パブリック・リレーションズ
2007.06.15
世界を席巻するロンドン証券市場AIM〜PRのグローバル化にむけて
こんにちは、井之上喬です。
いいよいよ本格的な入梅の季節を迎えましたが、皆さん、いかがお過ごしですか。
世界の金融センター、ロンドン・シティ。いまそのシティの中核をなすロンドン証券取引所の新興企業向け市場AIM(オルタナティブ・インベストメント・マーケット)が世界の注目を集めています。AIMの時価総額は今年3月末時点で約25兆円。日本の3つの新興市場(ジャズダック、マザーズ、ヘラクレス)の時価総額の合計、約20兆円を大きく引き離しています。
昨年そのAIMに、私の経営するPR会社、井之上パブリック・リレーションズのクライアントが日本企業として初めて上場を果たしました。
資金調達もスピードとタイミングの時代
6月4日、東京で初めてAIM上場のためのセミナーが行われ、私も初めて上場を果たした企業の担当PR会社の責任者としてスピーカーに招かれ講演しました。定員70社の枠に170社以上の応募が殺到。セミナーの模様はNHKの夜9時のニュースや新聞、ビジネス誌でも取り上げられるなど、業界での加熱ぶりが伝えられました。
1995年創設のAIM最大の利点は、上場基準の緩やかさ。売上高や利益など過去のデータに基づく上場基準がなく、創業1年未満の企業でも上場可能。それを支えるユニークなシステムが「Nomad(Nominated Adviser)」という指定アドバイザー制度。アドバイザー役となる証券会社(Nomad)に責任を持たせ、Nomadが認めれば上場が可能となる制度です。
現在米国の証券市場は企業改革法などにより規制強化を強めており、世界の企業がAIM上場に向かうトレンドを後押しています。規制を嫌気するロシアや中国など新興国の企業、そして米国企業までもがAIMを目指しています。現在AIMには世界27カ国から1600社以上が上場。年間の資金調達額は300億ドルを超え、米国のナスダックの123億ドルを大幅に上回っています。
AIM創設の背景には、86年サッチャー政権が実施した英国証券市場の大改革「ビッグバン」があります。株式・債券の売買手数料の自由化や外資への取引会員権の開放など、市場に競争原理が導入され、徹底した規制緩和が実現。その結果、ロンドン市場に多くの外国金融機関、なかでも米国や欧州大陸の金融機関が参入し中心的な役割を担っています。
80年代のロンドン市場では、現在の日本のように外資参入に対する懸念が噴出していました。しかし英国金融業界はその状況を逆にチャンスとして捉え、環境整備に徹する形で市場を活性化し、牽引役として英国経済を長期的繁栄に導きました。
上場基準の低さだけで加熱しているように見えるAIM.。しかしAIMでは不祥事に際して担当証券会社(Nomad)へ課せられる罰則規定が厳しく、市場参加者の責任が法の下に追及される制度が整っています。そのため「AIM上場=将来の成長への信頼度向上」の図式が成立し、上場企業のブランド力を高める好循環を生み出しているといえます。
世界の複数都市でリアルタイムのPR
翻って、英国をお手本として96年より金融ビックバンを進めた日本の金融業界は停滞したまま。ライブドアショック以降、新興3市場は急落し安値を更新する銘柄もみられます。日本が金融市場として相対的にその地位を下落させているのは、罰則規定が甘く、投資家保護に気をとられ規制緩和が進まないことが原因といえます。
日本でも不正会計の不祥事を受けて、不正会計防止と投資家・株主保護を目的として、2006年6月に金融商品取引法が成立しました。しかし金融分野をはじめとしあらゆる分野でルール違反を犯した当事者への罰則規定は極めて不十分といえます。昨年の12月に表面化した日興コーディアルグループ不正会計問題や少し前の姉歯耐震強度偽装事件などの例を見ても明白です。
東京では、ロンドンのような国際金融都市を目指し、日本橋から東京証券取引所のある兜町をカバーするエリアに新しい金融街をつくる構想もあるようです。しかし日本の金融市場の再生は、ハード面だけでなく、法整備や市場参加者の倫理観など、ソフト面をどれだけ充実できるかにかかっているのではないでしょうか。
ソフト面を充実させる上でベースとなるのは、「人間の行動規範」ともいえるパブリック・リレーションズの概念、つまり倫理観、双方向性コミュニケーション、自己修正の3要素です。
資金調達もスピードとタイミングが鍵を握る時代。日本企業にはこれまで、まず国内の事業を固めてから世界へ事業拡大するという1つの構図がありましたが、インターネット時代の今日、ベンチャー企業でも最初から世界市場を視野に捉え事業展開できるようになりました。それに伴いPRの活動も必然的にグローバル化することを強いられています。PRの実務家にはこれらに対応できるスキルが要求されています。
日本企業初のAIM上場のケースでは、地元のPR会社と提携してロンドン、東京の2都市でリアルタイムのPRを実施しています。顧客企業が迅速にビジネス展開を行えるようPR会社として適切に対応しなければなりません。そのためには、常日頃、現地PR会社との提携を含めたグローバルな対応が即座に行える準備を整えておく必要があります。
日本経済は継続的な回復基調を続けるものの、日本企業にはいまひとつ活力溢れる力強さが見られません。日本経済の牽引役としてベンチャー企業の活躍を世界の舞台で支援するものPRパーソンの大きな役割です。
国際PRをおこなうPRパーソンに求められるのは、英語力、世界に通用する国際ビジネスの知識、国際的なメディアの知識、さまざまな人脈です。一人でも多くのPRパーソンが日頃からスキルを鍛錬し、世界を視座に競争力を発揮できる企業の育成に一翼を担える実務家として活躍することを願っています。