アカデミック活動
2006.09.29
光り輝くサンディエゴ:名著エフェクティブ・パブリックリレーションズの著者を訪ねて
最後の著者、グレン・ブルーム
ワシントンDCから飛行機で半日、アメリカ西海岸の南に位置するサンディゴに入りました。スコット・カトリップ(Scott Cutlip)とアラン・センター(allen Center)により1952年に初版が発行され、現在第9版まで半世紀以上にわたって出版を続けるパブリック・リレーションズの名著、Effective Public Relationsの3人目の著者、グレン・ブルーム(Dr. Glen Broom)を訪ねるためです。
彼は、1885年に発刊された第6版から執筆に参加。カトリップ(2000年没)とセンター(2005年没)亡き後、最後に残された著者として2人の遺志を引き継ぎPRの研究に取り組んでいるリサーチャーです。
ブルームはジェームス・グルーニッグと同様、カトリップの指導の下ウィスコンシン大学でマスコミュニケーションのPh.D.を取得。長年サンディエゴ州立大学で教授としてコミュニケーションを教え、現在は同大学の名誉教授で、3年前からオーストラリア、ブリスベンにあるクィーンズランド工科大学の客員教授も務めています。今回は、前日にオーストラリアからの長旅で、帰国したばかりであったにもかかわらず、時差ぼけをよそに真剣に議論してくれました。
一方、ブルームと共に会ってくれたデービッド・ドージア(Dr. David Dozier)は、グルーニッグ夫妻他の共著による3部作、Excellence in Public Relations( 1992、1995、2002 )の著者の一人。ブルームとも共著本の執筆や共同研究を行うなど、企業におけるパブリック・リレーションズの研究に積極的に取り組んでいるリサーチャーです。彼は、スタンフォード大学でジャーナリズムのPh.D.を取得。現在はサンディゴ州立大学の教授として、ジャーナリズムやパブリック・リレーションズを教えています。
今回はサンディゴの海沿いにある街、ラホーヤで心地よい海風に吹かれながらの会合。3人でパブリック・リレーションズに関する様々な話題を語りあい、瞬く間に時間が過ぎていきました。
米国におけるPRのスタンスと問題点
米国では80年代くらいから、PR実践の場でもパブリックと同様に組織体も変容していく対称性の双方向コミュニケーションが主流になってきています。しかし、これまでのPR教育はジャーナリズムに偏った傾向があり、パブリックへメッセージを伝える訓練をしてきた人々が実務家やリサーチャーにも多いとのこと。したがって、フィードバックを通して組織体が変容する必要性を認識していても、行動が伴わないという問題が起きているということでした。
私の自己修正論に話が及ぶと、2人とも、「自己修正(Self-Correction)」という言葉は他の分野で耳にしたことがあるものの、自己修正が パブリック・リレーションズにおけるモデルとして統合的に言及されているものには出会ったことはないとのことでした。 最近の米国での研究は、組織体でのPR導入が進んでいることも影響し、 組織体における活動の効果測定に関するものが主流であるとのことでした。
彼らが自己修正論に関心を持ったのは、オットー・ラビンジャーやジェームス・グルーニッグと同様、このモデルが倫理観をベースにした自己修正の概念である点と個人や組織体にも対応できる自己修正モデルのもつ普遍性でした。
ブルームさんからは、2007年発行予定のエフェクティブ・パブリック・リレーションズ第10版に、私の自己修正論を紹介したいと執筆の依頼を受けました。
サンディエゴ滞在中に、カルフォルニア大学サンディエゴ校の図書館を訪れ、関連資料を調査。外部の人でも自由に入館し書籍を閲覧できる、開放的な雰囲気と、全ての書籍をコンピューター検索できる効率性や宇宙ステーションを思わせる斬新なデザインとそのビルの巨大さが何よりも印象的でした。
今回、ボストン、ワシントンDC、サンディエゴの3都市を訪れ、6人の学者にお会いしました。彼らとの意見交換を通して、長年PRの研究に取り組んできたそれぞれの想いや、彼らの研究に対する真摯な姿勢に深く感銘を受けました。
そして、心強く感じたことは、各人が私の提唱する自己修正モデルに学問的な関心を寄せてくれたことです。このモデルが、アメリカでも通用する理論であるとの感触を得られたのも大きな収穫だったと思います。
プライベートで嬉しかったことは、ワシントンDCで早稲田大学から交換留学生としてこの9月から、アメリカン大学に1年間滞在している、私の教え子第2期生、藤牧君に会ったことです。米国でPRをしっかり学びたいと、希望に燃える彼の元気な顔を見ることができました。
それにしても最近の米国は随分変わったように感じます。携帯電話の普及やテロの影響でしょうか、人々の表情に余裕がなく、他人への気使いがなくなってきたようにみえます。
こうして2週間にわたる、パブリック・リレーションズ登場・発展の地、米国でのフィールドサーベイは終了。
世界はますます複雑・多様化の方向へ向かっています。今回の旅で、従来型の経済発展モデルとは異なる新しい、多様性を抱合できる共生型のモデルが求められている――そんな感触を得ました。
ここで得た成果をもとに、一日も早く論文を完成させなければと高ぶる気持ちを抑えながら、米国を後にしました。