米国産業に多大な影響を与えたことを語りました。
特に自動車業界では東北地方の自動車部品メーカーが壊滅的被害を受けたことで、トヨタ、ホンダなど日本メーカーが大幅減産を強いられ、その間隙を縫ってビッグ3を擁するデトロイトが復権したとしています。
GMは5年ぶりに世界一をトヨタから奪取。霍見教授は今回の主役交代にはさまざまな要因があるとし、そのひとつに昨年起きた米国でのトヨタのリコール問題を挙げています。
同教授は昨年2月に行われた、豊田社長の米議会での公聴会の対応の拙さが米国民に失望を与えブランドイメージを失墜させたとしています。
米国のオーディエンスが日本国内の反応とは逆に厳しい判定を下していたことを強調し、トヨタ問題が日本の崩壊と結びついていると語っています。
また震災問題にせよ、企業の不祥事にせよ、危機管理下での組織改革のチャンスについて触れ、危機的な状況にあればこそ抜本的な改革が可能になるとしています。
同教授はアルベルト・アインシュタイン(1879-1955)の言葉を引用し、「問題を作り出した人間は新しい改革をできない」と今の日本が危機的状況を脱し改革を進めていくためには、新しい人間かマインドを変えた指導者がこれにあたらなければならないことを強調。
とりわけ厳しいグローバル競争を生きる企業経営者にとって、企業活動と政治は切り離すことができない相互関係にあるとし、持論の政経不可分の重要性を説いています。
大学での人材育成はグローバル化の鍵
また日本企業が生き残っていくためには真のグローバル化が求められており、そのための積極的な人材育成が重要であると語っています。しかしある大手商社のように、新人社員が誰も海外勤務を希望しないなど最近の若者の内向き志向を嘆いてもいます。
霍見さんによると、「世界競争力ではかっては高卒の現場力が重視されていたが、ハイテク時代の現在は大学・大学院卒の人材が求められている」とし、中国やインドと競争するには、付加価値性の高いモノやサービスで勝負しなくてはならないとしています。
優秀な人材確保が求められる日本で、日本の就職活動のあり方にも話が及びました。霍見教授の指摘する問題は、就職活動が早期化し青田刈りにより学生の勉強時間が削られることでグローバル化に対応した人材育成が困難になる現状があるということ。
周知のように今年の2月に、経団連は企業の新卒採用のための広報活動を従来より2ヶ月遅くした「大学3年の12月以降」とし、選考活動は従来通りの「大学4年の4月以降」と決めています。
霍見さんは「大学4年の9月」に選考活動をスタートさせるべきと主張しています。
私見ですが、広報開始は「大学4年の4月」からとし、夏休みはインターンシップ期間として使い、選考活動は「大学4年の9月以降」が妥当と私は考えています。
霍見教授が語っているように、グローバル競争に打ち勝てる人材を育成するには、米国のようにできるだけ長く大学でさまざまな学問を教えることが重要になるはずです。
質疑応答の際に、私はパブリック・リレーションズ(PR)の必要性についてたずねました。この質問に対し霍見さんは、パブリック・リレーションズ不在は日本企業の弱点でもあると指摘。
1995年に起きた、自ら経験する富士フィルムとイーストマン・コダック社の特許侵害問題で、リレーションシップ・マネジメントであるパブリック・リレーションズを駆使し富士フィルムが勝利したことを語り、PRの果たした役割が大きかったことを語ってくれました。
グローバル化といわれて20年以上経過していますが、日本企業の真のグローバル化は、大震災発生以降緒についてばかりともいえます。
単にいい製品を作っていれば売れる時代はとっくに終わり、いかに強力なマーケティングとグローバルに展開するうえでパブリック・リレーションズが重要か、企業の生存をかけた戦いはこれからです。