パブリック・リレーションズ
2010.03.01
JICA広報研修の講師を務めて 〜中南米・カリブ地域から25名の研修生を迎えて
こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか?
今回は、JICA(独立行政法人国際協力機構)が中南米・カリブ諸国で支援するODA事業に携わる現地組織体の広報関係者を日本に招き実施した広報研修についてお話しします。この広報研修は、国民の税金を基盤とするJICAのODA事業に対する理解を研修参加者に深めていただくとともに、パブリック・リレーションズ(PR)に対するスキル向上を目的としたものでした。研修の正式名は「中南米・カリブ地域における円借款事業の現地事業広報スキル向上支援事業」。
期間は2月8日?19日の2週間で、ペルー、ブラジル、グアテマラ、パナマ、エルサルバドル、コスタリカ、コロンビア、パラグアイの8カ国から25名の研修員が参加。会場は、JICAの東京国際センターで開催されました。
パブリシティは「フリー・プレス」
この広報研修では、パブリック・リレーションズ理論やゲスト・スピーカーによる内外の公共事業における事例紹介、施設見学(東京電力の電力館や川崎発電所)、課題に対するアクション・プラン作成など充実したプログラムが組まれました。
私は「広報の基本概念」と「さまざまなリレーションズ」、「広報と倫理/クライシス・コミュニケーション」、そして「広報計画の立て方(プログラム作り、目標設定、ターゲット、戦略など)」といった4つの講座の講師を務めました(下の写真)。
「広報の基本概念」では歴史的経緯を踏まえた広報の基本的な考え方をはじめ広報の持つ双方向性や「自己修正モデル」、パブリック・リレーションズの専門家に求められる資質(5つの条件/10の資質・能力)について講義。
「さまざまなリレーションズ」ではコア・コンピタンスとしてのメディア・リレーションズを中心に各ステーク・ホルダーへのさまざまなリレーションズについて。また、「広報と倫理/クライシス・コミュニケーション」では特にグローバル・スタンダードに合致した広報活動のための倫理観とクライシス・コミュニケーションについて講義しました。
そして、「広報計画の立て方(プログラム作り、目標設定、ターゲット、戦略など)」では、パブリック・リレーションズの倫理観をベースに目標達成のための戦略構築やライフサイクル・モデルに基づいた広報プログラム設計。加えて活動評価の重要性を伝え、報道分析など効果測定の手法を紹介しました。
この研修の講義資料は全てスペイン語で用意され、講義内容もスペイン語に通訳されて研修員に伝えられたのですが、その中で面白い体験をしました。それは翻訳に関わる問題。私の講義の中のメディア・リレーションズの講義資料のパブリシティ(Publicity)という用語の解釈についての混乱で、Publicityがスペイン語では「Publicidad」と訳されていたことに起因していたのです。
この用語が講義の中で何回か登場するのですが、私が講義でパブリシティという言葉を口にする度に研修員の反応がおかしいので確認すると、Publicidadはお金を払ってメディアに記事や情報を掲載する宣伝・広告の意味であることを知らされました。私たちが通常使う意味のパブリシティは、中南米・カリブ地域では「フリー・プレス(Free Press)」というそうです。
日本から中南米・カリブ諸国へ
今回の広報研修はJICAにとってはじめての試み。JICA広報ガイドラインには“ONE WISH, ONE WILL”というスローガンがあります。その広報目的を、「JICAの目指す世界を創り出すための活動に、理解・共感・支持・参画してもらうこと」としています。まさに日本のソフト・パワーを世界に示す格好のプロジェクトといえます。
研修員の多くはJICAから円借款を受けて、現地で上下水道整備事業や環境改善事業、地域道路整備事業、水力発電所建設事業そして公共サービス改善事業などを実施するさまざまな組織体で広報分野やプロジェクト推進を担うリーダー。男女約半々で、年齢も20代から50代まで幅広く、広報経験が初めての人や(少人数)20年近い経験を持つ人などバラエティに富んでいました。
ラテン・アメリカの人は、日本人の持つイメージ通りの陽気な人たちでした。授業では一言も聞きもらすまいとする熱意と意欲が伝わってくる一方、休憩時間には母国から持ってきたチョコレートやドライ・フルーツなどを差し入れてくれます。中には、日本留学経験者もいて片言の日本語も聞こえてきます。
ご存知の通り、パブリック・リレーションズは戦後、GHQが日本の民主化のために持ち込んできた手法であり、概念です。それから60余年、多くの諸先輩が試行錯誤を繰り返し、私たちの世代に引き継がれてきました。
今回の広報研修を通して、パブリック・リレーションズの手法・概念が、今度は私たちから地球の裏側の中南米・カリブ諸国へと伝播していくことを想うと、実に感慨深いものがあります。また私にとっては、異文化体験も含め大変楽しい講義となりました。こうした機会を与えてくださったJICAをはじめ関係者の方々に感謝するばかりです。
研修会の最終日に行われたお別れパーティでは、プレゼント交換やJICA職員も交えた写真撮影など2週間を共にした仲間が別れを惜しみました。