パブリック・リレーションズ

2011.07.04

産学連携モデル:「株式会社を教室に」 〜大学発ベンチャー企業の進化形

皆さんこんにちは、井之上 喬です。

先週、知人の登大遊さん(ソフトイーサ株式会社代表取締役会長)から自社社屋購入に伴い、本社営業部を移転する旨の通知を受けました。登さんは、VPN ソフトウェア「SoftEther」 (ソフトイーサ)の開発者で2004年4月に筑波大学発のベンチャー企業ソフトイーサを立ち上げた若き経営者。
現在同大学院在籍中の登さんが筑波大(第三学群情報学類)に入学したのが2003年4月ですから、丁度入学1年後の大学2年生になりたての時に会社を設立したことになります。

新進気鋭な若手起業家によるベンチャー企業の発展は、新規事業の創造や雇用拡大につながるばかりでなく、日本経済や産業の活性化に不可欠なことです。私のこうした思いもあり、登さんからの通知に事業発展の様子が窺われ、大変嬉しく思いました。

「大学発ベンチャー1000社計画」発表から10年

1980年代からみられるように米国シリコンバレーやボストン地域などでは、大学をスピンアウトしたベンチャーが次々と成功を収める一方、日本においても先端的な技術をベースとする大学発ベンチャーに対する期待が高まってきました。

こうした背景の中で、経済産業省は大学の「知」を事業のコアとする大学発ベンチャー企業の創出を促進するため、2001年5月に「大学発ベンチャー1000社計画」を発表。産学官一体となった大学発ベンチャーへの支援策を講じることになりました。
計画が発表されて10年経ちますが、経済産業省の「平成19年度(2007年)大学発ベンチャー基礎調査」(平成20年8月)にその成長ぶりを見ることができます。

それによると2007年度末時点で1,773社の大学発ベンチャーが活動中で、それらの売上高合計は約2,800億円、雇用者数で約23,000人。間接効果を含む経済波及効果では、売上高5,100億円、雇用者数36,000人と推計されています。

しかし、米国シリコンバレーに代表されるようなベンチャー企業を取り巻く環境とは異なり、日本の大学発ベンチャーが直面する課題としては「人材の確保・育成」、「資金調達」、「販路開拓」の3点が挙げられています。

これらの課題は「大学発ベンチャー基礎調査」を開始した2002年度以降一貫したもので、大学発ベンチャーがさらなる発展を遂げていくための障壁となっています。

大学生の取締役と社員で会社経営

一方、大学教育では昨今の厳しい雇用情勢などを踏まえ、大学生の社会的、職業的な自立に関する指導(キャリアガイダンス)が推進されています。
このような中、名古屋産業大学(愛知県尾張旭市、伊藤雅一学長)が極めてユニークな事業モデルを発表しました。同大学の取り組みは今後の産学協力関係に多くの示唆を与えています。

名古屋産業大学は、全国でも唯一、環境情報ビジネス学部の設置校。
これは私の経営する会社、井之上パブリックリレーションズ(井之上PR)が関わった事例でもありますが、名古屋産業大学は5月中旬に東京で記者会見を開催。これまでの環境ビジネス分野のインターンシップ制をさらに発展させた、「株式会社名古屋産業大学グリーン・ソーシャルビジネス」(以下、名産大GSB)の設立を発表しました。

名産大GSBでは、3年次以降の大学生が同社の取締役や社員となって経営企画、営業部門、業務管理部門など企業経営全般に主体的に関わり、CO2削減をテーマに環境ビジネスを実践していくもので、大学生は所定の単位を取得できます。ベンチャーとインターンシップを組み合わせた事業スキームといえます。

このスキームは新たなソーシャル・ビジネスモデルとして現在、特許申請中。
また事業活動から生じる事業収益は、CO2濃度測定局(場所)の拡大とこれに基づく環境教育の普及など低炭素社会への貢献と学生支援に還元されるとのことです。

平成28年度には、取締役全員が学生により構成されるとし、同社の経営は学生の自治と責任において運営されることを目指しています。
先日、私の会社に伊藤学長が訪れ、名産大GSBの代表取締役の立場から同社の今後の活動計画などについて話し合いました。

この新たなソーシャル・ビジネスモデルを開発した伊藤さんは、優れた教育者としてばかりでなく、コミュニケーション能力に秀で、起業家的な創造力や実行力を持ち合わせた特異な方で、とりわけ環境ビジネス分野で即戦力となる人材育成に熱意を示されていました。
東日本大震災以降、日本経済の成長を牽引する重要な戦略分野として、グリーン・イノベーションによる新たな環境にフォーカスした市場開拓と雇用創出が期待されています。

しかしながら、7月3日の朝日新聞一面トップに大きく掲載された「大卒2割進路未定」にみられるように、不安定な立場にいる卒業生は、少なくとも8万6,153人にのぼる(朝日新聞と河合塾の共同調査)とされています。

こうした環境の中で、名産大GSBのソーシャル・ビジネスモデルはまさに時流にそったものといえ今後の動向が注目されるところです。
超就職氷河期といわれる一方、少子化により大学間の受験生獲得競争が激化する今日、こうした分野でもパブリック・リレーションズ(PR)の役割が強く求められています。

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