こんにちは井之上喬です。
だんだん寒さが増すなか、皆さんいかがお過ごしですか?
今週も、『体系パブリック・リレーションズ』( Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上のロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的な本。皆さんにお伝えしたいエッセンスがまだまだ沢山詰まっています。
今回は、第10章の「メディアとメディア・リレーションズ」(井上邦夫訳)の中から「良好なメディア・リレーションズのためのガイドライン」(324-329ページ)についてお話します。
メディア・リレーションズはコア・コンピタンス
私の著書『パブリック・リレーションズ』(2006、日本評論社)のなかで、「メディア・リレーションズは、他のビジネスコンサルティング会社と比べ特異な活動で、パブリック・リレーションズのコア・コンピタンス(中核的競争力)ともいえる。メディア・リレーションズは、さまざまなリレーションズのターゲットに対してアクセスするコミュニケーション・チャネルとしてのメディアとのリレーションズ活動である。」と記しています。
『体系パブリック・リレーションズ』では、パブリック・リレーションズの実務家とジャーナリストとの関係は、底流にある利害やミッションが対立しているため必然的に対立的なものであり、実務家が次のような5つの基本的ルールに従うことで、両者の関係を最適なものにできると述べられています。
いかにメディアとの良好な関係性を構築するか、これはパブリック・リレーションズの実務家にとって世界共通のテーマであり、この点に関しても本書は大いに示唆を与えてくれています。それでは5つのルールについて簡単に紹介しましょう。
最適な関係を構築するための5つのルール
1) フェアな取引をする
速報性の高いニュースは、メディアが発表サイクルを決定できるように可能な限り迅速にあらゆる関連メディアへフェア伝えることである。速報性が薄い特集材料についても競合メディア間に平等に伝える必要がある。しかし、記者がヒントを掴んで情報を要求した場合、その内容は当該ジャーナリストのものであり、同じ情報は、他のジャーナリストが追随して要求しない限り与えてはならない。
2) サービスを提供する
ジャーナリストの協力を得る最も速く確実な方法は、彼らが希望するときに、すぐに使用可能な形式で彼らが求める、ニュース価値があり、興味を引くタイムリーな内容と映像を提供することである。ジャーナリストは、定められた、時には厳しすぎる締め切りに追われて働いている。ニュースメディアに記事を報道して欲しいと思う実務家は、メディアの準備期間を熟知して順守する必要がある。
3) 懇願したり文句を言ったりしない
ジャーナリストにとって、ストーリーの使用を頼みこむ実務家や記事の扱いに文句を言う実務家ほどイライラさせるものはない。ジャーナリストにとって、その情報が十分に興味を引くだけのニュース価値がなければ、どんなに懇願され文句を言われても採りあげることはない。
4) ボツにすることを求めない
実務家は報道機関に対して、記事を差し止めたり、ボツにするように頼んだりする権利はない。それはめったに機能しないし、プロフェッショナルの行為でもなく、反感を生むだけである。このことはジャーナリストにとって露骨な侮辱であり、米国憲法修正第1条の侵害である。それはジャーナリストにパブリックの信頼を裏切るように頼むことである。好ましくないネタを報道機関から遠ざけておく最良の方法は、そのような話が発生する状況を避けることである。
5) メディアを氾濫させない
仮に金融担当の編集者に、スポーツや不動産情報を送るようなことがあれば、その実務家に対する敬意は損なわれることになる。最善のアドバイスは、どんなジャーナリストがニュースを考慮するかよく考えることであり、メディアのメーリングリストを最新に保ち、各ニュースメディアの最適な一人にのみ送ることである。
この点について本書では、当時『ウォールストリート・ジャーナル』のニューヨーク編集長であったポール・スタイガーさんの面白い試みを紹介しています。それは、記者やエディターが1日にどの位の数量の情報を選別しなければならないかを記録するため、17の地方支局長に対し、彼らが1日に受け取るニュース資料を保管するように頼みました(インターネット経由のニュースは含まず)。支局から送られたプレスリリース、パブリック・リレーションズのワイヤー記事、ファックス、手紙を集めたところスタイガーさんのオフィスに積み上げられた箱は、高さ60センチ以上、長さ約3メートル以上にもなったということです。
米国のメディア情報のおよそ70%は、PR会社や関連組織などから配信されたものをベースにしているといわれています。このスタイガーさんの試みからもPR会社や関連組織がメディアに対して積極的に情報発信している様子が窺えます。
私たちパブリック・リレーションズの実務家は、時として情報発信することに夢中になるあまり、情報の受け手であるジャーナリストの立場を忘れてしまうことがあります。彼らが情報の洪水の中で溺れることの無いように配慮しなければなりません。