交遊録

2011.04.25

家族力大賞 ’10 〜いま求められる家族や地域との「きずな」

家族力大賞 ’10こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

今月、第4回目となる「家族力大賞 ’10」(エッセイ・コンテスト)の贈賞式がハイアットリージェンシー東京で催されました。このエッセイ・コンテストは、社会福祉法人の東京都社会福祉協議会(古川貞二郎会長:元内閣官房副長官)が家族や地域との「きずな」をより良い社会実現のために強めていくことを目的に2007年度より実施されています。

今年度の家族力大賞のテーマは昨年と同様に、「家族や地域の『きずな』を強めよう」とし、広く体験談を募集しました。親子や祖父母とのきずな、地域の方々とのきずな、さまざまな「きずな」や「つながり」など応募作品が倍増し、作品の質も高くなっています。若い人の応募が増えたことも嬉しいことです。今回は応募作品の中からこれまで最多の16作品が入賞しました。

贈賞式開会にあたり挨拶した古川会長のスピーチは、東日本大震災復興の「絆キャンペーン」と関連づけ、また、春の甲子園大会での創志学園(岡山県)野山慎介主将の宣誓の中から「人は仲間に支えられることで大きな困難を乗り越えることができると信じています」を引用し、家族力大賞がテーマとしている「きずな」の大切さや人の善意の輪の広がりに触れた心に響くものでした。

本コンテストの運営委員会(委員長:お茶の水女子大学名誉教授 袖井孝子さん)の委員のひとりとして私もこのコンテストに第1回から関わっています。今回は、16作品の中でも私の心に強く残った2つの作品を中心に紹介したいと思います。

無縁社会と決別:地域で支えあう力

「介護保険でのケアマネージャーの仕事をしています。『夫が脳梗塞で倒れ、もうすぐ退院するんです。つかまるところがないと起き上がれないので、介護用のベッドを借りたいのですけど、どうしたらいいんでしょう?』『一人暮らしで話をする機会が無くて。デイサービスに通えますか?』など、毎日のように相談の電話が入ります」。

こうした書き出しで始まるこのエッセイは、「東京都知事賞」を受賞した菊池正行さんの作品「支えられて」です。
ある日の午後、病院の送迎バスの運転手さんから介護保険を受けさせてあげたいという患者の安藤さんを紹介されます。

作者の菊池さんは翌日、介護保険制度の説明などのため安藤さんのアパートを訪問します。朽ちているような古い建物で、名前もないアパートの共同玄関から急こう配の階段を上がった2階の一室。

「そこは、敷きっぱなしの布団と少しの衣類、冷蔵庫がやたら目につく6畳間でテレビがありませんでした。」

安藤さんは、亡くなった奥さんが病気で長い入院生活が続き、貯金を使いはたし、年金でギリギリの生活をしていたのです。

菊池さんはこうした事態に対応するため近所に住む友人を頼ることにしました。友人は仲間を集め、曜日を決めて安藤さんのために買い物を手伝うことになります。

こうした日々が続き、ある日仲間が集まった時のことです。「『誰かの為に役に立ってなんだかうれしいわ。』一人が話し始めました。

『本当。でも不思議よね、この間まで全然知らなかった人なのに、今じゃなんだか顔色が悪いわねとか、熱があるんじゃないのかしらとか、ついつい心配しちゃうのよね。』『家族じゃないのに、なんだか安藤さんてみんなの家族みたいよね。』」

ずっとこの関係が続くと思っていた頃、安藤さんの容体が急に悪化したのでした。そして入院して1ヶ月後に亡くなってしまいます。

「この安藤さんの出来事は、ケアマネージャーの私に介護保険のサービス以外に『地域の支えあう力』を教えてくれました」ということばで締めくくられています。

作者の菊池さんをはじめ安藤さんや友人、そしてその仲間との会話を中心にこの作品は構成され、その飾り気の無い自然なやりとりが、この作品の魅力となっています。

仲良し三人家族の秘訣は

次に紹介するのは、「アラフォー」間近で会社務めをしているバツイチの母親と娘2人の三人家族の日常を描いた金子理恵さんのエッセイ。「運営委員会委員長賞」受賞作品「6畳の幸せ」です。

作者の金子さんは11年前に離婚して、現在、中2と小5の娘さんと三人暮らし。

ホームドラマをみたり、昼間買い物をする母娘連れを見たりすると、「私も専業主婦だったらなあ?」とため息することもあるものの、ポジティブマインドの持ち主。娘たちとの生活がたまらなく楽しく幸せに過ごしている様子が紹介されています。

「長女の友人たちも私たちの会話を聞いてびっくりする。『え?、うちはママとそんな話、しないよ。ママと話してもそんな盛り上がらないし。』そうなのか?中学生にもなると他のご家庭の母親は随分とぞんざいな扱いを娘にされているようだ。それを聞いた長女は『え?、うちはママとディズニーランドとか行くのも好きだよ。友達と行くのももちろん楽しいけど、ママと行くのも楽しいよ。』と友人たちに反論していた。ちょっと嬉しい。いや、かなり嬉かった。」

作者の金子さんは、「『そうか!部屋だ!私たち三人はダイニングキッチンの他は6畳の部屋が一つあるだけのアパートに暮らしている。夜寝るときは布団を2つひいて3人で寄り添うように寝ている。何をするのも同じ部屋だ。』(中略)子供達も言う、『これじゃ引き籠りたくても引き籠れないよ!』と。それはいいことだ。6畳だからこその幸せもある。」と自分たち三人家族の仲の良い秘訣について記しています。

「子供たちがもう少し成長するとさすがに6畳では無理が出てくるかもしれないけれど、今こんなに家族三人で楽しくやっていられるならもう少しここでがんばろう。それに地域の人たちも温かい。(中略)地域の人たちからも見守られ、『随分大きくなったね』と一緒に子供たちの成長を喜んでくれる人たちがいる。」

地域の母子部長になった作者の金子さんは「子供たちもだいぶ手がかからなくなってきたので、これからはもっと小さい子供を抱えて困っているママたちの支援をしなくては。かつての自分がそうしてもらったように。」と感謝の気持ちでエッセイを結んでいます。

これら2作品以外にも心打たれる秀作がありました。作者岡部達美さんの祖母とお友達で認知症のやすさん(86歳)との交流を、17才のみずみずしい若者の目を通して描写。いかに「ことば」が人に対して元気や自信を与えるかを書いた作品『ことば』(東京新聞賞)。

両親が共働きのためにご近所の家族のもとで育ち、半世紀に及ぶ付き合いとなった不思議な出会いを描いた藤井智美さんの作品『もうひとつの家族』(東京都社会福祉協議会会長賞)

失業した父親と学校に行かない娘さんとの心のケアをテーマにした葭田忠正さんの作品『共に生きよう 家族だもの』(運営委員会委員長賞)など。
どの作品もその底流には「きずな」で結ばれた優しさと愛が描かれています。

パブリック・リレーションズ(PR)は「絆(きずな)」づくり。それは目標達成のために、様々な相手と良好な関係構築づくりを行うリレーションシップ・マネジメントです。

東日本大震災で家族や友人を失い、そして地域社会すらも崩壊の危機に当面している今日、改めて「きずな:kizuna」の大切さをこの「家族力大賞 ’10」を通して思い知らされます。

*上の写真の作品集『家族力大賞 ’10?家族や地域の「きずな」を強めよう』には、16編の作品が紹介されています。表紙のイラストは「夢と喜びの風船」をテーマに深山マヤさんが描いたもの。社会福祉法人 東京都社会福祉協議会が発行元です。非売品ですが、20冊程度であればプレゼント可能だそうです。興味をお持ちの方は連絡してみてはいかがでしょうか。
東京都社会福祉協議会
東京ボランティア・市民活動センター
家族力大賞事務局
Tel:03-3235-1171
Fax:03-3235-0050
E-mail: info@kazokuryoku-gp.jp

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