パブリック・リレーションズ

2008.12.13

『体系パブリック・リレーションズ』を紐解く 7〜高等教育におけるパブリック・リレーションズ

こんにちは井之上喬です。
皆さんいかがお過ごしですか?

今週は、『体系パブリック・リレーションズ』Effective Public Relations (EPR)第9版の邦訳:ピアソン・エデュケーション)をご紹介します。EPRは米国で半世紀以上のロングセラーを記録するパブリック・リレーションズ(PR)のバイブル的な本。

今回は、第17章の「非営利団体(NPO)、業界団体、非政府団体(NGO)」(矢野充彦訳)の中から「高等教育」(546ページ)におけるパブリック・リレーションズについてお話します。

米国における単科大学や総合大学の入学者数は増加し続け、1500万人以上が在籍しているといわれています。日本では少子化による18歳人口の減少により、2007年に大学受験者数が募集定員と同数になり、受験希望者全員が大学に入学できる時代になったとされています。こうした状況の中で大学格差が拡がり、2008年度は定員割れを起こした私学が47.1%と報告され、生き残りを賭けた受験生の争奪戦が繰り広げられています。国立大学の運営費交付金も国家財政逼迫のなか削減の一途。いずれの大学も厳しい経営環境にあります。ここでは、米国の高等教育の中で、どのような問題が表面化していて、それらの問題とパブリック・リレーションズが本書の中でどのように関連づけられているか見ていきます。

パブリックへの教育を積極的に

米国の高等教育界が直面する問題は、概ね次の4つに絞られているようです。
(1)財政支援が不十分で不安定
(2)能力ある学生の獲得競争は熾烈でコストがかかる
(3)政府の制約や規制で大学運営は困難でコストがかかる
(4)学問の自由や身分は、内外の利害関係者から課題をつきつけられている

こうした問題に対して、全米独立大学協会(National Association of Independent Colleges and Universities)のパブリック・アフェアーズ担当バイス・プレジデント、ゲイル・レイマン氏のコメントを次のように載せている。「メディアが教育に関する報道を積極的に行っているように、我々もパブリックやオピニオン・リーダー対象の教育・啓蒙をもっと積極的に行う必要がある」。そして、本書では高等教育におけるパブリック・リレーションズの最終目標を達成するために以下のようにターゲット(パブリック)を明確にし、それらとの関係性の構築を重要視しています。

(1)学生

学生は大学にとって最も重要なパブリックであると同時に、最も重要な大学のパブリック・リレーションズ代表者である。

(2)職員とスタッフ

職員とスタッフは、教育と統治という重大な役割、そして外部の支持者に対する大学代表者としての役割をもち、重要な内部のパブリックでもある。

(3)校友会

校友会の寄付は、高等教育を自発的に支援する最も重要な資金源である。

(4)コミュニティ・グループとビジネス・リーダー

多くの大学は新たな相互利益関係を築くために、ビジネス関係者に働きかけている。

(5)政府

パブリック・リレーションズは、全レベルの政府機関の教育部門で理解と支持を得なければならない。

(6)メディア

積極的なメディアとの関係構築は、長期に渡って効果を生む投資である。大学には、学長や他の運営者、パブリック・インフォメーション事務局、学生の新聞やラジオ局、職員、運動部の監督やコーチなどさまざまな「スポークス・パーソン」がいるので、活用すべきである。

(7)保護者など

保護者は中心的支持者である。その他のパブリックは、将来見込める学生と保護者、現在と将来見込める寄付者、オピニオン・リーダー、慈善財団、世界中の姉妹校、専門組織や学会などである。

大学学長の果たす役割

また学長の果たすべき役割として本書は、コアとなるパブリックと対立する価値や要求をバランスよく保つため、効果的なコミュニケーターであり、まとめ役でなければならないことを強調しています。そして学長は、パブリック・リレーションズを必要とされる仕事の一部として認識しなければならないとしています。実際、マネジメント・チームの誰よりも、パブリック・リレーションズ担当者と頻繁に会っているようです。学長は新たなグローバル社会で高等教育に求められるミッションを果たすために必要なリレーションシップやパブリックの支持を確立する重要な鍵を握っており、学長を「学校全体を一番うまくアピールできる人」と、位置づけています。

本書では、米国の大学におけるパブリック・リレーションズのスタッフは教育現場で起こるさまざまな課題への対応や、銃撃犯罪や学生のアルコール・薬物乱用、セクシャルハラスメント、人種間の緊張、そして学部閉鎖などの「キャンパス危機」への対応の重要性についても指摘しています。

日本の大学でも、昨今、学生による薬物乱用やセクシャルハラスメントなど法律に触れる問題が増加傾向を示し、教育関係者を悩ませています。パブリック・リレーションズの問題と課題は山積しているといえます。

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