パブリック・リレーションズ

2007.06.08

PRパーソンの心得 9 戦略家(ストラテジスト)

こんにちは、井之上喬です。
皆さん、いかがお過ごしですか。

“Strategist(戦略家)”は、米国PR協会(PRSA)の会員向けの機関紙のタイトル。 毎日の活動の中で継続的に目標を達成するPRパーソンは、常に戦略を構想し、実行する能力と人間的な力量が求められます。そこで今回は「PRパーソンの心得 9 戦略家(ストラテジスト)」をお届けします。

戦略=パブリック・リレーションズ

『広辞苑』によれば「戦略」とは、「各種の戦闘を統合し、戦争を全局的に運用する方法」としています。その方法を実践に用いて成果を残すのが戦略家といえます。

中国最古の優れた兵書、「孫子の兵法」には天の時、地の利、人の和ということばがあります。つまり何か行動を起すときにはタイミングが重要で、合理的に己と敵そして環境を観察して戦略的に勝利(成果)を追求する方法が説かれていて、パブリック・リレーションズの専門家に強く求められる要素といえます。

一方日本では、二刀流を創設し兵法の道を説いた宮本武蔵が『五輪の書』で、兵法を学ぶ者の能力を9つ挙げています。

第1に、正しい道を志すこと。第2に、鍛錬すること。第3に、幅広く物事に触れること。第4に、さまざまな職業に必要となる資質や能力を知ること。第5に、物事の利害損失を知ること。第6に、鑑識眼をもつこと。第7に、洞察力を持つこと。第8に、細やかなところに気付く心。第9に、無駄なことをしないこと。

これまで、フランス革命(1789)後のフランスをまとめ帝政を築き、数々の戦いに勝利しヨーロッパを席巻したナポレノン・ボナパルトや勝海舟との政治交渉により江戸城無血開城の偉業を成し遂げた西郷隆盛など、天才的戦略家は数多く現れましたが、武蔵の示したこれらの能力はどれも、優れた戦略家に共通しているといえます。

このように戦略は、戦いに勝つための手法として発達しましたが、現在では経営論や人生論など様々な分野に応用されています。

私は少年時代から、心のどこかに「戦略家」という言葉が眠っているのを感じていました。初めて気付いたのは中学生の頃。私の義兄(一番上の姉の夫)の近い親戚に真珠湾攻撃で指揮をとった参謀がいたことを知りました。私はその参謀についての話を義兄から聞き、戦略がもつ大きな可能性に興奮し、強い好奇心をかきたてられました。

大学卒業後パブリック・リレーションズの世界に入り、ヤマハの当時の社長で中興の祖、川上源一さんに出会ったことで、少年の頃に感じた興奮が甦りました。彼は、絶妙のタイミングと采配でヤマハのビジネス基盤を強固に築き上げ全世界に展開した天才戦略家。その卓越した経営手腕と戦略家の持つ閃き、切れ味には驚嘆したものです。

彼の経営手法は、様々なリレーションズを構築・維持しながら全てを統合し目標を達成するパブリック・リレーションズそのものだったのです。

こうして私がこの世界でストラテジスト(戦略家)を志し、PRの仕事に没頭していた80年代初頭、日米通信摩擦が激化するなかで高崎望さんに出会いました。高崎さんは日本の通信政策の実質的なドラフトを描いた人で、彼の飛びぬけた才能は、常に全方位を見ながら潮目を読んで臨機応変に対応する力と目標達成のためには昼夜を問わず集中を持続させる並外れた体力と精神力にありました。

21世紀の戦略は平和の道具

戦略を構想し実行するプロセスはPRのライフサイクルモデルに当てはめることができます。

まず、孫子が「彼(敵)を知り己(自ら)を知れば、勝乃(すなわ)ち殆(あや)うからず、地(環境)を知り天(天の巡り)をしれば、勝乃ち窮せず」と説くように、現状分析を徹底的に行います。そして人・モノ・カネ・情報・時間といった利用可能なリソース、市場環境、クライアントや所属組織の強みと弱みなどを把握。その情報を基に明確な目標を掲げ、ターゲットを設定します。そして自らの強みを生かしながら目的達成を実現するメカニズムを見極め、戦略を描いていきます。

戦略を構想する上で大切なのは統合力シナリオ作成能力。取り巻く環境の変化やリスクなどを全て考慮し、因果関係に基づいて慎重に未来を予測。設定したターゲットとの双方向性コミュニケーションを通して、自己満足に陥らない相手の視点を考慮した戦略立案が重要です。

戦略の実行においては戦略家の人間的な力量がその結果に大きく作用します。その力はリーダーシップに必要な能力と重なります。状況変化に対応しリアルタイムで戦略を自ら軌道修正できるフレキビリティとスピード、行動力。また、戦略遂行の推進力となるポジティブ思考と集中力も不可欠です。

そして理想主義に基づく徹底した現実主義であること。70年代後半から80年代にインテル社やアップル社などのベンチャー企業と関わりましたが、これらの経営者は壮大な夢と状況を客観的に把握する冷徹な目を同時に持っていました。日本人は情緒的になりがち。なかなか優れた戦略家を輩出できないのも、ここに原因があるかもしれません。

戦いに勝つ戦法として発達した戦略。しかし2500年前に著された「孫子の兵法」には、最良の勝利の形は戦わずして勝つこと。互いの納得の上で平和裏に問題を解決することの重要性が既に説かれています。

現在65億もの人口を抱える地球。情報が飛び交い人々の価値観が多種多様化する中、もはや勝ち負けという単純な問題の解決法では機能しなくなりました。紛争が絶えず環境破壊で地球の生命さえ危ぶまれる時代に生きるPRパーソンは、継続的に問題解決に取り組む戦略的なソリューションの提供者でなければなりません。PRを実践する私たちはストラテジストとして、戦略を平和的な目的達成のために使わなければならないと心に深く刻み行動しなければならないのです。

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