パブリック・リレーションズ

2011.08.01

金融危機後の米国消費者の価値観とは 〜『スペンド・シフト』に見る新たな消費トレンド

『スペンド・シフト ― <希望>をもたらす消費 ―』暑中お見舞い申し上げます。
皆さんお元気ですか、井之上 喬です。

今回は2008年のリーマン・ショック以降、消費が冷え込んだ米国で消費者の様変わりを追いかけ、新たな消費トレンドを解説したマーケティング本『スペンド・シフト』(邦訳版:2011年7月、プレジデント社)を紹介します。
同書は米国大手広告代理店ヤング&ルビカムの消費者行動研究の専門家、ジョン・ガーズマとピュリツァー賞の受賞経験もあるジャーナリスト、マイケル・ダントニオとの共著に
よるもの。

量より質、見た目よりも実質

マーケティングの神様といわれるフィリップ・コトラー、ノースウエスタン大学教授は本書へ次のような序文を寄せています。
「2008年の金融危機後の世界では、雇用なき景気回復への不安があり、消費に回せる金額が限られるため、消費者自身も混乱(カオティクス)を経験している。とはいえ、希望につながるデータもある」。

さらに続けて、「人々が生活を見つめ直し、勤勉、節約、公平、誠実といった大切な理念を取り戻しはじめている」とし、人々はニーズと欲求(ウォンツ)を切り離し、商品やブランドを慎重に比べたうえで購買決定を行っていると論じています。

また「消費者は意義あるブランド、つまり、清廉さ、社会的責任、持続可能性(サスティナビリティ)を柱とするブランドを受け入れている。」とし、2008年のリーマン・ショック後のアメリカの消費行動の変化について記述。

そして、米国の全人口の半数以上が、こうした価値観の変化を経験しており、「量より質」、「見た目よりも実質」、「そして謳い文句よりも実体験」を重視しているとしています。

コトラーは本書が、「米国の消費者の支出習慣に影響を与えている新しい気質や価値観の変化を紹介していて、2008年の金融危機後の事業戦略を検討するすべての人にとって有益なものとなる」とその購読を勧めています。

この『スペンド・シフト』を著すうえで特長的な点が2つあります。ひとつは、ヤング&ルビカムが17年にわたり蓄積してきた120万人を超えるデータベースBAV(ブランド・アセット・バリュエーター)を活用していることです。

このBAVには、50カ国、4万件を超えるブランドのデータが蓄積され、消費者の購買意識からどのブランドが支持されているかに至るトレンドをデータから読み取ることができます。

なかには、マイクロソフトのように「誠実さ、リーダーシップ、信頼性、社会的責任感といった項目でアップルよりも30%超も高い評価」といった、日本ではあまり耳にしない意外な情報も含まれています。

禍転じて福となす

もうひとつの本書の特長は、全米10ヵ所の町のルポと詳細な現地消費者調査が文章に説得性を持たせていることです。例えばデトロイト。
プレジデント社の本書紹介では、デトロイトはアメリカ一の高失業率で企業や人口の流出に悩む都市と位置づけしつつも、凋落の一途を辿るかと思われたこの町に、いまや若者やアーティストたちが戻っているとしています。

また地価暴落が、新たなチャレンジへの敷居を低くしているとし、「苦境を乗り越えるなかで芽生えた助け合いの精神も、他の地にはない魅力。」と書いています。

逆境をチャンスに変えていこうとしているたくましいデトロイトの試みには、未曾有の震災を乗り越え前進しようとする私たち日本との共通点を見出すことができます。

また、同社は『スペンド・シフト』が伝えようとしている変化について次のようなキーワードでまとめています。

  • 自分を飾るより ⇒ 自分を賢くするためにお金を使う。
  • ただ安く買うより ⇒ 地域が潤うようにお金を使う。
  • モノを手に入れるより ⇒ 絆を強めるためにお金を使う。
  • 有名企業でなくても ⇒ 信頼できる企業から買う。
  • 消費するだけでなく ⇒ 自ら創造する人になる。

私たちパブリック・リレーションズ(PR)の実務家にとって社会の大きな流れや業界動向、消費トレンドなどを常にアップデートしておくことは、PR戦略を構築したり、見直したりするうえで極めて重要なことです。

『スペンド・シフト』は、アメリカだけでなく日本でも起きていること、また今後起き得るであろうことを多く示唆しています。
パブリック・リレーションズ関係者やマーケターだけでなく広くビジネスパーソンが読むべき一冊と言えます。

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